『へレディタリー/継承』のアリ・アスターが監督、脚本を務めた作品ということで、「何かあるんだろう」というのは予想していましたが、個人的には『へレディタリー/継承』よりもよっぽどこちらのほうがクレイジーでヘビーに感じました。本作の舞台は、スウェーデンの奥地で暮らす宗教団体が90年に一度行う祝祭。メインキャラクターは、両親と妹を亡くしたばかりの大学生ダニー(フローレンス・ピュー)、彼女の恋人クリスチャン(ジャック・レイナー)とその友人達。ダニーとクリスチャンは、民俗学を研究する友人達に誘われて、祝祭に参加するためにスウェーデンに旅行をすることになりますが、儀式を見学するだけに留まらない事態に巻き込まれていきます。最初はこの宗教団体の行為の恐ろしさに目がいきますが、根本は宗教云々いうよりも、ある意味、誰にでも起こり得る話だからこそ、このストーリーは怖くて、切ないのです。
あくまで私の解釈ですが、人には何かすがりつくものが必要な時があること、そして何かを“盲信”することが救いになることもあります。ダニーは家族を一度に亡くし、その背景にも重い事情があって失意のどん底にいますが、恋人のクリスチャンともうまくいっていません。そんな精神的に不安定な彼女が、この旅にきてどう変わっていくのかを観ていると、強烈な体験が彼女を変えていくことがわかります。ここで目にする光景の中には、ある意味動物的に男女の役割を象徴するような行為も出てきます。どれも一見すごくむごいのですが、どこか男女関係における“割り切り”を促すような描写にも見えます。そういった視点で観ると、最終的にダニーにとっては救いになる部分もあるように思うわけですが、世の中にある“宗教”の存在意義というものを改めて違った視点で観るような感覚があります。公式資料でアリ・アスター監督は「僕はダニーのような立場にいたんだ。(中略)これは僕自身のトラウマを癒すためのおとぎ話なんだ」と語っており、監督としてはハッピーエンドだそうです。観ようによってはバッドエンドにもハッピーエンドにも取れる結末ですが、皆さんはどう観るでしょうか。いろいろな解釈ができる作品なので、複数回観ると、毎度発見がありそうです。
うまくいっていないカップルが、別れるタイミングを逃したまま、旅に出てえらいことになるというストーリーなので、カップルと観るとだいぶ複雑な気持ちになると思います(笑)。かなり強烈なストーリーなので、客観的に観る人も多いとは思いますが、むごいシーンも多いので、そういう意味でもデートにはオススメできません。哲学的な解釈が好きな人は、根底に描かれているものを考えながら観るとどっぷりハマれるので、1人でじっくり観るか、仲の良い友達と観ることをオススメします。
15歳未満の人は観られませんが、高校生でもこれはかなり刺激が強いので、心して観てください。怖いシーンも出てくるスリラー映画ではありますが、美しい風景や衣装なども出てくるので、アートとして楽しめる要素もあります。結末は「なんで、そうなっちゃうの〜?」と思う人もいるかも知れませんが、その辺りは人生でいろいろな経験をしてからもう1回観ると見え方が変わる部分もあるでしょう。今は今の心で観るということで良いと思います。
『ミッドサマー』
2020年2月21日より全国公開
R-15+
ファントム・フィルム
公式サイト
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TEXT by Myson