これは、闇鍋のような作品です(笑)。観る人を選ぶ要素がかなりあります。自分でさまざまな解釈をするのが好きな映画ヘビーユーザーは、存分に楽しめると思う一方、可愛いドレスを着た主人公ハーパー(ジェシー・バックリー)が映るアーティスティックなビジュアルに惹かれて、何となくのノリで観ると「ギョエ〜〜〜〜!!!」となってしまうでしょう。もうクライマックスなんて、「何を見せられてるんだろう…」と、ある意味劇中のハーパーと同じく固まってしまうかもしれません。
とはいえ、嚙めば嚙むほど味が出てくるのが本作の魅力です。クライマックスのあまりに強烈なビジュアルに「オイオイオイオイオイ」となってしまうものの、その描写が何を意味するのかを考えずにいられなくなります。だからこそ、最後のハーパーの反応、表情をどう読み取るかがとっても重要!直前まで目を背けたくなるシーンが続きますが、どうか頑張って目をしっかり開けてキャラクターのやり取りに最後まで注目してください。
この後は、私なりの解釈をなるべくネタバレがないように書きますが、何も知らずに観たい方は鑑賞後に読んでいただければと思います。
ハーパーは、冒頭で記憶から消せない出来事を経験します。ハーパー自身、その出来事から一生逃れられないだろうと覚悟していることはセリフから伝わってきます。ただ、彼女の記憶から消えない理由が複数あることが、その時彼女に何が起こったかがストーリーの中で徐々に明かされていく度に見えてきます。“同じ顔の男たち”は、彼女が何をしていてもふと現れますが、それは彼女のトラウマの象徴であるように読み取れます。そして、彼等が口々に話す言葉は男性社会で女性達が異論を唱えた際や助けを求めた際に返される理不尽な言葉であり、女性達自身も受け容れてはいないながらも脳に擦り込まれてきた社会通念を代弁しているものだと考えられます。少年や聖職者さえ“同じ顔の男たち”である点で、いかに逃げ場がないか、おかしな社会通念が蔓延っているかを表しているとも受け取れます。自分の意志を主張したハーパーが責めを負う必要はさらさらないはずですが、なぜかハーパーが身の危険を感じ、自分が崩壊する恐怖怯える状況に陥ってしまっているという理不尽さが、本作で本当に怖いポイントなのではないでしょうか。ラストのハーパーの表情をどう読み取るかは皆さんそれぞれ異なると思いますが、私は「何言ってんだ、こいつ」と世の女性達の本心を表現しているように思いました。女性を尊重できない男性達がいかに稚拙であり、愛という上っ面な言葉で片付けようとする姿勢をもろともしないハーパーの反応に私は賛成です。
最後に、海外ドラマ『ペニー・ドレッドフル ~ナイトメア 血塗られた秘密~』を観ていたファンとしては、あのキャラクターを彷彿とさせる部分もあり、ロリー・キニアを起用している点で「ナイス・キャスティング!」とニンマリしてしまいました。七色の顔を出せるロリー・キニアが素晴らしい!そして、主人公のか弱さと強さを同時に体現したジェシー・バックリーにも拍手を贈ります。
絶対デートで観ないほうが良いでしょうね(笑)。観終わった後は何を話していいんだか…となりそうです。いや、でもこれを観た後にいろいろ開けっぴろげに話ができるなら、二人の心の距離はかなり近いと胸を張れるかもしれません。とはいえ、交際が浅いと「どういうつもりで誘ったの?」というところから、いろいろな疑念を持たれる恐れがあります。一人で観るか、仲の良い友達と観ることをオススメします。
15歳以上は一応観られますが、いろいろな意味で、たくさん映画を観て免疫ができてから観るほうが良いと思います。というのも、映像が強烈なだけにそれだけで終わって欲しくない部分があるからです。ここまでの描写をすることにどんな意味が込められているのか、ぜひ考えながら観て欲しいと思います。
『MEN 同じ顔の男たち』
2022年12月9日より全国公開
R-15+
ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト
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TEXT by Myson