REVIEW

草の響き

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『草の響き』東出昌大

原作者、佐藤泰志の作品は『きみの鳥はうたえる』『そこのみにて光輝く』『オーバー・フェンス』などが映画化され、本作は五度目の映画化となります。前述の作品をご覧になったことがある方、原作を読んだことがある方なら、どんな世界観なのか少しイメージできると思いますが、本作も人間の奥深くにある部分をあぶり出したような、とても正直なストーリーという印象を受けます。原作は佐藤氏自身の体験をもとに書いた短編小説で、設定が変更されているところもありますが、作者自身が苦しみながら生んだストーリーだと思うと、より一層胸が締め付けられます。また主演の東出昌大さんにインタビューをさせていただいた時にキャストやスタッフも苦しみながら生み出した作品という言葉もあった通り、本作を作った方達の中から出てきた生の人間味にもぜひご注目ください。
具体的に何が起こるのかは本編でご覧いただきたいので伏せますが、人間って外からだけではやっぱりわからない部分がたくさんあるのだなと感じました。本作を観ると、自分が思っている心の強さや弱さ、他者の目に映る心の強さや弱さは当てにならない。それが良くも悪くも運命を狂わせるのだなと思い知らされます。
また、主人公がランニングに没頭する姿からは、エネルギーを感じる一方で、何かがおかしいのかもしれないという想像が膨らみ、物事の両面性が絶妙なバランスで描かれています。ハッピーエンドなのかバッドエンドなのかも観る方によって捉え方が異なりそうですが、そこが魅力の1つでもあり、どちらに捉えたとしても何かが動き出したと感じられるラストには希望をもらえるはずです。

デート向き映画判定
映画『草の響き』奈緒

夫婦のちょっとしたやり取りに見えるすれ違いや苛立ちがとてもリアルで、現実を突きつけられる部分はあります。ただ、一方では自分達を客観視するきっかけになり、違った角度から人間を理解できそうな部分も提示してくれるので、相手に優しくなれるかもしれません。また、一緒に観て本作について会話をすることで、普段お互いが勘違いしているところ、歩み寄りができるところを見つけられる可能性もあるでしょう。ロマンチックなムードにはなりませんが、真っ向から相手と向き合いたい方はデートで観ても良さそうです。

キッズ&ティーン向き映画判定
映画『草の響き』Kaya/林裕太/三根有葵

高校生のキャラクターも重要な役で登場するので、皆さんは彼らの目線で観られると思います。ショッキングな展開も出てくるので、1人でじっくり観ようとする場合は気持ちが元気な時に観たほうが良いでしょう。仲の良い友達と観ると、普段なかなかはき出せないことを話せるきっかけにできるかもしれません。

映画『草の響き』東出昌大/奈緒

『草の響き』
2021年10月1日より北海道函館市シネマアイリスにて先行公開/2021年10月8日より全国順次公開
コピアポア・フィルム、函館シネマアイリス
公式サイト

© 2021 HAKODATE CINEMA IRIS

TEXT by Myson

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『HERE 時を越えて』トム・ハンクス/ロビン・ライト HERE 時を越えて【レビュー】

映像作家としてあらゆる挑戦を行ってきたロバート・ゼメキス監督は、本作でも新たな挑戦の成果を見せてくれています…

映画『アンジェントルメン』ヘンリー・カヴィル/エイザ・ゴンザレス/アラン・リッチソン/ヘンリー・ゴールディング アンジェントルメン【レビュー】

本作は「近年機密解除された戦時中の極秘ファイルを後ろ盾にしたダミアン・ルイス著 『Churchill’s Secret Warriors: The Explosive True Story of the Special Forces Desperadoes of WWII』」を原作としており…

映画『少年と犬』高橋文哉/西野七瀬 映画レビュー&ドラマレビュー総合アクセスランキング【2025年3月】

映画レビュー&ドラマレビュー【2025年3月】のアクセスランキングを発表!

