本作は2004年、ケンタッキー州トランシルヴァニア大学の図書館で実際に起きた窃盗事件を映画化。なんと実際の犯人も劇中に登場して当時について語るというドキュメンタリーと、俳優によるドラマが融合した、ユニークな構成で作られています。事件は、ごく普通の中流階級出身の大学生が起こしたものですが、一見犯罪を起こす必要性を感じない彼らが、なぜ犯行に踏み切ったのか、本作を観るととてもしっくりくるところがあります。
例えば、歴史上の偉人は皆、壮絶な人生を歩んだ経験からすごいアイデアや作品を生み出しているというイメージがありますよね。美術家を目指していたスペンサー(本人)が、“何かすごいことを起こさないと、何かすごい体験をしないと、すごいものは作れない”といった考えを当時もっていたと語るシーンがありましたが、この発想って誰でも持っているのではないでしょうか。何かにチャレンジしようとしても、自分は人並みの人生しか送ってきていないから大したものが生み出せないと、自信を持てない人はたくさんいます。大学生の頃って、大人の一歩手前でアイデンティティが形成されようとしている時期で、自分は何者かという自覚や、進むべき方向を模索しているモラトリアムの期間に当てはまります。まだ自分自身に可能性は感じているけれど、自分は特別ではない、何者でもないことに薄々気付き始める時期でもあって、うまくいかないことが続くと、焦りは相当感じるはずです。あくまで私の解釈ですが、本作で出てくる4人の青年達は、本心ではお金を欲しかったというよりは、危ない方法で自分達を試したかったのではないでしょうか。本作を観て、若者のバカな犯罪と笑う人もいるかも知れませんが、私には他人事に思えませんでした。他人は傷つけたくないけど、自分達の欲望は果たしたいという身勝手さだって、誰でも持っているはずで、若い頃はなおさら制御が効かない。彼らは冒険する方法を間違えたに過ぎないと思うと、共感せざるを得ない部分があります。主人公達と同世代の人はもちろん、大人が観ても昔を振り返るきっかけになる作品です。エヴァン・ピーターズ、バリー・コーガン、ブレイク・ジェナー、ジャレッド・アブラハムソンの4人の俳優達のリアルな演技、そして本作が長編ドラマ初監督のバート・レイトン監督が手腕をふるった演出もぜひ堪能してください。
とてもスタイリッシュでセンスを感じる作品なので、デートで観るのもアリだと思います。実話ベースという点でも興味が一層わくと思います。ロマンチックなムードになるタイプの映画ではありませんが、誰にでもどこか共感できるところがあるストーリーなので、学生カップルは今の自分達と照らし合わせるのも良し、大人は昔どんな若者だったか話すきっかけにするも良しです。
主人公達が勢いでとんでもないことをやってしまう心理は、皆さんは等身大で通じるものを感じ取れるのではないでしょうか。もちろん絶対に真似をしてはいけませんが、もうすぐ社会に出ようとしていて、何者かにならなければいけないと勝手に焦ってしまう状況のなかで、無茶をしたくなる気持ちを持ったことがある人は、そんな衝動を冷静に客観視するきっかけになるはずです。もちろん純粋にエンタテインメントとしても楽しめる作品なので、アーティスティックな描写などにも注目してください。
『アメリカン・アニマルズ』
2019年5月17日より全国公開
ファントム・フィルム
公式サイト
© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018
TEXT by Myson