甲斐さやか監督が20年以上をかけ構想し脚本を書き上げ、映画化されたオリジナル作品『徒花-ADABANA-』。今回は本作で臨床心理士、まほろ役を演じた水原希子さんにインタビューをさせていただきました。チャーミングな雰囲気がとても印象的で、どの質問にも真摯に回答してくださいました。
<PROFILE>
水原希子(みずはら きこ):まほろ 役
1990年10月15日アメリカ生まれ、日本育ち。モデルとしてキャリアを積み、ニューヨーク、ミラノ、パリのファッションウィークで活躍。2010年『ノルウェイの森』で俳優デビューを飾る。その後、『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』(2015)、『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』(2017)ではヒロインを演じた。また、『あのこは貴族』(2021)では、第35回高崎映画祭にて最優秀助演俳優賞を受賞した。本作『徒花-ADABANA-』ではキーパーソンとなるまほろ役を好演。
※前半は合同インタビュー、後半は独占インタビューです。
なんて愛のある現場なんだろうと思いました
記者A:
出演オファーを受けた時のお気持ちと、台本を読んだ時の印象を教えてください。
水原希子さん:
まず甲斐監督は他にはない作品を撮られる方なので、単純に甲斐監督の世界観に入れることへの喜びがありました。また、井浦新さんとはいつか共演してみたいと思っていたので、お二人のいる世界にぜひ参加したいと感じました。この脚本のアイデアは監督が18歳ぐらいの時に閃いて、長年温めてきた脚本だと伺い、実際に読んでみたらおもしろすぎて一気に読みました。
まほろは私にとってすごくチャレンジングな役で、彼女のセリフには監督が後から足されたものも多くあります。最初にいただいた台本から何回かブラッシュアップされ、まほろ自体もどんどん変わっていくような部分がありました。それからまほろは臨床心理士だったことからその部分を理解しないと、彼女が新次(井浦新)と対峙している時のセリフの本当の意味や、どういう意図で話しているのかという理解が難しいと思ったので、勉強をする必要があるなと思いました。でも、それよりもやりたい気持ちが先に出てきたので今回のオファーを受けました。
記者A:
実際に臨床心理士の方にもお会いされたのでしょうか?
水原希子さん:
はい。監督にご紹介していただき、まずはその方にお会いしました。そもそも私自身、臨床心理やカウンセリングにとても興味があったので、自分でも実際に何度かカウンセリングを受けさせていただき、とても良い体験になりました。ただ、まほろの場合は、病院に勤めている臨床心理士だったので、自分でも病院に勤めている臨床心理士の方を調べて実際にお会いしました。その方からもいろいろなことを教えてもらい、すごくためになりました。例えば、大きな病院に勤めていると、こういう病状のある方がいて記録として残すので注意深く見て欲しいと指示があり、そうすると患者さんがだんだんと実験対象のように見えてくる瞬間があったとおっしゃっていました。臨床心理士の方もやはり人間なので、すごく難しいですよね。本当に繊細で、人間がこのお仕事をしていいのかという葛藤や、絶妙な心持ちでいなくてはならないので、そういった点についてはすごく勉強になりましたし、まほろを演じる上でも参考にさせていただきました。
シャミ:
以前からお仕事をしてみたいと感じていた監督と井浦さんと実際にご一緒されてみていかがでしたか?
水原希子さん:
本当に最高でした!監督はもちろん、チーム一人ひとりすべてが良くて、本当に最高の体験になりました。私は芸術的な感性を持っているので、それを監督が理解して、寄り添ってくれることにも助けられました。監督の作品には、アートフィルム的な要素もあるので、そういう意味での安心感もありました。また、今回は終始苦しいシーンが多かったので、そういったシーンが終わると、監督が走って抱きしめてくれたので、本当に心強くて、なんて愛のある現場なんだろうと思いました。
それから、まほろの終盤の大切なシーンでは、何日も前から緊張していて、撮影前もすごくナーバスだったんです。そしたら新さんが横にサッと座って、「今はこうやらなきゃ、クリアしなきゃいけないと思っていることがいっぱいあると思うけど、大丈夫!それは考えなくていいから」「希子ちゃんが今まで考えてきたことをただやればいいよ。台本のト書きにない感情が出てきたり、ト書きに書いてあったことができなかったとしても、それは全く問題ないからね」と言ってくださり、その瞬間に自分が抱えていたストレスやプレッシャーみたいなものがフッとなくなったのを感じて自由になれたんです。実際にそのシーンはすごくいい方向に進んでいったので、本当に新さんの一言が救いになりました。
今回は新さん自身もすごく大変な役だったと思うんです。それにもかかわらず、私にもしっかり気を配ってくださいました。私がその大切なシーンを撮る時に、新さんは帰った風を装っていたのですが、実はまだいらして隠れてモニターで見ていたそうです。それで撮影が終わった後に、新さんがいらっしゃって、「このシーンが撮れたから、この映画はもう大丈夫だね」と言ってくださって、本当に天使のような方だと思いました。
シャミ:
すごく素敵なエピソードですね!
