なぜこの時代に“新聞”をテーマにしているのかという点で、情報の精度についていろいろと考えさせられます。フェイクニュースが溢れ、誰かの憶測だけでもすぐに不明瞭な情報が広まってしまうネットと違い、新聞記事は、徹底的に裏を取らないと載せられず、紙に刷られるまでに情報が吟味される媒体であるからこその重みがあります。同時に、時間をかけているからこそ、記事になる前に権力者や外部からの圧力、影響を受けてしまうという事情もあり、そういう状況の中で、私達は知るべき世の中の事実を果たしてどこまで正しく受け取っているのかという問題を、この映画から投げかけられます。ここ数年、実際にあったニュースを彷彿とさせる問題が取り上げられている点でも身近に感じるストーリーで、シチュエーションは違っても、組織の一員である人なら誰にでも起こりそうな出来事を描いており、終始リアルな緊迫感が味わえます。日本だけではなく、どんな国でも政治とメディアの間にはこういう事情がありそうで、それは私達の想像以上に根深いものだと推察できます。情報というものは、扱い方によっては、受け取る側だけでなく、扱う側の人々の心も蝕んでいると痛感できる内容なので、ふだん何気なく受け取っている情報の重みも実感できるでしょう。
新聞記者を演じるシム・ウンギョン、内閣情報調査室で働く公務員を演じる松坂桃李の2人の演技が本当に素晴らしく、キャラクターの苦悩がすごくリアルに伝わってきます。この映画が少しでも、国民の心を動かし、政府の目を覚ますきっかけとなれば良いなと願います。
松坂桃李が演じるキャラクターは、家族を守りたい思いと、正義を果たしたいという思いで揺れ動きます。同じく、高橋和也が演じるキャラクターも、同じようなシチュエーションで辛い経験をした人物として描かれているので、カップルで観ると、パートナーとしてこういった問題にどう立ち向かうのか考えるきっかけにできるでしょう。重い内容なのでウキウキしたムードで過ごしたいデートの日にはオススメしませんが、お互いの価値観を知りたいと思っているなら、精神的に健康な時に一緒に観てください。
若い皆さんはネットでニュースを見るのが当たり前で、新聞を読む人は少ないと思いますが、だからこそ敢えて本作を観て、情報の重みを感じてもらえたら嬉しいです。情報は、人の役に立つこともあれば、人を傷つけたり、操ったりするものでもあるということを本作から知ることができます。情報がどこから出ているものだとしても、すべてが正しいとは限りません。受け取った情報は、個々に自分自身で吟味する必要があることも実感できると思います。
『新聞記者』
2019年6月28日より全国公開
スターサンズ、イオンエンターテイメント
公式サイト
© 2019『新聞記者』フィルムパートナーズ
TEXT by Myson