ガーディアン賞やカーネギー賞などの名だたる文学賞を受賞したパトリック・ネスのSF小説を映画化した本作は、まず設定が興味深いです。物語の舞台となる“ニュー・ワールド”では、男は頭の中で考えたことや気持ちを言葉で発しなくても“ノイズ”として他者に見られたり聞かれてしまいます。そして、女は死に絶えたとされています。なので、この星で生まれた主人公のトッド(トム・ホランド)は女性を一度も見たことがありません。そんななか、ある日トッドは1人の不審者を目撃し、その人物の騒動に巻き込まれたことによって、彼が知らなかった真実に辿り着きます。
男は思考がすべてさらけ出されてしまうという設定によって、思考を相手に読まれないようにするテクニック、“ノイズ”を上手に利用するテクニックがこの世界では必要であり、それが支配される側、支配する側を決めています。そこへ外部からやってきた人間が加わることによって、“ニュー・ワールド”はどう変わっていくのかというのが本作の見どころです。
“ニュー・ワールド”は私達が暮らしている世界とは異なりますが、人間ってどこでどうなっても根本は良くも悪くも変わらないのだなと実感させられます。そんな人間の二面性があるからこそ、人類は滅びる可能性もあれば生き延びる可能性もあり、それは一人ひとりの選択にかかっていて、一人ひとりが自分で考え行動しなければ特定の人間によって都合の良い世界になるのだとわかります。たまたま本作を観た時期が衆議院選挙の時期と重なっていたので、選挙と政治もこういうことだなと感じるところもありました。もちろんそんな堅い観方をせずとも純粋にエンタメ作品として楽しめますので、いろいろな観方をしてみてください。キャストもトム・ホランド、デイジー・リドリー、マッツ・ミケルセン、シンシア・エリヴォ、デヴィッド・オイェロウォなどが出演していて豪華なので、映画好きにオススメの作品です。
なぜこの世が男性社会になっているのかというところにも繋がるようなストーリーで、デートのムードが盛り上がるようなタイプの作品ではありません。ただ、自分達の世界を違う設定に落とし込んだ状態で客観視できるので、一緒に観て語り合うのも良いと思います。いろいろな観方ができるので、お互いの解釈を述べ合うことで普段世の中をどう見ているかといった思想的な面も知ることができるのではないでしょうか。
シンプルなストーリーなので、小学生高学年以上なら十分理解できる内容だと思います。自分自身の思考をコントロールしたり、“ノイズ”を逆に利用して相手を欺いたりといった駆け引きも観ていておもしろいので、皆さんも好きな世界観ではないでしょうか。隠された真実について推理しながら観るのも楽しいですよ。
『カオス・ウォーキング』
2021年11月12日より全国公開
キノフィルムズ
公式サイト
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TEXT by Myson