本作は、政変が続くバングラデシュのダッカで身の危険を感じながら暮らしていた少年ファヒムが、チェスの非凡な才能だけを頼りに父とパリへ渡り、家族の運命を変えた実話を基に映画化された作品です。ファヒムはただチェスの才能を伸ばすためにパリに行ったわけではなく、ファヒム一家が祖国で危ない目に遭っていたこと、パリへ来ても一家で移住できるかわからず強制送還される恐れもあることなど、物語が展開されるにつれ、ファヒム達がいかに困難な状況に置かれているかが明かされていきます。でも、無邪気に子どもらしく振る舞うファヒムやパリで友達になった子ども達とのやり取りがとても可愛くて、前半はユーモアに溢れたシーンも多く、とても癒されます。後半は打って変わって、ファヒムと父が不法滞在になる危険にさらされながら、大会に出られるのかどうかというハラハラドキドキする展開が続き、目が離せません。さらにジェラール・ドパルデューが演じるチェスのトップコーチがファヒムに教える戦い方も深くて、チェスで勝つだけでなく、人生を切り拓く意味でどう戦うべきかを学んでいくファヒムの姿に心を動かされます。ファヒムや彼を助けた人達が成し遂げたことは誰にも真似はできませんが、希望を捨てずに、自分が持っている”武器”を手に戦うことは大切だなと気付かされるストーリーです。本当に何が救いになるかわかりませんね。とても希望をもらえる作品ですので、ぜひ多くの人に観て欲しいです。
笑えるシーンも切ないシーンも両方あって、最後には心が温まる内容なので、デートで観るのもオススメです。チェスのルールがわからなくても全く問題ありません。ロマンチックになるほどではありませんが、ちょっと不器用な恋愛模様もちらっとあって微笑ましく、片思いのまま告白できないでいる人や、友達以上恋人未満の人は、親近感が湧くでしょう。まだ友達でもちょっと距離を縮めるために、デートで誘ってみるという場合でも、観やすい作品です。
ファヒムはとても頭が良く、ユーモアもあり、チェスがすごく強くてカッコ良いので、彼の物語は観ていて爽快です。困難な状況でも負けずに戦うファヒムの姿からは勇気をもらえて、実話ということでより一層、自分もやってみようという気になれると思います。チェスと聞くと難しい内容に思えるかも知れませんが、チェスのルールがわからなくてもこの物語を理解する上で問題はなく、わずか8歳で母国バングラデシュを追われたファヒムと同じくらいの年齢、小学校中学年以上なら十分に理解できるでしょう。ファヒムの友達も彼を優しく支えるので、いろいろなキャラクター達の良さに注目して観て欲しいです。
『ファヒム パリが見た奇跡』
2020年8月14日より全国公開
東京テアトル、STAR CHANNEL MOVIES
公式サイト
©POLO-EDDY BRIÉRE.
TEXT by Myson