本作は、時代の寵児となった美少年作家のJ・T・リロイがなぜ2人の女性によって創られることになったのかを、J・T・リロイの表の顔を担っていたサヴァンナの視点で描かれています。J・T・リロイはもともとローラ・アルバートのペンネームでしたが、表に姿を見せる必要が出てきたことで、ローラの恋人の妹であるサヴァンナがJ・T・リロイのふりを始めます。最初は所詮“ふり”だけと思いきや、そう簡単に切り離せないところまで深く入り込んでしまう心の変化がリアルに描かれていて、とてもスリルを感じます。バレるかバレないかよりも、サヴァンナがもうJ・T・リロイというアイデンティティを手放せなくなっていることや、ローラ自身もそのことに危機感を覚えていることが、一番スリリングで事件そのものもセンセーショナルですが、人間のアイデンティティについて考えさせられるテーマである点で、誰が観ても見入ってしまうと思います。サヴァンナ役のクリステン・スチュワート、ローラ役のローラ・ダーンの演技も見事で、2人のせめぎ合いに引き込まれます。
ドキュメンタリー映画『作家、本当のJ.T.リロイ』は、J・T・リロイ本人のローラ・アルバートによる証言や、当時関わった人達を取材した内容で綴られていて、本作はJ・T・リロイの“表の顔”を担っていたサヴァンナの移転から描かれています。両作品観ると、2人の立場の違いで同じ出来事が全く違って見えることがわかるので合わせて観るのもオススメです。
セクシャルなシーンも多少ありますが、初デートでない限り、そこまで気まずいことはないと思います。ただ、クリステン・スチュワートが演じるサヴァンナは、2つの顔を持ったことで私生活も複雑化していきます。好きな人に秘密を打ち明けていない人は、本作を観る間落ち着かない気持ちになるかも知れません。本作を一緒に観て打ち明けるきっかけにしてみるのもアリでしょう。
SNSが普及してから、ネット上での自分、実生活の自分と、見せ方を変えている人も少なくないでしょう。それが私生活に影響しない範囲の演出の範囲で留まっているなら良いですが、偽り過ぎるとだんだんと自分を追い詰めることになります。PG-12なので、12歳未満の人は大人と観る必要がありますが、現代のキッズやティーンの皆さんが観て、いろいろと感じたり、学べる部分も多くある作品だと思います。
『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』
2020年2月14日より全国公開
PG-12
ポニーキャニオン
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TEXT by Myson
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