物語の舞台は1937年、ナチス・ドイツがオーストリアを併合しようとしていた頃を描いています。主人公のフランツは自然に囲まれた田舎町の湖の近くに母と暮らしていましたが、仕事を得るために1人でウィーンへ行き、勤め先のタバコ屋でフロイト教授に出会い、交流を深めていきます。精神分析学の創始者といわれる、オーストリアの精神科医ジークムント・フロイトが生み出した理論として、無意識、それを知る手がかりとしての夢分析、リビドーなどがありますが、フランツの成長物語として描かれるストーリーの中にそういった視点がふんだんに取り入れられています。ただ本作は、フランツが見る夢、彼の行動や言動からやみくもに彼についての分析を言葉で述べるのではなく、感覚的かつ視覚的に表現している点が見事です。辞書(国語辞典 改訂新版 旺文社)によると、リビドーは「①欲望、②性的エネルギー」とされていますが、本来は字義通りの意味よりももっと広義で深いものを指していると思います。それが何かというのを理解するのはとても難しいと以前から感じていましたが、本作のフランツの成長を通して、彼が初恋を経て、“坊や”から1人の男になり、ラストである種の闘争心を見せたところに、リビドーとは何かが表れているように、私は解釈しました。フランツとフロイトのリビドーについての会話の中で、フロイトは、リビドーは快楽と苦悩をもたらすものと言っていて、フランツの最後の決断、行動には苦悩と快楽が見えます。彼が性的な面での成長も含め大人になったことで、彼の言動にも大きな変化がある点をぜひ注目して観てください。
キャストも魅力的で、主演のジーモン・モルツェはルックスもさることながら、演技にも魅了されます。オットーを演じたヨハネス・クリシュもとても良い味を出しています。そして、本作でフロイトを演じた名優ブルーノ・ガンツは2019年に亡くなり、本作が遺作となりました。数々の作品で素晴らしい演技を見せてくれたブルーノ・ガンツの姿もぜひ目に焼き付けてください。
ヌードやセクシャルなシーンが何度も出てきます。ただ、エロティックな描写というよりは、リビドーを語る上では外せないという点で自然に入っているように思えるので、それほど気まずい雰囲気にはならないのではないでしょうか。とはいえ、男女関係の理想と現実を描いている部分を考えると、自分達が正式なカップルなのかどうかが曖昧だったり、相手にあしらわれているように感じながらやや片思いのまま関係を続けている場合は、複雑な思いが湧いてくるかも知れません。その辺りを考慮して、1人で観るか、誰か誘うか検討してみてください。
R-15なので15歳未満の人は観られません。15歳以上のティーンの皆さんは、主人公フランツの目線で、フロイト教授からの恋愛指南を受けてみてはどうでしょうか。また、ピュアなフランツが素直に恋にぶつかっていく姿から、恋愛には酸いも甘いもあることを学べつつ、人として逞しく成長していく姿からは、人間としてどう生きたいかを選ぶことの重要さを学べると思います。
『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』
2020年7月24日より全国公開
R-15+
キノフィルムズ
公式サイト
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TEXT by Myson