原作者、佐藤泰志の作品は『きみの鳥はうたえる』『そこのみにて光輝く』『オーバー・フェンス』などが映画化され、本作は五度目の映画化となります。前述の作品をご覧になったことがある方、原作を読んだことがある方なら、どんな世界観なのか少しイメージできると思いますが、本作も人間の奥深くにある部分をあぶり出したような、とても正直なストーリーという印象を受けます。原作は佐藤氏自身の体験をもとに書いた短編小説で、設定が変更されているところもありますが、作者自身が苦しみながら生んだストーリーだと思うと、より一層胸が締め付けられます。また主演の東出昌大さんにインタビューをさせていただいた時にキャストやスタッフも苦しみながら生み出した作品という言葉もあった通り、本作を作った方達の中から出てきた生の人間味にもぜひご注目ください。
具体的に何が起こるのかは本編でご覧いただきたいので伏せますが、人間って外からだけではやっぱりわからない部分がたくさんあるのだなと感じました。本作を観ると、自分が思っている心の強さや弱さ、他者の目に映る心の強さや弱さは当てにならない。それが良くも悪くも運命を狂わせるのだなと思い知らされます。
また、主人公がランニングに没頭する姿からは、エネルギーを感じる一方で、何かがおかしいのかもしれないという想像が膨らみ、物事の両面性が絶妙なバランスで描かれています。ハッピーエンドなのかバッドエンドなのかも観る方によって捉え方が異なりそうですが、そこが魅力の1つでもあり、どちらに捉えたとしても何かが動き出したと感じられるラストには希望をもらえるはずです。
夫婦のちょっとしたやり取りに見えるすれ違いや苛立ちがとてもリアルで、現実を突きつけられる部分はあります。ただ、一方では自分達を客観視するきっかけになり、違った角度から人間を理解できそうな部分も提示してくれるので、相手に優しくなれるかもしれません。また、一緒に観て本作について会話をすることで、普段お互いが勘違いしているところ、歩み寄りができるところを見つけられる可能性もあるでしょう。ロマンチックなムードにはなりませんが、真っ向から相手と向き合いたい方はデートで観ても良さそうです。
高校生のキャラクターも重要な役で登場するので、皆さんは彼らの目線で観られると思います。ショッキングな展開も出てくるので、1人でじっくり観ようとする場合は気持ちが元気な時に観たほうが良いでしょう。仲の良い友達と観ると、普段なかなかはき出せないことを話せるきっかけにできるかもしれません。
『草の響き』
2021年10月1日より北海道函館市シネマアイリスにて先行公開/2021年10月8日より全国順次公開
コピアポア・フィルム、函館シネマアイリス
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TEXT by Myson