記者B:
監督はまほろについて、アイデンティティの不確かさに苦しみながら成長していく難しい役だとおっしゃっていました。それ以外で役作りをするにあたり、監督とお話されたことはありますか?
水原希子さん:
私の中で1番難しかったのは、やはり新次との距離感です。彼の病室でカウンセリングを淡々とするシーンは1番難しかったです。彼は病院にとってなくてはならない存在という点からヒエラルキーがあることがわかります。まほろは臨床心理士なので、普段なら淡々と業務をこなすと思いますが、相手が新次となると、彼自身まほろがどういうことをしているのか知り尽くしているので、なかなか一筋縄ではいかないところがあるんです。新次から一方的に「もう出ていってくれ」と言われたり、邪険に扱われたりすることもあるので、そういう距離感や感覚はすごく難しくて、ずっと悩んでいました。なので現場では、監督がオッケーと言ってくれる言葉のみを信じて進んでいくという感じで、手応えという手応えはあまりなく、いつも心配でした。
シャミ:
実際に映画を観ていると、その不安だったという要素は全く感じないくらい自然だったので、今のお話を聞いてびっくりました。
水原希子さん:
本当ですか!?良かった!ありがとうございます。
シャミ:
本作は、さまざまなメッセージの詰まった作品でしたが、水原さんが本作をご覧になった感想はいかがですか?
水原希子さん:
答えというものがある作品ではないというか、この作品を観てどう感じるかというのは本当に人それぞれだと思いました。でも、どのキャラクターにも共感できる部分がありますよね。人間にもクローンにも共感できるし、新次のお母さんにも少し共感できるところがあって、本当に皆の気持ちにわかると感じる部分がありました。
甲斐監督の人間の描き方というか、人間の感情のえぐみとか、そういう要素は皆にあって、それを出さないようにしているだけで1つネジが外れてしまえばそれが出てしまうみたいな。そういう人間の危険性を孕んだ部分を上手く描いていて、やっぱり甲斐監督はすごいと思いました。
記者C:
本作のテーマの1つになっているクローンについては、どう思いますか?現実でも技術的に人間のクローンを作る未来が来る可能性もありそうですが。
水原希子さん:
人間ですから、技術的にできるようになったらやりかねないでしょうね(苦笑)。
記者C:
水原さんだったらご自身のクローンを作られると思いますか?
水原希子さん:
作らないと思います。でも、いざ死ぬとなった時に、人間どうなるのかわかりませんよね。あとは、自分の考えだけではなく、新次のように周りが生きて欲しいと願う場合もあります。そう考えると本当に難しいのですが、やっぱり一線を越えではいけない部分なのかなと思います。かといって私達は普通にお肉を食べていますし、そういうことを考えると、人間だけが特別なのかみたいな話にもなってくるので、すごく難しいですね。でも、私はたぶんクローンは作らないと思います。もし私のクローンがいたとしたら、気になりすぎてしまうと思います。新次と同じように見たり、会いたくなってしまうと思うので、そういう余計な悩みは作りたくないです。それに例えば事故で自分が突然亡くなってしまった場合に、クローンはどうするのかとなりますよね。でも、もしクローンを作ることが当たり前の時代になって、成功例がどんどん出てくると皆当たり前に作ってしまうのかもしれませんね。
自己否定するのではなく、ポジティブに切り替えていけるようにしたいです
シャミ:
タイトルの“徒花”は、「無駄な花」を意味するそうで、クローンをテーマにした物語ととてもマッチしていました。水原さんご自身は無駄とされるものの価値についてどんなお考えをお持ちでしょうか?
水原希子さん:
無駄には良し悪しがあると思うんです。例えば、スマホをいじりすぎてしまうのは普通なら悪い無駄とされますよね。本当はもう少し別のことに意識を向けるべきところがあったり、時間を盗まれているような気もします。でも、そういう無駄なことをしている時にこそいろいろな発見があることもありますよね。著名な方の名言で「無駄は無駄じゃない」という言葉を見たことがあって、それはすごく救われるなと思いました。無駄だと思ってやっていたことが、実は無駄ではなくて自分のためになっていることもあって、例えば無駄なことをいっぱいしてきたからこそ、「もうダメ。もうやらない」と、自分を奮い立たせて、自分を変えるきっかけに繋がることもありますよね。だから結局は陰と陽で、無駄なものも結局良い方向に繋がることがあるので、そう考えると無駄とされるものも決して無駄ではないのかなと思います。
シャミ:
無駄なことをしてしまったと後悔することもあるので、すごく勇気づけられます!ここからは水原さんご自身についてお伺いします。俳優、モデル、デザイナーとしてさまざまな活躍をされており、映画は『ノルウェイの森』でデビューされていますが、最初に俳優のお仕事に興味を持ったのはいつ頃でしょうか?
