昨年話題となった『ミンナのウタ』のDNAを引き継ぐ最新作『あのコはだぁれ?』。今回は本作を手掛けた清水崇監督にインタビューさせていただきました。本作の制作裏話や、監督自身がかかってしまったある呪いについて、ユーモアたっぷりにお話いただきました。
<PROFILE>
清水崇:監督・原案・脚本
1972年生まれ。群馬県出身。大学で演劇を学び、助監督を経て1998年に監督デビューを飾る。原案、脚本、監督のオリジナル企画“呪怨”シリーズ(1999〜2006)は、Vシネ、劇場版を経てハリウッドリメイクされ、日本人監督の実写作品として初めて全米興行成績No.1を獲得した。近年の主な作品には『犬鳴村』(2020)、『樹海村』(2021)、『牛首村』(2022)の<恐怖の村シリーズ>3部作、ホラー作品以外には『魔女の宅急便』(2014)、『ブルーハーツが聴こえる』『少年の詩』(2017)、『ホムンクルス』(2021)などがあり、プラネタリウムの科学映画『9次元からきた男』(2016)が日本科学未来館にて上映中。2023年は、『忌怪島/きかいじま』『ミンナのウタ』と2作続けて公開。
実は“あのコ”は1人ではありません
シャミ:
本作は昨年公開された『ミンナのウタ』のDNAを引き継いだ物語ということですが、本作だけを観ても完結しているように感じました。敢えて『ミンナのウタ2』のようにしなかったのはどんな理由からでしょうか?
清水崇監督:
いろいろ考えたのですが、続編と言わずとも、この作品だけでちゃんと完結して観ることができるようにしたいと思いました。それで、タイトルをどうしようかと松竹の大庭プロデューサーと出し合って考えたりしているなかで、『あのコはだぁれ?』というタイトルを僕が候補として出しました。『ミンナのウタ』もそうですが、何となく子ども番組的な可愛らしく見えるニュアンスのタイトルにしたいという想いがありました。
シャミ:
なるほど〜。監督が自らの企画を持ち込んだということですが、『ミンナのウタ』と同じ世界線の新たな物語を作りたいと思った決め手はどんな点だったのでしょうか?
清水崇監督:
『ミンナのウタ』を松竹さんで作らせていただいて、完成しするかしないかくらいの頃からまだ描ききれていない部分があるなと感じていて、この世界観ならもっとやりたいことができそうだと思い浮かんでいた大ネタがありました。それで大庭プロデューサーに続編か前日譚、もしくはスピンオフになるか全く別物になるかわからないけど、世界観の繋がったものをやりたいという話を早い段階からしていましたので、『ミンナのウタ』の舞台挨拶の時に、僕が勝手に「お客さん達のおかげで続編が作りやすくなりました」と言っちゃったんです(笑)。それを受けて、大庭プロデューサーも、徐々に本気になってくれました。とはいえ、まさか1年後の夏に公開するとは驚きですよね。
シャミ:
スケジュール的に1年だと結構タイトそうだなと感じるのですが、準備期間としてはいかがでしたか?
清水崇監督:
ここ数年は東映さんで<恐怖の村シリーズ>を年に1本オリジナルで、毎年2月に必ず公開していて、大変でしたがやっぱり楽しかったんです。村シリーズの場合は特に繋がっている話ではありませんが、そういう経緯もあり、忙しいことには慣れていました。とはいえ、今回は監督人生の中でも初の尋常じゃない忙しさでしたね(苦笑)。
シャミ:
村シリーズの時よりもハードスケジュールだったんですね!?
