デヴィッド・クローネンバーグ監督が織りなす世界観に圧倒される1作。まずは、奇妙なベッドやチェアの独創的なデザインを目にした瞬間に、この世界で何が起きているのか知りたい衝動にかられます。そして、「新しい臓器が生まれた」「臓器を登録する」といった不可解なセリフに戸惑いながらも、好奇心が刺激されます。本作は解釈なんてせずにまずは感覚で楽しみたい作品です。
ただ、やっぱり解釈のし甲斐がある作品なので、映画を観てさまざまな思考を巡らせるのが好きな方にはぜひ考える楽しさも味わっていただきたい!本作はなんと製作に20年以上も費やしたとのことで、クローネンバーグ監督は1999年から脚本を書いていて、本作を世に出す適切なタイミングを待っていたそうです。映画公式サイトには、クローネンバーグ監督のコメントも掲載されており、本作の背景にある意図が書かれています。また、“PRODUCTION NOTE”には、主演のヴィゴ・モーテンセンとレア・セドゥのコメントもあり、演者の解釈も、私達観客の解釈の助けになるでしょう。
ここから先は、鑑賞前に何も知りたくない方は読まずに、良かったら観賞後にお読みください。
本作には社会問題の比喩と思われるさまざまな描写があります。まず私が個人的に気になったポイントを挙げます。ヴィゴ・モーテンセンが演じるアーティストは体内で新しい臓器を生み出しては、レア・セドゥが演じるパートナーが人前で手術をしてその臓器を取り出すショーを行っています。って、この説明だけ読んでも「どういうことやねん!」と思うでしょう(笑)。それはさておき、アーティストが体内から臓器を生み出し、切除手術をショーとして見せるという行為は、現実世界でいってもまさに身を削って作品を生み出すアーティストと同じです。また、劇中の手術が過激なパフォーマンスとなっている点で、現実世界でも注目を集めたいだけのアーティスト気取りの者と本物のアーティストが混在する状況を象徴しているように捉えられます。例えば、過激な動画で注目を集める者と芸術としての映画を作る者の違いです。
次に、開発、創造による産物に違いはあるのかという点です。科学が生み出すものは、人間にとって便利である反面、自然を破壊している部分もあり、巡り巡って人間の身の危険にも繋がっています。プラスチックを食べる人種の存在と彼等の企みは、罪のようでいて、解決策のようでいて、観る人によって捉え方は異なると思います。これは、人間が生み出したものへの責任を人間自身が取れるのかという問題提起のように見えます。前向きな捉え方、後ろ向きな捉え方、どちらとも取れる点で、観る者に答えを委ねているのではと感じます。
また、人間が痛みを感じなくなっている点、セックスに変化がある点も興味深いです。痛みは本来無いに越したことはありませんが、全く感じなくなることによって人間的でなくなるのかもしれません。だからこそ、快楽の得方にも変化が出てくるのではないでしょうか。…と、いろいろな解釈がどんどん巡るのでこの辺りで書くのは控えるとして、1回観るだけでは足りません。皆さんもぜひ複数回観て、解釈を楽しんではいかがでしょうか。
エログロ要素がありつつ、ムーディーな世界観なので、これまで何度も映画デートをしているカップルならデートで観るのもアリでしょう。観た後に誰かと話したくなる要素が満載なので、映画談義に華が咲くと思います。語り合うのが好きなカップルはぜひ!
PG-12なので大人と一緒なら小学生も観られるとして、子どもにとってはちょっと刺激が強いのではないでしょうか。感覚で楽しむもよし、解釈を楽しむもよしの映画とはいえ、映画を観慣れてから観るほうが一層楽しめるのかなと思います。いろいろなタイプの映画をたくさん観て、クセの強い映画にも免疫がついてから観ると良さそうです。
『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』
2023年8月18日より全国公開
PG-12
クロックワークス、STAR CHANNEL MOVIES
公式サイト
© 2022 SPF (CRIMES) PRODUCTIONS INC. AND ARGONAUTS CRIMES PRODUCTIONS S.A.
TEXT by Myson
本ページの情報は2023年8月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。