これは心理的にものすごく怖いストーリーです。環境が破壊された地球から他の惑星へ移住しようとする設定のSF映画は珍しくありませんが、本作は子孫を残すことが第一の目的となっている点でユニークです。ストーリーは、子孫を新たな惑星に届けるというミッションのために人工的に生殖され、訓練を受けた30人の子ども達と1人の教官(コリン・ファレル)が、居住可能な新たな惑星に向けて86年かかるとされる宇宙の旅に出るというもの。船内で子ども達は成長し、大人になった時に子を産み育てて、孫達が新しい惑星に着くことを目指します。船員ははじめ統制された状況にありますが、やがて一部のメンバーが大人達が隠している嘘に気付き、秩序が乱れていきます。ここから先は映画で観ていただきたいので詳細は伏せましょう。
本作は人間の本質の両局面を描いています。大人達は人間のある一面が秩序を乱し混乱を招くと予測したからこそ、子ども達を嘘で統制していたわけですが、裏を返すと人間を信じていなかったからこそ大きな問題に発展してしまったとも考えられます。このストーリーは地球で今起きていることを凝縮して喩えているとも言えて、すごくリアルな恐ろしさがあります。一方で人間を育てる上で必要なことは何か、人間から奪ってはいけないものは何かということも考えさせられます。SFスリラーとして楽しんでいただくのはもちろんのこと、人間を理解する上でもぜひ観て欲しいです。
そして、タイ・シェリダン、リリー=ローズ・デップ、フィオン・ホワイトヘッド、コリン・ファレルそれぞれの演技も見どころです。特にフィオン・ホワイトヘッドが鬼気迫る演技を見せているのでご注目ください。
ロマンチックなムードになるというよりも、ハラハラドキドキが大半を占めているので吊り橋効果はあるかもしれません。人間の本能が目覚めた時に何が起こるのかを描いているので、恐ろしくなるシーンがありますが、一方で自由に恋愛できる環境にある有り難みも感じるのではないでしょうか。シンプルにエンタテインメントとしても楽しめるので、2人とも興味があれば観てみてください。
人間って怖いと思える部分と、人間を信じたいという部分の両方が見えると思います。船員達が置かれる状況が二転三転するなかで、皆さんも自分だったらどういう選択をするかシミュレーションができます。どんな価値観で生きていくのが幸せか考えるきっかけになる部分もあるので、若い皆さんにこそぜひ観て欲しい1作です。
『ヴォイジャー』
2022年3月25日より全国公開
アルバトロス・フィルム
公式サイト
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TEXT by Myson