1961年にロンドン・ナショナル・ギャラリーで実際に起きたゴヤの名画盗難事件の知られざる真相を描いた本作は、『ノッティングヒルの恋人』のロジャー・ミッシェルが監督を務めています。ロジャー・ミッシェル監督は、2021年9月に逝去したため、本作が最後の長編作品となっています。主人公は、タクシー運転手をしながら家族とごく普通の暮らしを送っているケンプトン・バントン(ジム・ブロードベント)で、一見世界的な名画とは無縁な彼がこの事件の犯人として捕まり、法廷に上がるシーンから始まります。犯行の真相は本編をご覧いただきたいのですが、ケンプトンのユーモア溢れる人柄や、名画を隠し持つ姿には思わず笑ってしまうシーンもあるので、シリアスなテーマながらも楽しんで観られます。
ケンプトンを演じたジム・ブロードベントは、実際のケンプトン・バントンとそっくりで、まさに適役だと感じますし、彼が演じたからこそより魅力的なキャラクターへと昇華したと思います。そして、ケンプトンの妻ドロシーを演じたヘレン・ミレンの存在ももちろん見逃せません。本作では平凡な主婦を演じており、普段の俳優としての貫禄を上手く封印して役に溶け込んでいる姿に驚きます。その他にもフィオン・ホワイトヘッド、マシュー・グードらも物語の重要なキャラクターを演じているので、ケンプトン達とどう絡んでいくのかにも注目です。
本作は、世界的名画の盗難事件の驚くべき真相を知ることができると同時に、1人の男性を中心とした人間模様も観られる作品です。ケンプトンの家族関係や主張には、常に優しさや愛があり、本作を観ていると自分自身にも優しさや正しさとは何なのか問いかけたくなります。
特別ムードを盛り上げる展開はありませんが、気まずくなるシーンはないのでデートで観るのもアリです。本作ではケンプトンとドロシーの夫婦関係も描かれており、名画の盗難をきっかけに2人の態度や行動が少しずつ変化していきます。客観的に観ていると笑えるシーンもありますが、パートナーに何か隠し事がある人は決して他人事のように観られないと思うので(苦笑)、お互いに隠し事がない状態で観ることをオススメします。
ケンプトンは60歳の高齢者なので、皆さんが彼の心情に共感することは難しいかもしれませんが、彼の優しくユーモアのある人柄はぜひ参考にしてください。もちろん盗難はしてはいけないことですが、彼があることを主張する姿は皆さんにとっても良い刺激を与えてくれると思います。自分の意見を主張することが苦手な方には特に観て欲しい1作です。
『ゴヤの名画と優しい泥棒』
2022年2月25日より全国公開
ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト
© PATHE PRODUCTIONS LIMITED 2020
TEXT by Shamy
- ニッキー・ベンサムさん(プロデューサー)インタビュー
- イイ俳優セレクション/ジム・ブロードベント
- イイ俳優セレクション/フィオン・ホワイトヘッド
- イイ俳優セレクション/ヘレン・ミレン(後日UP)
- イイ俳優セレクション/マシュー・グード