清水崇監督:
全然ハードでした。普通オリジナルの企画がこんなに早く通ること自体ないので、とてもありがたいのですが、脚本をまだ直している段階から公開は7月19日でというお達しが来て、確かに内容的にも夏休みに向けたほうが得だし、学生さんがお休み中に観に来てくれるかもしれないので、そこに向けて間に合わせるために頑張りました。
シャミ:
すごいですね!夏といえばホラーですし、テーマとしても夏休みに本当にぴったりな作品ですね。
清水崇監督:
実は夏にホラーというのは日本だけなんですよ。海外ではハロウィンが有名なので10月なのですが、夏に納涼として怖い話で涼もうというのはほぼ日本だけだと思います。まさに情緒や風情を重んじる文化の国ですよね。
シャミ:
そうなんですね!私はホラーが苦手なので、今回もかなり怖かったのですが、途中でクスッと笑える場面もありました。作り手としては怖がらせることに徹して作るのか、笑って欲しいと思いながら作る場面もあるのか、いかがでしょうか?
清水崇監督:
当然笑って欲しくて、入れ込んでます。中には恐怖描写も笑える場面があるし、答えは千差万別…日本人は周囲の感じ方を気にし過ぎて、気持ちを抑えようとしてしまいますが、お客様が個々に感じてくれたのが正解でいいんです。それに、僕の中で混沌としてしまっているところがあって、子どもの頃はすごく怖がりだったくせに、大人になって作り手側にいると、怖がるのも笑うのも、感動して泣くのも、同じくファンタジックな中にあると思うんです。途中でコメディ的なモチーフを入れ込んでいるのですが、日本人は真面目で、“謙虚さや曖昧さが美学”の国でもあるので、自分自身の感じ方で存分に楽しむ姿勢にブレーキを踏んでしまっている節があると思うんです。ジャンルなんて、売り手が見やすくするために決めているだけだし、ホラーといわれていようが、怖がるばかりでなく、笑ってもらって全然構わないし、むしろ笑って欲しいと思って作っているところも山ほどあります。
それで今回は、わかりやすくマキタスポーツさんのシーンでおならの音を入れています。あのおならがあることで、これはもう完全に笑わせにかかっていると気づいてもらえると思うんです。実はあのおならの音は音響効果スタッフさんの提案だったのですが、マキタさんにも内緒で入れました(笑)。先日マネージャーさんから「うちのマキタにおならをさせていますね!?」と連絡が来て、「すいません。勝手におならをさせてしまって」と言ったら、「いえいえ、おもしろかったです」と言っていただけました。
シャミ:
マキタスポーツさんには内緒だったんですね(笑)。本作は学校が舞台となっており、あのコの背景に迫る物語と君島先生(渋谷凪咲)と生徒達を軸とした物語がどんどん交錯していく展開がとても楽しめました。物語を作る上で特に意識された点や気をつけた部分はどんな点でしょうか?
清水崇監督:
今回いろいろなことが起こりますが最後のほうの大ネタは、『ミンナのウタ』が完成する頃には僕の頭の中にあったので、それを軸にして物語を作っていきました。最初は学校が舞台とは決まっていなかったので、その大ネタを軸に主人公はどんな人物が良いかなど話し合いました。書き直しているうちに夏休み公開が見えてきたので、だったらいっそ学校が休みになる学生達向けで、一般レーティングGにして、小・中学生でも観られるような作品にしようと決まりました。だけど内容は子ども向けとして一方的には振らずに、大人が観てもなるほどと頷けるような展開のものにしたいと思い、だんだんと構築されていきました。
だから、僕の中ではタイトル『あのコはだぁれ?』の“あのコ”は映画の前半ではすぐにわかるようにしていて、さらにその奥にもう1人、これがタイトルの指す“あのコ”はこの子なんじゃないかというのを忍ばせたいと思いました。実は“あのコ”は1人ではなく、登場人物の立場や観方次第で何人かの“あのコ”がいるし、Wミーニングで後半に明かされる“あのコ”も潜んでいるんです。
シャミ:
それぞれあのコは誰なのか考えながら繰り返し観るのも良さそうですね。あのコは『ミンナのウタ』にも登場しましたが、すごく強烈で、今回さらにグレードアップしたように感じました。そんなあのコというキャラクターに監督が込めた想いはありますか?
