人には人との繋がりが大切で、どんな環境どんな関係であっても、家族と呼べる関係があることは救いになります。ただそれが、ヤクザという形である点でやっぱり大きな代償があるということを、とてもわかりやすく描いた物語だと思います。暴力団対策法が今どれくらいの効力を発揮しているのか、私達が日常で実感をもつことはあまりありません。でも本作には元ヤクザだった作家の沖田臥竜氏が脚本監修に加わり、リアリティを追究して作られていることで、本作を観れば暴力団対策法が少なからず効果を発揮している実態を知ることができます。
前半は主人公の山本が新しい“家族”を得て、組の中で頭角を表す様子が映し出され、後半は暴力団が排除されつつある社会で、彼等がどう生きていくのかが描かれています。ヤクザという存在をもちろん肯定はできませんが、社会の歪みと冷たさを実感させられるストーリーで、今この社会には救いの手が少ないということを痛感させられます。若者達がヤクザになってしまう経緯、ヤクザから抜けられない状況、ヤクザを辞められても生きる術がない状況を見ていると、ヤクザと呼ばれる人がいなくなるだけで、名前を変えた別の悪循環が生まれているだけだということも伝わってきます。そして、血の繋がった家族でなくても、家族だからこそ愛憎が深いということも巧みに描かれており、これまでのヤクザ映画とは異なるストーリーに引き込まれます。ノーを突きつけるだけでなく、その後私達がどうすべきか、誰もが本当に生きやすい社会にするにはどうすれば良いか、人と社会に責任を問うスタンスを見事に体現した作品です。
内容からしてデート向きとは言えませんが、不遇な環境で育ち、誤った道を選んでしまった主人公の不器用な恋愛も描かれていて、共感できる部分はあるので、2人とも興味があればデートで観るのも良いでしょう。また、本作の家族は血の繋がった家族ではありませんが、それに関わらず、1つの家族の物語として観られるので、家族の話をしたいなと思う人は、一緒に本作を観た後にお互いの家族の話をしてはどうでしょうか。
PG-12でヤクザものなので、小学生は無理して観ずに大きくなってから観ると良いでしょう。でも、主人公と同じ苦悩を味わわないよう、若いうちに観ることでいろいろと学べる部分があるので、中高生はぜひ観てみてください。大学生などだんだん大人になると、思わぬルートで悪い人達の関係に巻き込まれてしまう恐れもあります。反社会的勢力に1度入ってしまったら抜けられないし、そこから抜けられたとしても、今度は社会が受け容れてくれないことを本作は教えてくれます。たとえ仲の良い友達が関わっていても安心せず、うまい話にものらないでください。
『ヤクザと家族 The Family』
2021年1月29日より全国公開
スターサンズ、KADOKAWA
公式サイト
© 2021『ヤクザと家族The Family』製作委員会
TEXT by Myson