本作は1980年代の終わりにイタリアで実際にあった事件からインスピレーションを受けて作られたそうで、犬のトリマーやドッグショーをやっていたマルチェロは実在の人物だそうです。ただ、事件そのものを映画化したのではなく、ストーリーは自由な発想で作られたとのことです。前半では、主人公のマルチェロが犬達をとても大事に扱う様子、娘を思う心優しい父親としての姿が描き出されています。同時にマルチェロを頼っているのか、利用しているだけなのかわからない男シモーネの暴力性も映し出されていて、歪な2人の関係に興味津々になるはずです。そしてある事件が起こり、2人の関係がガラッと変わる後半は、マルチェロの変化が見どころで、彼が最終的に起こした行動の意味というか、この映画の中に込められた暗喩的なものが何なのか、考えを巡らす醍醐味が味わえる作品になっています。あくまで私の解釈でネタバレをしない範囲でいうと、犬は状況によって自由に駆け回ることもできるし、逆に鎖に繋がれたり、檻に入れられたりすることもあるというところから、そんな犬という象徴が、マルチェロとシモーネの関係に投影されている部分があるように思います。そういう意味で“ドッグマン”というタイトルの意味するところも深く感じて、すごく秀逸な作品だと感じました。
さらに犬の反応もすごくリアルで、犬の演技なのか、マルチェロ・フォンテの犬の扱いがプロ並みに上手いのか気になる、主人公と犬とのシーンも見どころです。ベースはバイオレンス要素の多いシリアスなドラマですが、ブルドッグのマッサージシーンなど上手すぎて笑っちゃうシーンもあり、緩急の付け方も絶妙でした。骨太映画が好きな方にオススメの1作です。
犬とおじさんと、彼に迷惑ばかりかける暴力的な男のお話なので、デート向きとは言えませんが、とても見応えのある作品なので映画をよく一緒に観るカップルにはオススメです。ただし、シモーネがすごく大柄で見るからに強そうなので、暴力シーンもそれだけ迫力があり、観ていて痛いシーンが何度かあります。その点だけ許容範囲なのかどうかを気にしつつ誘うと良いでしょう。
大柄でマッチョなシモーネに対して、主人公のマルチェロは小柄でか細く、身体的には圧倒的に負けてしまいます。性格的にも横暴なシモーネは、無理難題をマルチェロに言いつけますが、マルチェロはいつも断れずにいます。でも、嫌な時はちゃんとノーと言わないと、後で取り返しがつかない事態になることを本作で痛感できると思います。自分も思い当たる節がある人は、立ち向かう勇気をマルチェロからもらってください。ただしPG-12なので12歳未満の人は大人に助言をもらって観ましょう。というかそもそもキッズ向きではないので、せめて中学生になってから観てください。
『ドッグマン』
2019年8月23日より全国順次公開
PG-12
キノフィルムズ、木下グループ
公式サイト
TEXT by Myson
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