今回は『アメリカン・アニマルズ』の監督バート・レイトンさんにインタビューをさせて頂きました。本作はドキュメンタリーと、俳優によるドラマが融合した、ユニークな構成ですが、こんなにスタイリッシュで、センセーショナルで、エモーショナルな映画を作った監督はどんな方なのか、監督の映画作りへのこだわりなどをお聞きしました。
<PROFILE>
バート・レイトン
2012年に監督したドキュメンタリー映画 “The Imposter(原題)”は、英国歴代最高収益を上げたドキュメンタリーとして記録されているほか、オースティン映画批評家協会賞、英国アカデミー賞最優秀デビュー賞、英国インディペンデント映画賞(最優秀ドキュメンタリー賞ほか2部門)をはじめ、世界中の映画祭で30ノミネートされ、12受賞。斬新なスタイルとジャーナリスティックな手法、挑戦的なテーマに果敢に取り組む姿勢が高評価を得ている。イギリスの大手制作会社Rawの創作局長を12年間務め、賞に輝くドキュメンタリー作品やシリーズ物の数々を手掛けてきた実績もある。映画『アメリカン・アニマルズ』は、長編ドラマ初監督作品。
アイデンティティを探すプレッシャーは皆ある
マイソン:
犯人自らが登場して当時のことを語っていますが、ご本人達に依頼した時はすんなり受けて頂けたのでしょうか?
バート・レイトン監督:
彼らがまだ服役中に手紙でやり取りをしていたのですが、最初アプローチした時はまだどんな映画になるかわからなかったので、もちろん即答はしてくれませんでした。特に彼らの家族も苦しんでいたので、その過去を掘り起こすようなことにならないかということで、ためらっていた部分もありますし、ハリウッド的なコメディに寄せて、彼らのことを悪く見せるんじゃないかっていう心配もあり、最初は少しためらいがあったようです。ですが、どんなビジョン、どんなスタイルで描くかということ、こういう犯罪を犯すとこういう結果になるよっていうのを、誠実に知的な方法でリアルに見せるということをちゃんと説明して、時間をかけて理解してもらい、やっとインタビューまで漕ぎ着けることができました。
マイソン:
なるほど。本作を観て、今彼らはどう受け止めているのでしょうか?
バート・レイトン監督:
誠実に事実を描いているし、危惧していた部分も特になかったので、安心しているようです。
マイソン:
演じられた俳優さんと役柄のご本人が交流することはありましたか?
バート・レイトン監督:
撮影前はできるだけ接触しないようにしてもらったんです。というのも、交流を深めてしまうと、役者が本物の人達のことを真似して忠実に描かなければいけないという義務感を抱いてしまうからです。
マイソン:
そうなんですね。世の中にはこの作品以外にも実話を実写化した映画がたくさんありますが、脚色されているものも多いと思います。本作では犯人自身が登場して語るという設定にした上で、事実について忠実さを守るところと、逆に映画的に描くところと、バランスの取り方に影響した部分はありますか?
バート・レイトン監督:
ドキュメンタリーの要素を含めたのは、これが事実だということが観客により重くのしかかるからです。フィクションの世界だと思って観ていると、「これは映画の世界なんだ」って意識が頭の片隅にあるので、何か大変な結末になってもあまり感情移入ができないんですね。だからドキュメンタリーの部分を入れることによって、観客の映画体験がさらに高まると思ったんです。最初に事実に基づいている作品というのがわかりますが、劇中で彼らは計画を企てて、いろいろな映画を調べて計画が上手くいくかも知れないという妄想を描き、実際に事件を起こすけれど、その瞬間に現実に戻される。観客は彼らの姿を観ながら、一緒に体験していける。ドキュメンタリー要素を入れることによって、彼らと同じ感情、呼吸で、映画を観ることができるっていう効果もあると思うんです。だからそこのバランスを上手く調整して今回の作品を作りました。
マイソン:
この映画の中で脚色している部分は、妄想している部分だけなのでしょうか?
バート・レイトン監督:
すべて彼ら(実際の犯人)の証言に基づいていて、脚色というより、多少伝え方を工夫したという感じですね。いろいろな映画を観て強盗の準備をするっていう部分ももちろん彼らがやったことです。
マイソン:
そうだったんですね。もし、私があの犯行の部分だけをニュースで知ったら、大学生がバカなことをやっちゃったなって思う程度だったかも知れませんが、映画としてその前後を観た時に、彼らがすごく不安を抱えている若者っていうところで、リアルに自分の学生時代の心情が蘇りました。監督はこの作品から何を一番観客に伝えたいと思いましたか?
