児童虐待に関するニュースが後を絶ちませんが、厚生労働省による調査では、平成24年度の虐待対応件数は66,701件で、統計を取り始めてから毎年増加、平成11年度の約5.7倍となっています。また、認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワークが発表しているデータでは、平成30年時点で、児童相談所における児童虐待相談対応件数は159,850件にも及んでいます。ただ、児童虐待は家庭内など閉鎖されたところで行われ、助けを求められずにいるケースが多く、相談件数よりももっと多くの児童虐待が行われている可能性もあります。
児童虐待のニュースを目にする度に、何かできないものかと考えますが、第三者の立場だと、介入すべきかどうか判断するのも難しいのが正直なところです。
映画でも、困窮する子ども達を映し出したものはいくつもありますが、いろいろな背景があり、解決の難しさを痛感します。今回はそんな映画をご紹介しながら、子どもが苦しむ状況になってしまう問題を考えてみたいと思います。
映画というところで、作り手の主観的な解釈で演出されている可能性がある点を踏まえて、考えてみました。当事者の方の言い分、こういった事情をよく知る方の見解もいろいろあると思いますので、いち意見としてご覧頂ければと思います。
児童虐待の定義 ※厚生労働省のWEBサイトより
児童虐待は以下のように4種類に分類されます。
●身体的虐待 :殴る、蹴る、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などにより一室に拘束する など
●性的虐待 :子どもへの性的行為、性的行為を見せる、性器を触る又は触らせる、ポルノグラフィの被写体にする など
●ネグレクト :家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かない など
●心理的虐待 :言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるう(ドメスティック・バイオレンス:DV) など
小さいジャケット写真やタイトルの文字リンクをクリックすると、Amazonのデジタル配信もしくはパッケージ販売に飛びますので、ぜひ観てみてください。
大人が思う以上に、子どもはすごく考えている
存在のない子供たち
貧しくて、子どもが多い一家で、大人以上に弟妹達の将来を心配し、責任感をもって面倒をみている少年ゼインの奮闘を描いています。親は子どもに対して全く愛がないのかと言えば、そうでもないようにも見えますが、貧しい人々への救済措置が不足している社会問題も相まって、子ども達にそのしわ寄せがいっています。また、宗教的、文化的な問題で避妊できないのか、国として教育が行き渡っていないのか、これ以上生まれてきても生活が苦しく、生まれた子ども自身が苦しめられる状況の中で、それでも子どもを作る大人に対する警鐘を発する内容になっています。
2019年7月20日より全国公開
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
タロウのバカ
タロウというあだ名の少年は、学校にも行かず、名前もわかりません。彼の親はどうしたのかと思ったら…。本作では親について詳細は描かれていませんが、ネグレクトであることが伝わってきます。タロウの「愛って何?」という言葉の根源はここからきているのだと思います。
2019年9月6日より全国公開
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
ラブレス
自分達のことしか考えない両親のもとで、完全に存在を軽んじられている子ども。ある出来事の末に両親の態度が変わるかと思いきや…。これは完全に両親本人達の無責任さのせいだと思います。
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
母さんがどんなに僕を嫌いでも
お母さんが大好きな少年が、大人になっても諦めずに、母との関係を変えようと努力を続ける物語。母が抱えてきた過去などが徐々に明らかになってくると、児童虐待の背景にある問題の複雑さを実感します。
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
ジュリアン
父親から母を守ろうとし、両親の間で板挟みになるジュリアン。父親の感情を逆なでしないように振る舞う姿に胸が痛みます。中心となる矛先が子どもでなくても、家庭内暴力は子どもを恐怖に陥れます。
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
グザヴィエ・ルグラン監督、トーマス・ジオリアさんインタビュー
シングルマザーの苦悩
マイ・エンジェル
アルコール中毒で、精神的にも問題を抱えているように思われる母親。娘を愛してはいるようですが、生活もままならず、頼れる男性を探し、娘を放置してしまいます。幼い娘は母の良からぬ行動を真似るようになり…。愛があるからといって、この状況は大問題。娘に手を差し伸べる人物も必要だし、母に手を差し伸べる人物も必要。
2019年8月10日より全国順次公開
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
フロリダ・プロジェクト
まともな仕事に就けないまま、モーテルで暮らす母と娘。一見モラルがなく、問題行動も多いけれど、彼女達は好きでこうなっているわけではないこともわかります。このままでは子どものために良くないと思っても、引き離されたくない親子を引き裂くのは辛いこと。親子を一緒にいさせてあげたいのはやまやまですが、ではどうすれば良いのか、本当に対処が難しい問題です。
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
誰も知らない
存在を隠されて生きている年下の子ども達。母親の理不尽な言いつけにも素直に笑って従っている姿が観ていて辛いです。母親が出て行ったまま、兄弟姉妹がずっと家に残された時、上の子が親代わりになる。まだ大人にならなくて良いのに、こんな風に大人にならざるを得ないなんて残酷です。子どもが子どもらしく過ごす権利があるはず。
子宮に沈める
実際に大阪で起きた事件をモチーフに作られた映画だそうです。ある意味、旦那の育児放棄から始まり、母親の精神が崩壊していきます。結果だけ見ると、母親が悪いのですが、こうなる前に彼女の夫を含め、何かできたはずと思ってしまいます。
大人になっても苦しめられる
ロケットマン
心理的虐待と言い切って良いのかわかりませんが、それに近いものがあります。子どもの頃の主人公にとって、祖母の存在が唯一の救いですが、大人になってからも両親が彼をひどく苦しめる様子が描かれていて、本当に心苦しいです。
2019年8月23日より全国公開
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
あゝ、荒野
反骨精神を胸に、ボクサーとして這い上がろうとする青年2人。それぞれに親からひどい仕打ちを受けて育った過去を持っています。彼らのように、怒りや悲しみから生まれた感情をプラスのパワーに変えていければ良いですが、その糸口に出会えるきっかけ作りを、第三者がもっと応援できれば良いなと思います。
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
大人に傷つけられた子どもは、そもそも大人を信じられなくなっている状況で、見知らぬ大人なら尚更、事情を聞こうとしてもすぐに心を開くのは難しいのではないかと思います。そうなると、やはり普段から安心して接することができる大人が身近にいることが大切なのではと考えます。とはいえ、それも簡単にできることではありませんが、小さい一歩からでも踏み出すには、社会全体としての啓蒙がもっと必要だと感じます。
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©2019「タロウのバカ」製作委員会
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TEXT by Myson