今回も前回に引き続き、2023年邦画ベストの投票で得たデータをもとにした分析を行いました。相関分析です。どんな組合せに強い相関が見えたのでしょうか。
※説明が専門的になってしまう部分がありますので、ざっくりとした結果が知りたい方は、「まとめ」をご覧ください。
※データや方法については最後に記載しています。
50作品の相関分析を行った結果、中程度以上の相関を示した組合せはかなり多く、ここでは載せきれないため、Table3には,強い相関の目安として相関係数が0.50以上の組合せを、相関係数が大きいものから順に並べています。
ちなみに、普段映画を選ぶ際に出演者、監督をどの程度参考にするかという参考度もそれぞれ分析の対象としましたが、出演者の参考度、監督の参考度ともに、一部弱い相関、わずかな相関で有意となった作品があったものの、中程度以上の相関で有意となった作品はありませんでした。映画鑑賞頻度との相関については、後半で触れます。
何が強い相関の要因になっているか、いくつかピックアップして検討してみます。
『市子』『せかいのおきく』はどうでしょうか。いきなり難しい組合せです(汗)。ただ、時代背景も内容も異なるとはいえ、世界観、トーンは何となく共通するものを感じます。杉咲花が演じる主人公、黒木華が演じる主人公とも何らかの苦労を背負っているという共通点もあります。
『ほかげ』と『せかいのおきく』はそれぞれの時代を象徴する物語であるという共通点、苦境でもがくキャラクター達という共通点があり、比較的解釈しやすい印象です。『世界の終わりから』『Winny』には、ネット社会が関与していて、現代社会の生きづらさを描いているという共通点があります。
『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』と『アナログ』は、切なさのあるロマンチックでドラマチックなラブストーリーとなっている点で共通しています。
『山女』と『アイスクリームフィーバー』はどうでしょう。この2作品は醸し出しているイメージに差があります。キャストのファンの年齢層が関係しているようにも考えられるものの、改めて他にも想定される要因を挙げて別の分析を含めるともう少し見えてくるものがありそうです。
ざっと見渡してみると、どの作品もどことなく孤独感が漂っています。そして、キャラクターが孤独と向き合い、闘う現実的なストーリーが多く含まれています。こうした要素にさらに複数の要因が絡み合って、それぞれに強い相関が出ていると考えられます。
では、映画鑑賞頻度と作品の相関も見てみましょう。
各作品と映画鑑賞頻度の相関分析で中程度以上の相関が出たものだけをTable4にまとめました。言い換えると、配信やレンタル等での映画鑑賞頻度と作品との間には中程度以上の相関が出ませんでした。つまり、Table4に挙げている作品に関しては、映画館での映画鑑賞頻度が投票での評価に影響をもたらしたといえます。正の相関なので、映画鑑賞頻度が高いほど、これらの作品に得点を高くつけた(=好感度が高い)ことになります。
要するに、Table4に挙げている作品は映画館での鑑賞頻度が高い映画ファンに好まれる傾向があるといえます。一部敬遠されがちな歴史もの、戦争ものが多く含まれている点でも、映画を観慣れているユーザーには抵抗が少なく、逆にいえば、映画館で観る価値をより感じられるジャンルといえます。必ずしも超大作ばかりではない点では、骨太な映画、重厚感のある作品に定評のある監督が手掛けていることで、上映規模の大小にかかわらず、“目利き”に好まれたといえそうです。
Table4に挙げた作品と監督の参考度との相関
- 『首』(r=0.188,p<0.1) 監督:北野武
- 『Winny』(r=0.165,p<0.1) 監督:松本優作
- 『市子』(r=0.188,p<0.1) 監督:戸田彬弘
- 『ファミリア』(r=0.175,p<0.1) 監督:成島出
- 『ほつれる』(r=0.160,p<0.1) 監督:加藤拓也
- 『せかいのおきく』(r=0.173,p<0.1) 監督:阪本順治
- 『ゴジラ-1.0』(r=0.169,p<0.1) 監督:山崎貴
- 『ほかげ』(r=0.196,p<0.1) 監督:塚本晋地
- 『愛にイナズマ』(r=0.188,p<0.1) 監督:石井裕也
