実在したヴァチカンのチーフ・エクソシスト、ガブリエーレ・アモルト神父が遺した著書「エクソシストは語る」を基に映画化。ガブリエーレ・アモルト神父は、1925年生まれで、2016年に91歳で亡くなりました。生涯で数万回に及ぶ悪魔祓いを行なったといわれています。映画の公式資料によると、アモルト神父は幼い頃に天啓を受け、17歳でローマに行き聖職者になろうとしたけれど「天啓に従う前にもう少し人生を味わえ」といわれたそうです。そして、第二次世界大戦で出兵し、戦後はロースクールに通い、ローマカトリック系中道政党だったキリスト教民主主義青年部で後年イタリアの首相になったジュリオ・アンドレオッティの右腕も務めたとあります。こうしたユニークな経歴を持っているからこそ、劇中で描かれる親しみ易い人柄にも納得がいきます。劇中では、アモルト神父が悪魔にユーモアで立ち向かう姿も描かれており、そんなアモルト神父の魅力を、ラッセル・クロウが見事に体現しています。
また、ラッセル・クロウは、イタリア語やラテン語のセリフも流暢に話し、アモルト神父役になりきっていて、観る者を本作の世界に引き込みます。そして、やっぱりエクソシストにまつわる作品では、憑依された人物を演じる俳優の演技が要となります。本作では少年が名演を披露しています。
本作を観ると「悪魔なんていないでしょ!」と軽々しく言えなくなるくらい、臨場感、緊張感たっぷりに悪魔祓いの一部始終が描かれています。同時に宗教云々は別として、何かを強く信じる意義を実感させられます。また、悪魔祓いには、悪魔の正体、名前が重要であることが劇中で語られている点で、キリスト教の言い伝えに興味が湧きます。同時に悪魔の存在と企みの背景に何があるのかが、キリスト教が世界に広まる上での黒歴史と関係があったとされる背景も衝撃的です。
本作にはこうした見どころが複数あります。ホラーは苦手と観ず嫌いで終わるともったいない作品です。本作の公式サイトに掲載されている、LADBIBLEの「これはエクソシスト版『ダ・ヴィンチ・コード』だ」とあるように、歴史好き、ミステリー好きにも観ていただきたい作品です。
痛々しいシーンも出てくるので、苦手な方はいると思います。とはいえ、残虐さがウリのホラーではなく、実話ベースのストーリーであり、宗教史に深く関わりがある点で歴史が好きな方、知的好奇心が強い方には楽しめると思います。『ダ・ヴィンチ・コード』などが好きな方なら、試しに誘ってみてはどうでしょうか。
見たまま怖いシーンも複数あり、憑依されるのが子どもという点でも、キッズにとってはだいぶ怖いと思います。背景がしっかりあるだけにストーリーもじっくり理解しながら観て欲しいので、ただ怖かったで終わるともったいない作品です。ホラーに免疫がついてから観るという選択もアリではないでしょうか。
『ヴァチカンのエクソシスト』
2023年7月14日より全国公開
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト
TEXT by Myson