これまで個性的なクリーチャーが登場する名作を数々作ってきたギレルモ・デル・トロ監督が作り出す世界観と、マーク・グスタフソンが手掛けるストップモーションアニメの世界観が絶妙なバランスでブレンドされている本作は、期待通りに可愛らしく不気味な、一癖も二癖もある作品となっています。ビジュアル面が魅力的であることはもちろんのこと、ユアン・マクレガー、クリストフ・ヴァルツ、ロン・パールマン、ジョン・タトゥーロ、フィン・ヴォルフハルト、ケイト・ブランシェット、ティルダ・スウィントンなど豪華俳優陣が声優として参加している点も見どころです。また、物語の舞台がベニート・ムッソリーニによる独裁政治が行われていた時代となっていて、戦争にまつわる社会風刺も含まれたストーリーとなっている点も特徴となっています。
本作を観ていると、原作ってどんなお話だったんだろうと気になるでしょう。世の中的にはディズニーの『ピノキオ』の印象が未だに強いと思いますが、原作者カルロ・コッローディの「ピノッキオの冒険」にはもっと残酷な描写があるとされています。原作に近いストーリーとしては、ロベルト・ベニーニ監督、主演作『ほんとうのピノッキオ』観て、比較するのもオススメです。本作は、原作のいくつかの設定を踏まえながらも、新たな解釈で描かれている点が一番の魅力です。ゼペットじいさんの設定も少しアレンジされていて、親子の物語としての要素が強く込められています。本作の解釈は、ある意味子ども目線であるともいえるし、ありのままの自分でいることの大切さ、ありのままの他者を愛する大切さを描いている点で、現代の価値観に合う内容だといえます。私達がよく知るピノッキオの物語は、無垢なピノッキオが善悪を覚えて“良い子”になっていく物語ですが、本作は親として子どもとどう向き合うかを描いています。本作は子ども達にも観て欲しいですが、大人にこそ観て欲しい1作です。
将来子どもが欲しいカップルや夫婦、既にお子さんがいる夫婦で観ると、子育てについて考える良いきっかけとなりそうです。既にお子さんがいる夫婦の場合は、自分達の価値観や都合を子どもに押し付けてないか、客観視できる部分があると思います。家族皆で観るのもありだし、親だけでまず観てみるのもアリでしょう。
もし見つけられるなら原作に近い本も読みつつ、ピノッキオの物語の映画化作品をいろいろ観比べてみると良いでしょう。原作のストーリーで描かれている教訓、映画化された作品で描かれている教訓のそれぞれから学べることがあると思います。一つのストーリーから、さまざまな解釈が生まれるという点も、人やこの世の中を理解する上で役に立つのではないでしょうか。
『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』
2022年11月25日より一部劇場にて公開、12月9日よりNetflixにて配信中
劇場用公式サイト Netflix公式サイト
TEXT by Myson