大石圭による傑作サスペンスを韓国で再映画化した『アンダー・ユア・ベッド』。今回は本作で韓国デビューを飾ったSABU監督にお話を伺いました。海外作品へ挑戦する理由、画作りについて、オリジナル作品へのこだわりなど、赤裸々に語っていただきました。
<PROFILE>
SABU(さぶ):監督
1964年11月18日生まれ。俳優としては本名の「田中博行」、監督としては「SABU」という名で活動中。1986年、森田芳光監督作『そろばんずく』で俳優デビューを飾る。その後、役者として活動しながら、初監督作品『弾丸ランナー』(1991)で横浜映画祭最優秀新人監督賞を受賞。以降『ポストマン・ブルース』(1997)、『アンラッキー・モンキー』(1998)などを手掛け、『MONDAY』(2000)で第50回ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞。その他の主な監督作品に『うさぎドロップ』(2012)、『天の茶助』(2016)、『砕け散るところを見せてあげる』(2020)などがあり、2024年『アンダー・ユア・ベッド』で韓国映画デビューを飾る。
主人公達3人の物語として、4対3の画角がちょうど集中できると思いました
記者A:
まずは本作に携わることになったきっかけを教えてください。
SABU監督:
一昨年の3月頃に次の作品をどうしようかと考えていて、海外でやりたいと思っていました。それで知り合いのプロデューサーに中国やアメリカではどうかと相談していた頃、たまたま『Miss ZOMBIE』の韓国での権利を買ってくれた配給会社からメールがあり、新作の監督をやってくれませんかと連絡をいただいたのがきっかけです。
記者A:
次の作品を海外でというのはどういった心境からだったのでしょうか?
SABU監督:
日本でオリジナル作品を撮ることがなかなか難しいと思っていました。今はほとんどが原作ものですし、オリジナルの脚本がおもしろくてもなかなか進まないのが現状です。でも、海外ならオリジナルを喜んでくれる方が多く、個人的にも映画祭などで知り合った方が多かったので、そういったことも含めて海外進出したいと考えていました。そんな時にこのお話をいただいたので、これだと思いました。
記者A:
韓国作品はバイオレンス描写などをギリギリまで突き詰めている印象なので、そういった意味では監督の作風とも合っているように感じます。
SABU監督:
日本ではそういった激しい描写を切らなければならないこともありますが、韓国はその辺が突き抜けていますよね。ただ、時代的にMeeToo運動なども活発になっているので、正直今この作品を出して大丈夫なのかという心配もありました。
結果としては、プロデューサーからメインキャラクター3人の話にしたいと要望をいただきました。それに僕は、あまり落ち込むタイプの映画が好きではないんです。だから、お客さんが劇場を出る時に少しでも気持ちが上がっている作品にしたいと考えました。韓国はわりとバッドエンドの作品も多いですが、僕としてはそういう作品があまり好きではないので、キャラクター達をただの悪者にはしたくなかったんです。だから、それぞれ何かしらの影響があって、そういう人物になったという設定に変えさせていただきました。
記者B:
監督は当初オリジナル作品を海外で出すことを考えていたということですが、本作は原作のある作品でした。今回敢えて原作ものをやろうと思ったのは、この作品のどんなところに魅力を感じたからでしょうか?
SABU監督:
今回はオファーをいただいたので、受けた以上はやりたいと思いました。それに、この作品なら普段できないことができると思ったんです。画角を4対3にしたり、できるだけアート色を強くしたいと思いました。それから、今はすごく動きが早く、展開ばかりの作品が多くありますよね。僕はシネスコが大好きだったのですが、今はスマホで観るために横長の画角の作品が多くなっています。でも、今回は主人公達3人の物語として、4対3の画がちょうど集中できると思いました。僕は日本画などに用いられる余白がすごく好きで、その余白に観客の想像力が働き、絵が完成すると思うんです。そういう余白が4対3の画角により作り出すことができると感じ、今回試したいと思いました。
記者B:
確かに最初のカットから画の素晴らしさに引き込まれました。そのこだわりの画はどのように作っていったのでしょうか?
SABU監督:
今回は役者の方々が韓国人で、僕自身現場ではセリフがわからなかったので、とにかく画に集中するようにしました。スタッフは韓国語で話していましたが、僕は待っているいしかなく、それが逆に良かったと思います。役者の方に気を遣って話し掛ける必要もないので、本当に画だけに集中していました。その代わり今回は絵コンテを細かくしっかり描いたので、ほぼコンテ通りに撮影が進みました。
記者B:
端正な画作りというのはカメラマンさんの力だったのでしょうか?