バート・レイトン監督:
今この世の中で皆何か成し遂げたいという思いがあって、「有名にならなければいけない」「何か大きな足跡を残さなければいけない」っていうプレッシャーの中で生きているんですね。この事件はかなり前の話ではあるんですが、彼らもまさに同じ体験をしていて、犯罪という悪いことであっても、何かしら自分という存在をこの社会に示したいっていう願望があって、犯罪に踏み切ってしまうんです。ただ、そうすることによって、それなりの結果も伴ってきます。でも、アイデンティティを探すプレッシャーっていうのは皆あるんだよっていうことが伝えたかったメッセージです。
マイソン:
私もまさにそこに共感しました。あと監督が映画化しようとする題材を見つけるポイントは何ですか?
バート・レイトン監督:
まずストーリーですね。すごく心惹かれるストーリー、小説を読んでいて本当に手が止まらないようなストーリー、可能性を感じるストーリーに巡り逢った時、映画化したいと思います。さらに同じくらい大切なのが、そのストーリー自体により大きなメッセージとかテーマが潜んでいるか、観客に伝えたいことがあるかっていうところですね。エンタメ色の強い作品ももちろん楽しいんですけど、映画というのは本当に時間をかけて作るものなので、僕自身が作るのであれば、やっぱりそういう要素がないと作る意義がないかなと思っています。
マイソン:
このキービジュアルもそうなんですが、この作品にはすごくアーティスティックな要素がありますよね。監督のお父様とお母様も芸術関係のお仕事をされているとお伺いしたんですが、アーティスティックな要素を感じるかどうかも、作品選びに影響していますか?
バート・レイトン監督:
僕が映画が好きな理由は、すべての芸術が含まれているというところなんです。演劇、写真、絵画、あとは照明とか音楽ももちろん芸術ですし、それらを1つにまとめて、さらにそれを使ってストーリーを伝えるっていう映画の形式がすごく好きなんですね。映画を作る時はまずストーリーを見つけてきて、それをいかに最もおもしろく伝えられるのかっていうのを探っていくんですけど、その中で自分のビジュアルのセンスとかを取り入れていくようにしています。ただ核となるのはストーリーなので、そこが1番大切ではあるんですけど。
マイソン:
あと今回メインキャラクターを演じた4人の俳優は皆魅力も実力も備えていて、日本でももっと人気が出てくると思うんですが、キャスティングでこだわった部分はどんなところですか?
バート・レイトン監督:
まず親近感があるか、リアルに見えるかっていうところです。多くの若手の役者がこの役のオーディションを受けて、ディズニー映画に出てきそうないわゆるアメリカの美男子はたくさんいましたが、今回はそういうのは特に求めていなかったんです。やっぱり親近感があって、信憑性のある普通の男子をキャスティングしたかったので、映画の世界にいそうな人ではなくて、現実世界で生きていそうな役者を求めてキャスティングをしました。彼ら4人が決まった後は特に心配もなく、演技をしてもらうだけだったので、良い役者が揃ったと思っています。
マイソン:
では最後の質問です。さっきもお話が出たんですけど、今SNSが流行っていて時代的にも何かすごいことをやり遂げないといけないと思っている若者はたくさんいると思います。バート監督のように芸術の世界で働いている人、映画監督になりたい人なら、よけいにそう思ってしまう人が多いと思うんですが、この映画の主人公達と同じ世代の若者達に向けて、監督からアドバイスがあったらお願いします。
バート・レイトン監督:
僕がこんなアドバイスをして良いのかわからないんですけど、自分のやりたいことをやるべきです。他の人がこう反応するだろうと気にしてやるのではなく、本当に自分に正直に行動することが一番だと思います。映画の制作者に関して言うと、ストーリーを見つけて、そのストーリーを伝える楽しみを実感して欲しいです。どれだけフォロワー数が増えて、“いいね!”の数が増えて、どれだけ賞をもらえるかとか、そこを目指すのではなく、なぜこのストーリーを伝えたいのか、そこから湧き出る情熱を大切にして欲しいですね。そうすることによって、より充実感が得られると思います。難しい時代だと思いますが、今を生きることに集中する。写真を撮ってそれを公開して、周りの人に価値を与えてもらうんじゃなくて、実際に自分で行動して喜びを感じるべきだと思います。
マイソン:
ありがとうございました!
2019年5月9日取材 PHOTO & TEXT by Myson
『アメリカン・アニマルズ』
2019年5月17日より全国公開
監督・脚本:バート・レイトン
出演:エヴァン・ピーターズ/バリー・コーガン/ブレイク・ジェナー/ジャレッド・アブラハムソン/アン・ダウド
配給:ファントム・フィルム
2004年、アメリカのケンタッキー州でごく普通の大学生が起こした強盗事件を映画化。普通の大人になっていくことに焦りを感じていたウォーレンとスペンサーは、大学図書館に時価1200万ドル(およそ12億円相当)を超える画集「アメリカの鳥類」が保管されていることを知り、強奪計画を企てる。2人はエリックとチャズに声をかけ、『スナッチ』『レザボア・ドッグス』『オーシャンズ11』などの犯罪映画を参考に作戦を練っていく。
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