REVIEW
若き才能とエネルギーがほとばしる1作です。山中瑶子監督は、19歳の時に自主制作をした『あみこ』で、第39回ぴあフィルムフェスティバルに選出され、PFFアワード観客賞を受賞。さらに、翌年の2018年、『あみこ』は、ベルリン国際映画祭に招待され、山中監督は20歳で同映画祭の長編映画監督の最年少記録を更新し、『あみこ』は10カ国以上で上映されました。映画公式資料によると、『ナミビアの砂漠』主演の河合優実は、高校3年生の時に『あみこ』を観て、触れたことのない刺激を受け、山中監督に「女優になります」と書いた手紙を手渡し、「いつか出演したいです」と伝えたそうです。そうして、ここに才能ある若き映画人のタッグが叶いました。山中監督も河合優実の言葉に触発され、並々ならぬ覚悟で本作を作ったことが下記の山中監督のコメントから伝わってきます。
「今決まっているのは、わたしがあなたを主演に映画を撮ることだけです」と河合さんに伝えたら、「山中さんが監督なら何でも大丈夫です」と言ってくれました。彼女とのディスカッションを重ねていくうちに、自分自身を隠蔽することをせず、自分の目から見た本当のことを描こう。それが自分にとって好ましくない部分を明かしてしまうことになっても、そういう風に映画を作ろうと覚悟を決めました。(山中瑶子監督のコメント/映画公式資料より)
本作を観れば、こうした山中監督、河合優実両者の思い入れの強さや覚悟が自ずと伝わってきます。パンチ力が抜群で、観終えた後の良い意味での疲労感、充実感があります。同時に、前情報を入れずに観ると、『ナミビアの砂漠』というタイトルで現代日本を舞台にしたストーリーがどう展開するのか想像がつかず、カナのキャラクターも強烈なので、一度観ただけでは拾いきれないものが残る感覚があります。カナをもっと理解したくなるし、ハヤシ(金子大地)やホンダ(寛一郎)も興味深いキャラクターなので、きっと二度三度と観たくなるはずです。いろいろな解釈をして楽しみたいし、他者と意見交換したくなる作品です。
ここからはあくまで私個人の解釈です。ネタバレしないように書いていますが、鑑賞後に読むことをオススメします。
本作には、主人公カナ(河合優実)という人間のあらゆる側面が吹き出しています。前述の山中監督のコメントにある「自分にとって好ましくない部分」、つまり誰にでもある人間の好ましくない部分もさらけ出されている状態がカナだとして、カナが混沌とした存在に見えるのは、裏返すと、人間は隠している部分が多いからこそ整然として見えているだけだと感じます。人間の発達におけるアイデンティティの形成や、精神状態の健全さを語る際、統合という言葉が出てきます。つまり、自分の中のいくつもの“自我”をうまく統合できるから安定した状態、正常な状態が保たれるし、成長過程でアイデンティティとして統合されるから自分なりの生き方ができるようになると考えると、カナはあらゆる“自我”を解き放っているだけとも受け取れます。精神的にアップダウンが激しい点では人間関係の構築が難しい面もあるにせよ、視点を変えれば、むしろカナは嘘がない人間といえるのではないでしょうか。
ネタバレを避けて具体的な内容には触れませんが、カナはとても身勝手なようでいて、至極真っ当でもあります。感情を爆発させる時もあれば、無に見える時もあります。そういう姿を観ていて、カナ自身が砂漠であると同時に、砂漠の中のオアシスでもあるという二面性も感じます。タイトルにある“砂漠”は、カナの乾いた心の喩えに思えたり、逆にカナの周りにある社会の殺伐さや、人間の無関心の喩えに思えます。
デート向き映画判定
恋愛を軸に、キャラクター達の人間性が露わにされるので、デートで観るとどんな雰囲気になるのかが読めません(苦笑)。素直な気持ちで観て、お互いに語れる仲なら、本作を観て普段言えないことを話す機会にできる可能性もあります。ただ、一見、恋愛関係における相性のようなものを描いているようでいて、それよりももっと深いところを突くストーリーとなっています。なので、相手がどうというよりも、自分の恋愛観を問い直す機会になるかもしれません。そういう意味では1人でじっくり観るか、仲の良い友達と観て語るほうが良さそうです。
キッズ&ティーン向き映画判定
言葉で説明仕切れない“何か”を映画で見せてくれる作品です。主人公のカナに近い皆さんは、余計に感覚的に響くところがあるのではないでしょうか。人間が抱えるあらゆる矛盾に向き合うきっかけになるので、自ずと自分の価値観を振り返ることもできそうです。
『ナミビアの砂漠』
2024年9月6日より全国公開
PG-12
ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト
©2024『ナミビアの砂漠』製作委員会
TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)
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情報は2024年9月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。
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