30歳の2人の男性、マティアスとマキシムは幼馴染み。2人はあるパーティに参加した際、共通の友人の妹から映画に出てくれないかと頼まれます。そして彼らは男性同士のキスシーンに応じますが、そのキスがきっかけでお互い特別な思いに気付きます。でも、これまでずっと仲の良かった友達に恋心を抱いたら、どうしたら良いかわからないのは当然のこと。さらにマティアスには異性の婚約者がいて、マキシムはオーストラリアへ旅立つことが決まっています。そんな考えるべきことが多すぎるこの状況で、マティアスとマキシムはどんな選択をするのでしょうかというのが本作の物語です。
このご時世、異性愛か同性愛かの違いなんて考えるのはもう古くて、本作を観ていると、誰でも一度は経験したことのある初恋の感覚が呼び覚まされます。監督兼マキシム役を務めたグザヴィエ・ドランも「これはゲイ映画ではない。『マティアス&マキシム』は、ずっと挑戦したかったラブストーリーであり、普遍的なロマンスなんだ」としていて(公式資料インタビューより)、まさにその通りだなと思います。例えば中高生の頃、急に身近にいた子が気になり出して、でも友情が壊れるかも知れないことが怖くて告白できないと震えた、あの感覚。まさにあのピュアな感じがこの映画にはあります。でもややこしいのは、それぞれ大人であって、これからの自分の人生を考え、周囲の人のことも気にかけなければいけないということ。だから2人の恋愛へのハードルは高くなりますが、同時に気持ちが抑えられれば抑えられるほど燃え上がっていくのがわかります。特にマティアスのほうが大きな葛藤を見せますが、明らかに挙動不審になる姿が愛おしいんです(笑)。一方、マキシムはマティアスに対して優しい気持ちと寂しい気持ちの狭間で揺れ動いていて、彼の静かな葛藤にも共感できます。あと付け加えておきたいのが、物語の空気を変えるケヴィン(ハリス・ディキンソン)の登場。ハリス・ディキンソンといえば、最近では『マレフィセント2』で優しい王子を演じていましたが、今作では生意気なやり手のビジネスマンを演じていて、ハリスは何やってもキマってるなあと釘付けになりました(笑)。
グザヴィエ・ドランはこれまで母子の物語をずっと描いてきており、今作はラブストーリーに挑戦しているわけですが、やはり母子関係もキーポイントになっていて、これまでの作風からもぶれていません。ラブストーリーとしても人間ドラマとしても見応えがある作品になっています。
お互いに一途な想いで交際しているカップルならデートで観ても大丈夫だと思いますが、どこかに別の誰かの存在を抱えたまま違う相手と恋愛をしている人は、抑えている気持ちが目覚めてしまうきっかけになるかも知れないので、1人で観るか、本音を話せる友達と観ることをオススメします。逆にお互いに何となく惹かれながら気持ちを伝えられないでいる人は、意中の人を誘い、本作にあやかって告白してみてはどうでしょうか!
私達は少なからず何らかの部分において、「普通はこう」という社会的な枠にハメられて育ちます。なので無意識に自我のある部分が抑えられたままということもあるでしょう。でも、何歳になっても自分自身がまだ知らない一面に気付くことがあるかも知れません。そこでどっちの道を取るかは皆さん自身ですが、自分の本心に気付いたら、それと一度は真剣に向き合うことが大切だということを本作は教えてくれます。PG-12で大人同伴なら観られますが、内容的に1人でじっくり観て欲しい作品なので、中学生以上になってから観ることをオススメします。
『マティアス&マキシム』
2020年9月25日より全国公開
PG-12
ファントム・フィルム
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TEXT by Myson