これまで家族をテーマにさまざまな映画を撮ってきた是枝監督ですが、国を超えて、また違った表現で、こんなに素晴らしい作品を作られるとはお見事です。そんな本作は、人の感情、家族、親子の関係は万国共通だなと改めて感じさせる内容になっています。本作のストーリーは、国民的大女優であるファビエンヌが、「真実」という自伝本を出したことで、そこに綴られた内容を巡り、娘リュミールと母ファビエンヌが過去の真実に向き合うというもの。最初は娘の目線で観て、女優の仕事に夢中になるあまり母親業を怠ってきた母が、プライドから事実をねじ曲げて本を出版したのかと思ってしまいますが、物語が進むにつれて、まさに”真実”が明かされていき、最後にはまったく異なる親子関係が浮き彫りになります。これは女性としての生き方を問い直す内容とも言えて、改めて母であることと、一人の人間、女性として生きることの大変さを実感させられます。そして、母と娘がお互いに抱く複雑な心情をカトリーヌ・ドヌーヴとジュリエット・ビノシュが見事に演じていて、その演技力と迫力に圧倒されます。これは毒とユーモアと優しさが絶妙に詰まった作品で、一流の仕事が観られます。
母と娘の物語なので、女性が共感するのはもちろんですが、親子という普遍的なテーマを扱っているので、男性が観ても共感できるはずです。また男性は、仕事に熱心なあまり母親として苦悩する女性のパートナーとしての目線でも観られるので、夫婦やこれから結婚しようとするカップルは、こういった作品を観て家族観を語るきっかけにするのも良さそうです。
キッズにはまだ難しい内容かも知れませんが、仕事で母が不在がちで寂しい思いをしたことのある人にとっては、身近に感じられるストーリーなので、中学生以上なら、大人の心情も想像しながら観られると思います。子どもの目線で見ている状況は、親からすると全然違ったものかも知れないという新たな視点を与えてくれる内容で、「親に愛されていないのではないか」という不安を軽減してくれるはずです。親子で観ると、普段言えないことを話し合うきっかけにもできそうです。
『真実』
2019年10月11日より全国公開
ギャガ
公式サイト
©2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA photo L. Champoussin © 3B-Bunbuku-Mi Movies-FR3
TEXT by Myson