SABU監督:
そうですね。僕はこの作品を撮る前に『イーダ』というモノクロの作品を観て、それがすごく好きだったので、カメラマンにも観て欲しいと言いました。そしたら彼も何度も観るくらい気に入ってくれました。実は当初この作品はモノクロの予定で、現場でもずっとモノクロで確認していました。でも、最終的にはプロデューサーが、モノクロだとお客さんにとっては入りづらいのではということでカラーになりました。カラーにもすごくこだわっていて、通常日本でのグレーディングは3日くらいしかできないところを今回は2ヶ月近くかけています。
シャミ:
本作は3人のキャラクターをメインに物語がシンプルに構成されており、すごく没入感のある作品だと感じました。登場人物達を描く上で、監督が特に気をつけた点はどんな部分でしょうか?
SABU監督:
嘘くさくならないことが大事だと思いました。主人公のジフンを演じたイ・ジフンさんはとても芝居が上手い方で、ベッドの下にいる場面では我慢して辛そうな表情をしてくださったのですが、そういう部分は全部編集でなくしました。それはなぜかというと、ジフンができるだけ不気味な存在でないと意味がないと思ったからです。それは現場で本人にも伝えましたが、カメラを長く回していると、どうしても何か芝居をしなくてはと思うんです。だから現場ではなるべく芝居を頑張らずに抑えるように話しました。
シャミ:
その効果もあってか、ジフンには終始絶妙な不気味さが漂っていたように思います。
SABU監督:
ありがとうございます。照明の方もどうしてもベッドの下にライトを当てたくなるみたいで、それも全部やめてもらって、できるだけ暗くしてジフンが見えなくても良いと伝えました。
シャミ:
そうやって引き算の作業をされたんですね。では、今回韓国で初めて現場を経験されてみて、日本と1番違った点はどんな点でしょうか?
SABU監督:
12時間労働と決まっているところです。12時間を越えると、たとえ残り2、3カット残していても終わるんです。でも、カメラマンや照明、美術の方は、もう一度現場を再現するのが大変なので、本当は撮ってしまいたいんですよ。でも、助手はすぐに帰っていました(笑)。
シャミ:
その辺は日本と大きく違う点ですね。そういった経験を経て、今後日本で撮影する時に取り入れたいと感じた点は何かありますか?
SABU監督:
韓国では大きく美術という括りがあるようです。美術監督がトップにいて、衣裳なども含めてすべて美術なんです。日本では美打ちという打ち合わせをするのですが、韓国ではその時に美術監督が全部説明してくれるんです。このカーテンを使うからこの衣装でとか、その場で一緒に話し合うので、それはすごく良いなと思いました。
あとはエキストラ指導の方が2人来て、エキストラの方に全部動きを付けてくれるんです。それがとても上手でした。エキストラは皆さん役者を目指している方達なので、指示があるとすぐに変えてくれるので撮影もスムーズでした。
シャミ:
日本の場合はエキストラの方の演出も監督がされるのでしょうか?
SABU監督:
日本の場合は助監督がしています。でも、どこかで見たことがあるような芝居ばかり付けるんですよ。歩くにしても、皆が目的を持たずに歩くから歩き方が変なんです。それを直すのがすごく大変なので、プロの方がいるとすごく安心でありがたいなと思います。
役者の方が走ることで芝居を越えるような感覚があります
シャミ:
過去作も含め監督の作品では、登場人物が走るシーンがたびたび登場し、監督作品のトレードマークにもなっています。監督ご自身は意識的に毎度走るシーンを入れるようにしているのでしょうか?
SABU監督:
こうやって聞かれることが多いので入れるようにしています(笑)。でも、本当にやっていくうちにこうなったという感じです。「今回も走っていましたね」と世界中で言われます。でも、僕としては実は走るシーンの撮影はそんなに好きではないんです。俳優さん達が怪我をしそうで怖くて。もちろんスタッフの方が路地から人が出てこないようにしっかりやってくれますが、撮影する時はいつも緊張します。
シャミ:
確かに路上での全力疾走は何が起こるかわからないですもんね。作品ごとに違うかもしれませんが、走るシーンを入れることで期待している効果は何かありますか?
SABU監督:
役者の方が走ることで芝居を越えるような感覚があります。走るとどんどんしんどくなり、表情も変わるので、そこに魅力を感じます。普段なら走ること自体あまりないですよね。でも、映画の中で走る場面が出てくると、どこか気持ちも乗るような気がするので、そういう意味では走るシーンが大好きです。
シャミ:
今回の走るシーンもすごく際立っていて、印象的な場面になっていました。作品の話から変わりますが、監督が映画のお仕事を志したのはいつ頃だったのでしょうか?