映画『BETTER MAN/ベター・マン』ジョノ・デイヴィス 社会的成功が本当の幸せをもたらすとはいえない事例【映画でSEL】

昨今、ウェルビーイングという概念が広まりつつあり、社会的な成功は必ずしも幸福をもたらすとは限らないという見方も出てきました。その背景を、「自己への気づき」(SELで向上させようとするスキルの一つ)に紐づけて考えてみます。

映画『片思い世界』広瀬すず/杉咲花/清原果耶 片思い世界【レビュー】

広瀬すず、杉咲花、清原果耶がトリプル主演を務める本作は、『花束みたいな恋をした』の脚本を手掛けた坂元裕二と、土井裕泰監督が再タッグを組んだ…

映画『神は銃弾』マイカ・モンロー マイカ・モンロー【ギャラリー/出演作一覧】

1993年5月29日生まれ。アメリカ出身。

映画『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』 ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース【レビュー】

“ハッピー”や“ゲット・ラッキー”をはじめとする大ヒット曲を多数生み出し、他のビッグ・アーティストへの楽曲提供やプロデュースでも並外れた偉業を成してきたファレル・ウィリアムスの人生が初めて映画化…

映画『ANORA アノーラ』ユーリー・ボリソフ ユーリー・ボリソフ【ギャラリー/出演作一覧】

1992年12月8日生まれ。ロシア出身。

映画『片思い世界』公開直前イベント、広瀬すず/杉咲花/清原果耶/土井裕泰監督 存在するということに対しての肯定を、ここまで実験的に描いた物語もなかなかない『片思い世界』公開イベントに広瀬すず、杉咲花、清原果耶が揃って登壇

劇場公開を目前に控え、本作でトリプル主演を務めた、広瀬すず、杉咲花、清原果耶と、土井裕泰監督が舞台挨拶に登壇しました。

映画『おいしくて泣くとき』長尾謙杜/當真あみ おいしくて泣くとき【レビュー】

タイトルを聞いただけで泣いちゃいそうな作品だと予想できるので、逆に泣かないぞと…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『キングダム 大将軍の帰還』山﨑賢人/吉沢亮/橋本環奈/清野菜名/吉川晃司/小栗旬/大沢たかお 映画好きが選んだ2024邦画ベスト

正式部員の皆さんに2024年の邦画ベストを選んでいただきました。2024年の邦画ベストはどの作品になったのでしょうか?

映画『セトウツミ』池松壮亮/菅田将暉 映画好きが推すとっておきの映画を紹介【名作掘り起こし隊】Vol.4

このコーナーでは、映画業界を応援する活動として、埋もれた名作に再び光を当てるべく、正式部員の皆さんから寄せられた名作をご紹介していきます。

映画『オッペンハイマー』キリアン・マーフィー 映画好きが選んだ2024洋画ベスト

正式部員の皆さんに2024年の洋画ベストを選んでいただきました。2024年の洋画ベストに輝いたのはどの作品でしょうか!?

学び・メンタルヘルス

  1. 映画『BETTER MAN/ベター・マン』ジョノ・デイヴィス
  2. 【映画でSEL】森林の中で穏やかな表情で立つ女性
  3. 映画『風たちの学校』

REVIEW

  1. 映画『HERE 時を越えて』トム・ハンクス/ロビン・ライト
  2. 映画『アンジェントルメン』ヘンリー・カヴィル/エイザ・ゴンザレス/アラン・リッチソン/ヘンリー・ゴールディング
  3. 映画『少年と犬』高橋文哉/西野七瀬
  4. 映画『片思い世界』広瀬すず/杉咲花/清原果耶
  5. 映画『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』

PRESENT

  1. 中国ドラマ『柳舟恋記(りゅうしゅうれんき)〜皇子とかりそめの花嫁〜』QUOカード
  2. 中国ドラマ『北月と紫晴〜流光に舞う偽りの王妃〜』オリジナルQUOカード
  3. 映画『ガール・ウィズ・ニードル』ヴィク・カーメン
PAGE TOP