- 『波紋』(r=0.167,p<0.1) 監督:荻上直子
- 『怪物』(r=0.281,p<0.1) 監督:是枝裕和
- 『エゴイスト』(r=0.208,p<0.1) 監督:松永大司
- 『ロストケア』(r=0.129,p<0.5) 監督:前田哲
- 『リボルバーリリー』(r=0.113,p<0.5) 監督:行定勲
※rは相関係数です。帰無仮説の有意水準:0.05(=5%)で、pが0.5以下の場合有意としています。
このように、どの作品も監督の参考度と弱い相関で有意でした。また、映画館での鑑賞頻度と監督の参考度も(r=0.224,p<0.1)だったことから、映画館で映画を観る頻度が高い映画ファンは、監督で映画を選ぶ傾向があるといえます。ちなみに、監督の参考度と出演者の参考度は(r=0.209,p<0.1)で弱い相関で有意でした。一方で、映画館での鑑賞頻度と出演者の参考度の相関は(r=0.042)で有意差がありませんでした。よって、監督で映画を選ぶ映画ファンは出演者で映画を選ぶ傾向にあるとしても、映画館で観るかどうかは出演者よりも監督のほうが決め手となる可能性が高いと考えられます。
ただし、「まったく参考にしない」0点から「とても参考にする」4点のうちから選択された出演者の参考度の平均は2.967、標準偏差は0.979、監督の参考度の平均は2.03、標準偏差は1.232です。このことから、回答者全体で見た場合は、平均の高さから出演者の参考度のほうが高いことがわかります。一方、標準偏差からは、監督の参考度には幅があることがうかがえます。
まとめ
- 2023邦画ベスト50作品を相関分析した結果、孤独なキャラクターの現実的な姿を描いた作品同士に強い相関が見られた。
- 映画館での鑑賞頻度と中程度以上の相関がある作品からは、監督の参考度との相関も踏まえると、映画館で見応えのある作品かどうかを監督で選んでいる傾向が示唆された。
データ:映画研究4:映画好きが選ぶ2023邦画ベスト
回答期間:2023/12/25〜2024/01/30
回答数:10代を含む367名の女性
<方法>
アンケートの中で下記の問いに対して、以下の選択肢で答えていただきました。
Q:それぞれの作品について、該当する項目にチェックを入れてください
5点=観た上でとても好き
4点=観た上でやや好き
3点=観た上でふつう
2点=観た上であまり好きではない
1点=観た上でまったく好きではない
0点=観ていない
Q:観る邦画を選ぶ際に、出演者をどの程度参考にしますか?
Q:観る邦画を選ぶ際に、監督をどの程度参考にしますか?
0:まったく参考にしない
1:あまり参考にしない
2:どちらともいえない
3:まあまあ参考にする
4:とても参考にする
Q:映画館で映画を観る頻度は?(試写会を除く)
Q:配信やDVDレンタル等(映画館以外)で映画を観る頻度は?(オンライン試写会を除く)
年に1回程度/半年に1回程度/月に1回程度/週に1回程度/週に3回以上
※上記の頻度を「月に1回程度」を基準の1として他も数値化し分析
上記の回答データをもとに、相関分析を行いました。
※帰無仮説の有意水準:0.05(=5%)
※効果量の参考文献:水本篤,竹内理(2008)「研究論文における効果量の報告のために―基礎的概念と注意点―」英語教育研究,31:57-66
※jsSTAR XR+を使った分析
注目の作品
『ゴジラ-1.0』
劇場公開中
監督:山崎貴
出演:神木隆之介/浜辺美波/山田裕貴/青木崇高/吉岡秀隆/安藤サクラ/佐々木蔵之介
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
© 2023 TOHO CO., LTD.
『世界の終わりから』
Netflix、U-NEXTにて配信中
監督・原作・脚本:紀里谷和明
出演:伊東蒼/毎熊克哉/朝比奈彩/増田光桜/岩井俊二/市川由衣/又吉直樹/冨永愛/高橋克典/北村一輝/夏木マリ
©2023 KIRIYA PICTURES
TEXT & ANALYSIS by Myson(武内三穂)
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情報は2024年4月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。