<THE TOKYO TOILETプロジェクト>記者発表会:ヴィム・ヴェンダース(映画監督)、役所広司(俳優)、安藤忠雄(建築家)、長谷部健(渋谷区長)、柳井康治(プロジェクトオーナー)、高崎卓馬(クリエイティブディレクター)
世界的に活躍する16名の建築家やクリエイターがそれぞれの個性を発揮して、2020年から東京都渋谷区内17ヶ所の公共トイレを新たなデザインで改修するという<THE TOKYO TOILET プロジェクト>。このたび、ドイツ出身のヴィム・ヴェンダース監督が本プロジェクトの趣旨と社会的意義に賛同し、渋谷を舞台にした映画を撮影することが決定しました。2022年5月11日に本企画の記者発表会が行われ、ヴィム・ヴェンダース監督、俳優の役所広司をはじめ、安藤忠雄(建築家)、長谷部健(渋谷区長)、柳井康治(プロジェクトオーナー)、高崎卓馬(クリエイティブディレクター)らが登壇しました。
まず、本企画の発案者でもある柳井康治は、発案当時を振り返り、「オリンピックのタイミングで海外からいろいろな方がやって来ることを想定していた時に、“東京は良い街だな”“日本は良い国だな”と思ってもらうためには、老若男女問わず誰もが行く場所がとても快適で心地良かったら、日本や東京の配慮が素敵に映るのではないかと思いました。特に渋谷区は国立競技場もあり、オリンピックのメインになることもわかっていたので、そういった場所で多くの方に体験いただきたいと思い、本プロジェクトを発案しました」と語りました。
クリエイティブディレクターを務めた高崎卓馬は、「このプロジェクトが立ち上がり、実際にいくつかのトイレが完成してから、柳井さんにお声をかけていただきました。最初はできあがった素晴らしいトイレをどう管理し、維持していくのか、そのためには使う人の意識をどれだけポジティブなものにできるのかという意識変化ができないかと考えていました。2人でずっとアイデアを出し合っていくなかで、人の意識や価値観を変えるのはアートの力だという考えにたどり着き、アートの力を使ってこのプロジェクトにプラスになることをしたいと考えました。ディスカッションをしていくなかで今日ご紹介するヴィム・ヴェンダース監督の名前が挙がり、その瞬間に“これしかない”と思いました。それから監督宛に熱意を込めた手紙を書かせていただき、監督からクリスマス休暇前に“I’m in.”とお返事をいただいたことで、このプロジェクトが加速していきました」と、ヴィム・ヴェンダース監督起用の裏話を明かしました。さらに続けて、「監督とも相談し、日々トイレのメンテナンスをしている清掃員の方を主人公にしたアートフィルムを作ることを核に据えました。その清掃員の主人公は、日本を代表する俳優の役所広司さんにお願いすることを決めて、役所さんにも快諾いただきました。映画の内容はまだ決まっておらず、現在シナリオハンティングをしている最中なのですが、とてもポジティブな力が集まってプロジェクトが動いています」と語りました。
その後、ヴィム・ヴェンダース監督と役所広司が登場!ヴィム・ヴェンダース監督は「この場にいられること、素晴らしい勇敢な方々と席を連ねていることを大変光栄に思います。最初にお手紙をいただいた時は最高のクリスマスプレゼントだと思いました。東京にはしばらく来られなかったので早く行きたいと思いながら10年くらい経ってしまったのですが、こうして来日でき、この場にいられることにワクワクしています」と挨拶しました。役所広司は、「まずこの場に立てることを本当に幸せに思っています。柳井さんの発想から生まれた“THE TOKYO TOILET”を舞台にヴィム・ヴェンダース監督が映画を撮る。これだけ聞いてこの作品を断る俳優は恐らくいないと思います。今回は、これまでもヴェンダース監督がやられていた撮影の手法で映画を仕上げていくのだと思っています。ヴェンダース監督の作品に自分が参加できるとは、俳優になって40年頑張ってこの業界にしがみついていて良かったなと思います。素晴らしいご褒美をいただいたような気がします。何とかこの映画で世界中の観客に日本という国を紹介できたら良いなと思っています」とコメントしました。