水原希子さん:
最初は俳優に全く興味がないところから、いきなり『ノルウェイの森』のオーディションに受かったので、どうしようという状態でした。当時は私に決まる前にオーディションをたくさんされていたそうで、トラン・アン・ユン監督が雑誌で私を見つけてくださり、「こういう子が緑だと思う」ということでオーディションに呼んでいただきました。オーディションというよりは会話だったのですが、私の境遇や家族のことをいろいろと聞かれて、「君はすごく緑に似ている。君が緑だ!」となったんです(笑)。そういうところから始まり、あまりにも大作だったので、すごいプレッシャーがありました。その後も映画の大作に立て続けに出させていただき、ドラマにも出るようになったのですが、ずっと自分の気持ちが追いつかないままでした。ただ、事務所の方達はすごく喜んでくれましたし、私もキープアップしたいと思いやってきましたが、やはり作品の大きさと自分の未熟さにどんどん歪みが出ていると感じました。
シャミ:
そんな葛藤があったとは驚きです。
水原希子さん:
それでも続けてこられたのは、ありがたくも私にオファーをいただけたということにつきます。お芝居は生ものですし、自分をさらけ出す行為なので、「今日はよくやった!」と満足感を感じる時もあれば、「大丈夫かな?」とすごく不安な気持ちになる時もあるので、本当に難しいです。だけど、今回のように素晴らしい監督から素晴らしい作品に声をかけていただけるというところに、私は自信を持って、自分のできることをやるのみです。
今まではそうやって自分を否定することをいっぱいしてきて、まだ足りない、自分はまだまだだとずっと思ってきたのですが、それはもうやめようと思ったんです。自分には何かがあるからこそここまでこられたわけですし、こんなに素敵な方達と素晴らしい作品に関わらせてもらうことができたのだから、そういう自分をちゃんと褒めて、そこからさらに表現を磨いて楽しいと思えるところに、今はしっかりと向かっていきたいと考えています。
シャミ:
かつてはご自身に対して厳しかったんですね。
水原希子さん:
はい。どうしても自分に対して厳しくなってしまうところがあったのですが、それは本当にやらないほうがいいみたいです。ある本の中にも、自己否定は本当にしないほうがいいとありました。あまり自分をダメだと思いすぎると、言霊というか、そういう思考の力のようなものが本当に働いてしまうと思うんです。だから、自分を否定するのではなく、もっと学べるチャンスをいただけとか、少しポジティブに切り替えていけるようにしたいと思っています。そうすれば、自分が分離せずに済むというか、今までは自分を否定してしまってどこか自信がない自分がいましたが、今は自分自身がちゃんと一体となれるように頑張っているところです。
シャミ:
では最後の質問です。さまざまな分野で活躍されている中で、それぞれのお仕事が相互作用していると感じることがあれば教えてください。
水原希子さん:
相互作用的に良かったことも、足を引っ張る部分もあります。特にモデルのお仕事は、ポーズや歩き方があるので、役によります。『ノルウェイの森』の時はモデルの経験がすごく足を引っ張ってしまい、歩き方1つにせよ、カッコ良く歩きすぎているということがありました。でも、俳優の経験がモデルのお仕事に生かせることはすごくたくさんあります。モデルのお仕事には、カッコ良く写るものと、少しエモーショナルで芸術的で感情を込めたように写るものもあるので、そういう時は役者の時の感情の作り方が役に立っています。モデルの場合も、人物像が明確にある撮影もあり、例えばヒステリックな女性を演じてくださいと言われた時など、俳優の経験を存分に生かせるので、それはすごく楽しいです。
シャミ:
本日はありがとうございました!
2024年8月1日取材 Photo& TEXT by Shamy
『徒花-ADABANA-』
2024年10月18日より全国順次公開
監督・脚本:甲斐さやか
出演:井浦新/水原希子/三浦透子/甲田益也子/板谷由夏/原日出子/斉藤由貴/永瀬正敏
配給:NAKACHIKA PICTURES
ウイルスの蔓延で人口が激減し、延命措置として上層階級の人間だけに「それ」の保有が許されたそう遠くない現代。死が身近に迫る新次は、臨床心理士のまほろに自分の「それ」に会わせて欲しいと懇願する。「それ」と対面した新次は、次第に「それ」を殺してまで自分は生きながらえるべきなのか、心が乱されていき…。
©2024「徒花-ADABANA-」製作委員会 / DISSIDENZ
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情報は2024年10月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。
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