両親が出生届を出さなかったために、自分の誕生日も知らず、法的には社会に存在すらしていない少年ゼイン。彼は両親とたくさんの妹、弟と中東の貧民窟で暮らしていて、学校には通わず、12歳(推定)にして雇われ仕事をしたり、路上でモノを売ったりしています。そんな彼の日常が描かれているのですが、とても頭が良く、生きるための防衛本能がすごく身に付いていることが伝わってきます。まだ全くの子どもと言っていいゼインが、自分の身を守るだけではなく、大人達の身勝手な行動を警戒して、弱い立場の妹弟を守ろうとしつつ、どうやっても抗えない状況に陥っていき、無念な思いをするシーンは涙が止まりません。本当に信じられないほど過酷な状況でゼインや子ども達は生きていますが、これは映画の中だけのお話ではありません。ナディーン・ラバキー監督は、ゼインと(いくつかの点で)同じような境遇のゼイン・アル=ラフィーアをキャスティングし、シングルマザーのラヒルも同様のキャスティングを行ったそうです。また、ゼインの母は16人の子どもを持つ女性がモデルになっているそうで、映画と同じような状況で暮らし、6人の子どもを亡くしたとのことです。さらに裁判官も本物の裁判官が起用されました。
本作には貧困、児童虐待、児童婚、人身売買…など、さまざまな問題が映し出されていて、子どもの目にはどんな風に見えているのかがまっすぐに伝わってきます。これは多くの人が知るべき内容です。
すごく辛い現実が描かれていて、正直デートどころではなくなります。ただ、これから一緒に家族を作ろうとしているカップルや、夫婦なら、一緒に観る意味があると思います。状況は違えど、大人に振り回されるのは子どもであり、子どもはどうすることもできません。だからこそ、まずは子どもの気持ちを理解するところから始めなければいけないと思います。
日本にも辛い環境の中で暮らしている子ども達がいるでしょうし、世界にも苦しんでいる子ども達がたくさんいます。自分には関係ないと思わずに、観て欲しいと思います。もし辛い思いをしている友達がいたら、何ができるのかを考えてみてください。行動に移すことは難しいし、どうやって助けたら良いかどうかも、正解を見つけるのはすごく大変です。でも、知ることで寄り添う気持ちが生まれてくればそれが一歩になると思います。
『存在のない子供たち』
2019年7月20日より全国公開
PG-12
キノフィルムズ
公式サイト
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TEXT by Myson