REVIEW
『幸福なラザロ』を観てアリーチェ・ロルヴァケル監督作に魅了された者として、本作にも大いに期待して鑑賞しました。本作はその期待を裏切らない作品となっています。映画公式資料の監督のコメントによると、本作は「私にとって大切な問いである、『過去をどうするべきか』について探求する地元地域を舞台にした三部作(『夏をゆく人々』『幸福なラザロ』に続く)の最後の作品であろう」と位置付けられています。
本作の主人公は刑務所から出所したばかりのアーサー(ジョシュ・オコナー)です。アーサーは、考古学愛好者で、ダウジングで昔の墓に埋められたお宝を感知する特殊な能力を持っています。その能力を活かし、遺品を掘り当て墓泥棒をして生計を立てているアーサーには忘れられない恋人の存在がありました。
そんなアーサーの物語は、ギリシャ神話「オルフェウスとエウリュディケ」の悲劇のラブストーリーをモチーフにしているようです(映画公式資料)。映画公式サイトには、ギリシャ神話「オルフェウスとエウリュディケ」の簡単な内容や、作品理解の鍵となる、「イタリアのトンバローリ(墓荒らし)」「エトルリア」の説明も載っているので、鑑賞前後に読むと参考になります。アリーチェ・ロルヴァケル監督作といえば、言い伝えや寓話、神話がストーリーに活かされている点を期待するなか、本作でもその期待に応えてくれています。
また、本作には意味深な映し方をしているシーンがあり、それはアーサーのある状態を意味していると解釈できる部分もあれば、彼が2つの世界を行き来しているようにも解釈できて、最後には彼の願望と実現を表しているようにも思えます。皆さんも想像を膨らませて、いろいろな解釈を楽しんでください。
そして、ジョシュ・オコナーが演じるアーサーが放つ何ともいえない哀愁がたまりません。アーサーは足が臭いとか、痩せ過ぎだとか、けちょんけちょんに言われますが、そんなの関係ないよと感じるくらい萌えます(笑)。ちなみにジョシュ・オコナーは『幸福なラザロ』を観て感銘を受け、アリーチェ・ロルヴァケル監督作に出演したいと監督に手紙を送ったのがきっかけで本作の主演が決まったそうです。さらにイザベラ・ロッセリーニや、アリーチェ・ロルヴァケル監督の姉、アルバ・ロルヴァケルもキーパーソンとしてドラマを盛り上げるキャラクターを好演しています。映画好きはもちろんのこと、神話、寓話好き、美術好きの方にもオススメの1作です。
デート向き映画判定
ラブストーリーがそのまま描かれているというのではないものの、ロマンチックなストーリーがベースとなっているので、デートで観るのもオススメです。ただし、どのキャラクターの視点で観るのかによって感じ方が異なる部分は出てくると思います。今交際中の相手とは別に忘れられない人が心にいる方は、1人でじっくり観るほうが心おきなく物語に没入できそうです。
キッズ&ティーン向き映画判定
現実と空想の境界が曖昧に描かれている構成からしても、比喩的な理解ができたほうが一層楽しめる点でも、中学生くらいになってから観たほうが良いのではないかと思います。ギリシャ神話「オルフェウスとエウリュディケ」がモチーフとなっているので、本作でギリシャ神話に興味をもったら自分で詳しく調べてみてください。他にも興味深い神話と出会えると思います。
『墓泥棒と失われた女神』
2024年7月19日より全国順次公開
ビターズ・エンド
公式サイト
© 2023 tempesta srl, Ad Vitam Production, Amka Films Productions, Arte France Cinéma
TEXT by Myson
本ページには一部アフィリエイト広告のリンクが含まれます。
情報は2024年7月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。