清水崇監督:
本心がどこにあるのかわからないような、冷たく無関心に見えて、ものすごく興味を抱いていたり、内面と外の言動が一致しないタイプで、つかみどころのなさを魅力にしたいと思いました。だから、社会常識的に見ると、ありえない残酷さとか悪徳を持っているんですけど、本人の中ではどうもそんなつもりではないらしいという。じゃあどうしたらこの子は皆と一緒になれるのか、いや、皆と一緒にする必要なんてないんじゃないかという、つかみどころのなさが魅力に繋がっている存在にしたいと思いました。『ミンナのウタ』に繋がっている世界観で同じキャラクターとして登場するので、今回は『ミンナのウタ』で見えていた部分以外でのあのコの特徴や魅力をさらに見せたいと考えていました。
シャミ:
あのコは、『ミンナのウタ』に引き続き、穂紫朋子さんが演じられていました。今回は登場シーンもさらに多かったように思うのですが、演出される上で、穂紫さんと新たにお話されたことなどはありますか?
清水崇監督:
新たにというのは特にありませんが、まだ若い俳優さんで今まで代表的な作品があった方ではないので、『ミンナのウタ』の時はお化け役とはいえ、すごく喜んでくれたんです。その同じ役がまさかたった1年後に実現して、また自分が演じれるとは思っていなかったと今回もすごく喜んでくれました。僕もこんな面があったのかとか、こんなことを言うのかというものを取り入れたかったので、すごく真摯に取り組んでくれました。きっとこういう時はこんなことを考えているんじゃないかとか、そういうつかみどころのなさがあのコだよねという話を繰り返ししました。
シャミ:
あのコはすごく可哀想な子なのかなと思いきや、心に狂気を秘めている女の子で、観ている側もすごく翻弄されました。
清水崇監督:
僕は真面目にインタビューを答えていたかと思ったら、どこから冗談かわからないみたいなことが好きなんです。そういうこう見えたと思ったらすぐに裏切ったり、全く真逆のことを言い出したりやったり…、相反する感覚や欲求は誰にでもあると思うんです。例えば、ペットや恋人、親、家族とかがすごく大切で、大切だと思えば思うほど、幸せすぎたら怖くなるとか、大事にしすぎたら同時にこれを失ったらどうしようという想いも生まれたりするじゃないですか。そういう想いは誰にでもどこか裏腹であると思うんです。そういう極端さを煮詰めて、あのコの像を作っている気がします。
シャミ:
確かに劇中にもそういう瞬間が多かったように思います。高谷家のシーンもそうですが、普通の人達だと思ったら…みたいな展開が結構ありますよね。
清水崇監督:
そうですね。そういう「あれ?普通かと思ったら様子がおかしいぞ」という違和感とか、気配や雰囲気で、「何がおかしいんだろう?どうも変だな」というのも高谷家自体の魅力かもしれないですね。
シャミ:
すごく奇妙でした。
清水崇監督:
観ている側もどうしていいのかわからないとか、居心地が悪いとか、早く家から出ていったほうがいいんじゃないかとか、ここにいていいの?みたいな。
シャミ:
その辺の間合いみたいなものがすごく秀逸だなと感じました。
清水崇監督:
そういう意味では技術的にも、普段全くしない、失敗しているかのようなフォーカス送りとかも結構使っています。お父さんとお母さんを交互に、喋る人に急激に合わせて、普通ならもっとスムーズに撮るところを敢えて忙しないピント送りを使うことで、変な違和感を出せないかなと。だから、お芝居だけではなく、カメラ、撮影、美術、映像、照明、衣裳、メイクもそうですけど、いろいろなパートの協力のもとで、いろいろな違和感を作っていく感じが楽しいですね。
シャミ:
それを楽しみながらされていることが本当にすごいです!
清水崇監督:
本当に楽しいですよ。君島先生役の渋谷凪咲さんも、生徒の瞳役の早瀬憩さんもそうですが、基本ホラーの苦手な出演者も多くて、ただ作る側に回ってしまえば仕掛け人なので、逆にお客さんが自分達の作ったもので、どんな風に怖がったり、キャーキャー言ったり、悲しんだりしてくれるかを楽しめると思うよと話しました。
シャミ:
今回主演を飾った渋谷さんは、本作が初主演作でした。他の作品でも監督は、初主演や初出演の俳優さんとお仕事されることが多いと思うのですが、そういった方を起用される際に、監督がいつも気をつけていることや、アドバイスされることは何かありますか?