続いて、「今回のアートプロジェクトではどんな作品を作ろうとお考えですか?」と問われると、監督は「これは僕にとっても大きなチャレンジになります。最初にオファーをいただいた時のリアクションは“え…!?トイレ?”というものでした(笑)。そこから魔法のようにこの企画が開かれたように感じました。僕が敬愛する建築家の方も関わっていて、そのお1人が安藤忠雄先生なわけですが、この企画に関わることで社会的に意義のあるもの、都市として意義のあるもの、街の中にある特別な場所に対して何かできること、そして役所広司さんという素晴らしい俳優と共に自由に物語を綴ることができるなんて…と、僕にとってどんどん素晴らしい企画になっていきました。トイレというのは英語では“restroom”と言い、“rest=休む場所”という意味を持っているのですが、自分の中ではトイレは休まる場所なんだと思いました。実際に今回の“THE TOKYO TOILET”を見せていただいた時に真の意味でこれは“休める空間”だと感じましたし、それについての物語を何章かに渡って綴りたいと考えました」と、これから製作する映画について明かしました。また、役所広司という俳優の魅力について問われると、監督は「役所さんの出演する作品を多く拝見していますが、どの作品でもすべて彼自身でありながら全く異なるキャラクターを演じているんです。初めて役所さんの作品を観たのは『Shall we ダンス?』か『バベル』だったと思いますが、すぐに役者さんとして好ましく思いました。実は僕は好きではない役者さんとは仕事ができないのですが、役所さんの場合は最初からすごく好きになりましたし、たとえ悪い刑事を演じていてもすごく良いなと僕は惹かれるので、なぜ僕がこんなに役所さんを好きなのかということを知るためにも一緒に仕事をしたいと思いました」と話しました。
本作の意気込みを聞かれた役所広司は、「まずは今回の作品で監督に嫌われないようにしたいと思います(笑)。先ほど楽屋でキャラクターの話を聞きました。トイレという場所を舞台に365日休まず、1日3回トイレの清掃をする男なのですが、とても美しい物語になる予感がしました。トイレという舞台からそこで働く人間、トイレを利用する人達を通して、日本人というものを理解してもらえる物語になるのかなと思います」と語りました。
そして、建築家の安藤忠雄は本プロジェクトについて、「最初に柳井さんとお会いした時に“何か意義のあることをしたい”と言われたので、“賛成”と言ったら“まだ何も言ってませんけど”と言われました(笑)。話を聞いているうちに、“渋谷の公衆トイレを作りたい”“美しいトイレを通して日本の美意識を世界に発信したい”と言われたので良いなと思いました」と明かしました。自身が手掛けたトイレについては、「我々が手掛けたトイレは円形なのですが、地球が美しくありたいと思うように、小さいトイレから美しい地球、美しい日本というものが見えると思い、設計させていただきました」とコメントしました。その他にもヴィム・ヴェンダース監督が安藤忠雄との出会いを語る場面や、監督になっていなかったら建築家になっていたかもしれないというエピソードも明かすなど、終始和やかな記者会見となりました。
<THE TOKYO TOILETプロジェクト>のトイレについては、会見前に1箇所だけ見学させていただいたのですが、一見トイレとは思えないくらいオシャレな建物で、実際の利用者も心地良く使用している様子でした。「こんなに立派でオシャレなトイレだと、いたずらをされないのかな?」と心配になりますが、清掃員の方が徹底して掃除をされていて、建築から2年経った現在も綺麗な状態を保っているそうです。今回見学したトイレも含め現在12箇所が完成しているそうなので、渋谷に行った際にはぜひ見つけてみてください。
錚々たるメンバーが集まり、トイレにここまで情熱をかけ、映画まで製作されることに最初は驚きましたが、今回のお話を聞いていてトイレはとても可能性のある場所だと感じました。そんなトイレを舞台にした映画が一体どんな作品として完成するのか、楽しみに待ちましょう!
<THE TOKYO TOILETプロジェクト>:
2022年5月11日取材 PHOTO&TEXT by Shamy
<THE TOKYO TOILETプロジェクト>
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