※ネタバレ注意!『ミナリ』
技術革新で私達の生活は大きく変わりつつあり、2019年からは長期に渡るコロナ禍の影響もあって、皆さんの仕事に対する価値観も変わってきていると思います。キャリアという言葉は多義的で、学者、学説によって定義も異なりますが、今回はダグラス・ホールの理論についてご紹介します。
今回取り上げる映画は『ミナリ』。この映画は、ある4人家族がトレーラーハウスに引っ越してくるところから始まります。どうも夫のジェイコブは、妻モニカに詳細を話していないようで、新居に到着するなり不穏な空気が流れます。ジェイコブは農業で生計を立てることを夢見て、妻に黙って広大な荒れた土地を購入していたのです。ただでさえ経済的に苦しい上に、見通しも立たない事業に大金を使ったとあれば、家族なら心配になるのは当然です。この後、一家がどうなるのかは映画を観ていただくとして、ジェイコブのケースを例に、ダグラス・ホールが提唱した「プロティアン・キャリア」という概念をご紹介したいと思います。
ホールの「キャリア」の定義
・キャリアとは成功や失敗を意味するものではなく、「早い」昇進や「遅い」昇進を意味するものでもない。
・キャリアにおける成功や失敗はキャリアを歩んでいる本人によって評価されるのであって、研究者・雇用主・配偶者・友人といった他者によって評価されるわけではない。
・キャリアは行動と態度から構成されており、キャリアを捉える際には、主観的なキャリアと客観的なキャリア双方を考慮する必要がある。
・キャリアはプロセスであり、仕事に関する経験の連続である。
渡辺(2018)
ホールのこの定義の背景には、1980年代の産業社会における構造改革があるとされていますが、『ミナリ』の物語の舞台もちょうど1980年代です。モニカはヒヨコの仕分けをする仕事でコツコツと生計を立てようとしますが、ジェイコブは夢を捨てきれません。このジェイコブのキャリア観は、まさに時代の変化を象徴するものであるとも受け取れて、ホールが提唱したプロティアン・キャリアに紐付きます。
渡辺(2018)によると、「プロティアン・キャリアとは、組織によってではなく個人によって形成されるものでありキャリアを営むその人の欲求に見合うようにそのつど方向転換されるものである(Hall,1976)。移り変わる環境に対して、自己志向的に変幻自在に対応していくキャリアともいえるだろう」と述べられています。
ここで伝統的キャリアとプロティアン・キャリアの比較表をご覧ください。
これは私の肌感ですが、社会的、企業的にはまだ伝統的キャリアが根強いように思います。でも、個人が選べる時代に変わりつつあるので、前向きにキャリアを築いていきたいですね。
<参考・引用文献>
渡辺三枝子ほか(2018)「新版 キャリアの心理学[第2版]キャリア支援への発達的アプローチ」ナカニシヤ出版
オススメのお仕事映画
『ミナリ』
2021年3月19日より全国公開中
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
自分で新しい仕事の道を切り拓いていくことは簡単ではありません。とてもリアルな物語となっていて切ない展開もありますが、力強く生きる一家に勇気づけられます。
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TEXT by Myson(国家資格キャリアコンサルタント/認定心理士)