SABU監督:
僕は元々バンドをやりたくて、20歳の時に上京しました。でも、1人だったこともあり上手くいかず、たまたま役者事務所に入れたので、それで役者をやってみようと思いました。当時はビデオショップが流行っていたので、片っ端から映画を観て勉強していくうちにおもしろいと思うようになりました。
シャミ:
最初はバンドマン志望だったんですね!俳優活動をされていくなかで、監督のお仕事にも興味を持ったのでしょうか?
SABU監督:
当時はVシネマが流行り出していたのですが、人に言えないようなタイトルの作品に出るのが嫌だったんです。それで脚本を読んだら、こういう本なら僕にも書けそうだなと思い、書いてみたら本当に書けたんです。なので、最初は脚本だけ提供して僕は3番手くらいの役で出て、そのうち良い役を掴もうと思っていました。でも、プロデューサーから「書いた本人が監督したほうが良い」と言われ、監督もやってみることになりました。
シャミ:
導かれるような流れがあったんですね。ちなみにバンドのほうはその後やっていないのでしょうか?
SABU監督:
映画は結局総合芸術ですし、音楽もできるので楽しいんです。
シャミ:
音楽の夢も叶ったということですね!あと、今は俳優の方々が監督を務めて短編映画を撮るという企画が複数出てきました。監督はこうした動きの背景にはどのようなことがあると思いますか?
SABU監督:
僕の場合、脚本はオリジナルで書いていますが、そんなに簡単に映画はできないですよね。原作ものはハードルをいっぱい越えて出ているものなので、プロデューサーとしてやっぱり安心感があると思うんです。たぶんそういう意味では、役者さんが監督をすることも単純に企画なのかなと思います。だから僕としては、それによって何かが変わることはないと思います。
シャミ:
なるほど〜。では、監督にとってオリジナル作品の1番の魅力はどんな点だと思いますか?
SABU監督:
やっぱり物語を作ること自体がおもしろいですし、いろいろな映画を観てはないものを探して、何か見つけた時の感覚が良いんです。例えば『弾丸ランナー』なら、ずっと走っているという話で、『MONDAY マンデイ』という作品なら、お酒を飲んで記憶がないのを取り戻していく話というように、おもしろいと思えるものが見つかった時は本当に楽しいです。自分でコンスタントにやっていくのはやっぱりオリジナルのほうが自分で書けるので良いなと思います。
シャミ:
映画業界でお仕事を続けていくなかで、昔と今とで1番変わったと感じることは何かありますか?
SABU監督:
昔は単館があったので、特殊な映画も観られたのですが、今はシネコンになってしまったので、そこに入り込むのはなかなか大変な時代なんです。それにやっぱり原作があってある程度売れたもの、そこに売れている俳優さんを使うことが主流なので、そういう点は全然違います。そういう意味では昔はプロデューサーの方と映画の話ができましたけど、今はあまり話ができないような気がします。やっぱり原作があると保証があるので、それでやっている方が多いと思います。
シャミ:
だからこそオリジナル作品を出すことがより難しい時代なんですね。
SABU監督:
そうですね。黒澤明監督の『生きる』という作品がありますが、その冒頭は主人公の「この人間はもう死んでいる」というナレーションで始まるんです。まさに映画業界もそれと同じで、もう死んでしまっているのかなと思うことがあります。何か工夫とか知恵とかが出てきたら良いなと思います。
シャミ:
もっと良い方向に変わると良いですね。では最後の質問です。これまでで1番影響を受けた作品、もしくは俳優や監督など人物がいらっしゃったら教えてください。
SABU監督:
高校生のくらいの時に観たのは石井岳龍さんの『爆裂都市 BURST CITY』という作品ですごく影響を受けました。でも、1番はマーティン・スコセッシです。特に『タクシードライバー』から影響を受けました。それに、『沈黙-サイレンス-』で僕は俳優として選んでもらえたので、そういう意味でもスコセッシです。
シャミ:
本日はありがとうございました!
2024年4月24日取材 Photo& TEXT by Shamy
『アンダー・ユア・ベッド』
2024年5月31日より全国公開
R-18+
監督・脚本:SABU
出演:イ・ジフン/イ・ユヌ/シン・スハン
配給:KADOKAWA
孤独な生活を送るジフンは、学生時代に出会ったイェウンを忘れられずにいた。ジフンはイェウンを探し出し再会を果たすが、彼女は彼のことを覚えていなかった。しかし、ジフンは再び彼女に強烈に惹かれ、彼女を24時間監視するようになる。そこで彼女が夫から激しいDVを受けていることを知ってしまい…。
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情報は2024年5月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。