本作は、下北沢を舞台に、古着屋で働く荒川青を中心に、さまざまな人々の日々を描いた群像劇で、『愛がなんだ』『アイネクライネナハトムジーク』『mellow』『his』など次々と新作を発表し毎度話題をさらう今泉力哉監督が、漫画家の大橋裕之を共同脚本に迎えて作ったオリジナル脚本による作品です。オール下北沢ロケで撮られた作品で、下北沢の空気感を肌で感じられて、映画の世界に自然に没入できます。若葉竜也が演じる主人公の青は古着屋で働いていて、古本が好き。彼女に浮気をされてそのままフラれたばかりの彼は、未練たらたらで日々を過ごしていて、彼の何気ない日常は一見地味なのですが、彼が会う人会う人、一癖も二癖もあって、彼等との可笑しなやり取りが終始笑いを誘います。シーンの至るところで可笑しなセリフがたくさん出てくるのですが、どこか人間の本質を付くところもあって、「何でここでそんなこと言うねん(笑)!」と心でツッコミつつも、現実的な会話の裏にはこういう気持ちが隠されているんじゃないかと、とても親近感を覚えます。そして、うだつが上がらない空気をバンバンに発している青に、「自主映画に出てくれませんか?」と、女性学生監督から声がかかるのですが、青に新たな出会いがやってくるのかと思いきや、意外な展開が待っています。青だけでなく、他のキャラクターもどこかおかしなところがあって、それぞれにうまくいかないところを抱えながら日々を過ごしている姿にほっこりします。若葉竜也は『愛がなんだ』でも本当に良い芝居をしていましたが、本作の初主演も立派に務めています。人という生き物が愛おしくなる物語なので、笑って穏やかな気持ちになりたい人にオススメです。
恋愛関係がかなりゴチャゴチャしますが、コミカルに描かれていて、ツッコミどころが満載なので、似たような状況を経験したことがあったとしても、気まずくなるを通り越して笑って観られると思います。群像劇なので、誰かしら共感しやすいキャラクターが見つかると思うので、どんな人が観ても楽しめそうです。笑いのツボで相性を占うこともできそうなので、友達以上恋人未満の人や、付き合いたてのカップルで観るのもアリではないでしょうか。マンネリカップルもある意味刺激を得られると思います。
いろいろなキャラクターが出てきて、さまざまな恋愛模様が描かれるので、「自分に合う人ってどんな人だろう」「どんなに好きでもうまくいくとは限らないかも」と、恋愛シミュレーションとして観てもおもしろいと思います。一歩引いて観るとおかしいだろうと思える主張でも、好きな人に言われると受け入れてしまう理不尽な関係も描かれていたり、客観視すると新たな発見、冷静な視点が身に付きそうな場面があります。登場人物も皆さんに近い世代なので、身近なストーリーとして楽しめるでしょう。
『街の上で』
2021年4月9日より全国順次公開
「街の上で」フィルムパートナーズ
公式サイト
©「街の上で」フィルムパートナーズ
TEXT by Myson