清水崇監督:
「ホラー映画に出たら何か怖いことが起こりますか?」という方も多いのですが、「そんなことはないよ」と言いながらも、そういう怖がっている感覚は大事にして欲しいと思います。それに、ホラーだからといって何か特別なお芝居をしなくてはならないと思わないで欲しいと伝えます。
日常的なリアリティを持って演じてこそ怖さに繋がるので、そこは普通の日常的なドラマ以上にリアリティが大事だよとか、敢えて無理やり綺麗な悲鳴を出しても嘘っぽいから、そんな必要はないよとか。なるべく抑えてより日常的にというのをベースにして欲しいという想いがあります。もちろん極端な時もありますけど、絶対に日常では出くわさないようなことが起こった時は、一緒に話し合って普通の人ならどうするだろうねと話し合いをしながら作っていく感じです。
シャミ:
『呪怨』や<恐怖の村シリーズ>をはじめ、これまでもさまざまなホラー作品を生み出していますが、ホラー作品を作り続ける1番の理由はどんな点でしょうか?
清水崇監督:
デビューしてすぐが『呪怨』で、それが未だに代表作としてあって、作品を観ていない人や今の若い方までタイトルは知っているという状況になってしまったので、イメージがついてしまったせいですね。呪いです(笑)!
一同:
ハハハハハ!
清水崇監督:
僕はコメディが撮りたいんです。でも、鼻で笑われるんですよ(笑)。
シャミ:
そうなんですか!?海外では、ホラーをやられている方でコメディがすごく得意な方もたくさんいらっしゃいますよね。
清水崇監督:
そうですよね!そういう先見の明とか感覚的な目を日本のプロデューサーや会社の方にはもっと持って欲しいです(笑)。
シャミ:
ぜひコメディ作品も観てみたいです!
清水崇監督:
笑いは笑いで絶対難しいですけどね。ホラーは確かに特殊で、何でもできると思っている方がホラーに挑戦すると、大体失敗するんですよ。だからコメディはコメディで難しいと思いますけど、挑戦してみたいです。これまでも企画を持ち込んだこともありますし、実際に通ったこともあるのですが、次こそやりたかったコメディを撮るぞと思った矢先に、その1つ前に作ったホラー作品が思いがけないヒットをして、やっぱりシリーズでしょ、続編でしょとなり、確かに勢いのあるうちに次もホラーを作ったほうが良いとなっちゃうんですよね(苦笑)。
シャミ:
それも呪いのせいなんでしょうか?
清水崇監督:
呪いですよね(笑)。でも、それさえもコメディになると思うんです。いつまでもコメディ映画が作れないホラー監督のコメディもできますし、同じ題材でホラー版とコメディ版を作ってもおもしろそうですよね。
シャミ:
それはすごく気になります!本日はありがとうございました!
2024年7月12日取材 Photo& TEXT by Shamy
『あのコはだぁれ?』
全国公開中
監督:清水崇
原案・脚本:角田ルミ/清水崇
出演:渋谷凪咲/早瀬憩/山時聡真/荒木飛羽/今森茉耶/蒼井旬/穂紫朋子/今井あずさ/小原正子(クワバタオハラ)/伊藤麻実子/たくませいこ /山川真里果/松尾諭/マキタスポーツ/染谷将太
配給:松竹
とある夏休み、君島ほのかは臨時教師として補習クラスを担当することになった。しかし、ある女子生徒が屋上から飛び降り、不可解な死を遂げる。“いないはずの生徒”の謎に気がついたほのかと、補習を受ける生徒達は、“あのコ”にまつわるある衝撃の事実にたどり着き…。
公式サイト ムビチケ購入はこちら
2024夏、ひんやりしたいアナタにおくる、スリラー&ホラー映画特集
© 2024「あのコはだぁれ?」製作委員会
関連作:
『ミンナのウタ』
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情報は2024年7月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。