冒頭の電話越しの息子とのやり取りがとてもスリリングで、相手が幼い子どもなだけに、自分が母親だったらどうするかと想像しながら観て、リアルに動揺を味わえます。そこから、10年経った後の主人公の生活ぶりがメインで描かれていくのですが、いなくなった息子のことを忘れられるはずはなく、ずっと過去に縛られて生きています。そんな主人公は、ある日自分の息子の面影を持つ少年に出会うのですが、彼と不思議な関係になっていきます。彼が何者なのかを想像しながら観るのも本作の醍醐味なので伏せておきますが、息子のように思っている少年に対して、主人公がどう気持ちの整理をしていくのかを見守りながら観ることになります。どうやってこの物語は終わるんだろうとどんどん読めない展開になっていくのですが、「なるほど!そういう関係になるからこそ、気持ちに変化が生まれるんだな」と、人間関係の設定が実に巧妙です。切なさと悲しさだけでなく、清々しさと希望も描いている点で、人はいつか前を向いて進めるようになると思わせてくれる作品と言えるでしょう。
カップル、夫婦で観ると何だか複雑な気分になりそうです(笑)。主人公と少年の実際の関係がなんであるかはさておき、カテゴリー化できない感情があり、それが何なのかはっきりできない関係ってあるんだなと実感できると思います。1人でじっくり観るか、友達と観るほうが、鑑賞後に気兼ねなくいろいろ話せて楽しいのではないでしょうか。
親子で観ても、何とも言えない雰囲気になりそうな気がします(笑)。キッズはまだ理解が難しいところもあるかも知れませんが、ティーンの皆さんなら、本作で描かれる不思議な関係の裏にあるいろいろな感情はどこからくるのか、想像を膨らませながら、客観視しながら観られるのではないでしょうか。親が子を思う気持ちに寄り添いながら観ることもできるので、反抗期の皆さんは本作を観ると、ちょっと親に優しくしてあげたくなるかも知れません(笑)。
『おもかげ』
2020年10月23日より全国公開
PG-12
ハピネット
公式サイト
© Manolo Pavón
TEXT by Myson