中学生時代から30年以上ボクシングを続けてきた?田恵輔監督が、自ら脚本を書きあげて撮った映画は『BLUE/ブルー』。今回は本作で主演を務めた松山ケンイチさんと、ヒロインを務めた木村文乃さんにインタビューをさせていただきました。一見勝つか負けるかの世界でありながら、その奥にある戦う人の真の姿を描いたストーリーで、お2人はどう感じながら演じられたのかなど、おうかがいしました。
<PROFILE>
松山ケンイチ(まつやま けんいち):瓜田信人 役
1985年3月5日生まれ、青森県出身。2002年に俳優デビューし、2005年『男たちの大和/YAMATO』に出演し一躍注目を集め、2006年には『デスノート』『デスノート the Last name』で大ブレイクを果たす。2012年のNHK大河ドラマ『平清盛』では主人公・平清盛を演じた。2016年には、『聖の青春』で第40回日本アカデミー賞優秀主演男優賞、第59回ブルーリボン賞主演男優賞を受賞。その他、『デトロイト・メタル・シティ』『ノルウェイの森』『うさぎドロップ』『怒り』『ユリゴコロ』『宮本から君へ』『ホテルローヤル』『ブレイブ -群青戦記-』など、バラエティに富んだ数多くの作品に出演している。 2021年は『川っぺりムコリッタ』の公開も控えている。
木村文乃(きむら ふみの):天野千佳 役
1987年10月19日生まれ、東京都出身。映画『アダン』(2005)のヒロインオーディションで選ばれ俳優デビュー。2014年には第38回エランドール賞新人賞を受賞し、同年4月に蜷川幸雄演出の舞台“わたしを離さないで”で初舞台に立つ。2015年には、『マザー・ゲーム〜彼女たちの階級〜』でドラマ初主演を飾り、NHK大河ドラマ『麒麟がくる』では、主人公の明智光秀の正室、煕子役を演じた。その他の主な映画出演作に、『すべては君に逢えたから』『ピース オブ ケイク』『RANMARU 神の舌を持つ男』『追憶』『火花』『羊の木』『居眠り磐音』などがあり、2021年6月には『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』が公開される。
※前半は合同インタビュー、後半は独占インタビューです。
自分にとって“勝敗”の定義とは
記者A:
本作はボクシングへの理解がすごく表れた作品だと思うんです。松山さんと木村さんが撮影中に本作のボクシングへの愛情がすごいなと感じた部分があれば聞かせてください。
松山ケンイチさん:
僕は練習もしてきたし試合のシーンもあるので、それで分かったことだったんですが、テレビで観ていると、ボクシングは殴り合いで技術だったり気持ちのぶつかり合いとかで白黒つけていくという感じですが、自分でやってみると「これは会話なんだ」と思ったんです。これはコミュニケーションで、こう来たらこうして、こう来たらこうするみたいなセッションなんですよね。それは演技にも似ているし、普通の会話にも似ているような気がしました。分かり合えない、何も喋っていない2人がただボクシングをやっているだけでも、何か分かる感じがする。この人のこと、裏側は全然わからないんだけど、何か感じるというか。それがボクシングにもあって、そこが好きでしたね。
記者A:
木村さんは、女性視点から見て何か感じられたことはありますか?
木村文乃さん:
目に見えて体が変わっていったり、周りの反応も変わるから、やり甲斐があるんだろうなと思いました。皆さん本当に減量されていて、ひとりじゃなくて皆で同じ気持ちだったというのもあると思うんですけど、余計なものをそぎ落としてシンプルになっていく様が楽しそうだなと思っていました。
マイソン:
役作りについて松山さんはクランクイン前に2年間もジムに通われたと資料にありました。ただボクシングの練習だけのために通っていたわけではなかったのではと思いますが、ジムではどんなスタンスで過ごしていましたか?
松山ケンイチさん:
瓜田は、選手とトレーナーをやっているキャラクターです。トレーナーって1日中ジムにいる人間なので、プロもそうですけど、おじいちゃんとかおばあちゃんのミットを受けたり、この作品にも出てきたダイエット目的の女性達の相手もしなきゃいけないんです。いろいろな人と会話をしながら、その人のテンポとかリズムに合わせたミット打ちがあるんですよね。プロみたいなミット打ちができない人には、会話の内容だとか、表情の柔らかさも、見ているとちょっと違うんですよ。そういうのはすごく参考になりました。もちろん練習もしていましたけど、ずっと長くいて、ジムで普段から自分の居場所がポッとそこにあるみたいな感じになりたいなと思っていました。
マイソン:
空気感を丸ごと受け取ってみたいな感じなんでしょうかね。
松山ケンイチさん:
そうですね。ジムは、トレーナーさんが空気を作っている感じがするんですよね。トレーナーさんが静かだと静かだし、すごく声が出ていると一緒に打つ時も声が出てくるんです。だから基本的に活気のあるジムは、わりとトレーナーさんが元気だなと思って、そこは参考になりました。
マイソン:
木村さんは、メインキャラクターの中で女性がお一人でしたが、ボクシングに打ち込む男性達を見ていてどんな心境でしたか?
木村文乃さん:
私は小川とは家や日常のシーンがありつつ、瓜田や楢崎とは日常のシーンは少なかったですが、彼らの試合のシーンは、本当に緊迫しているので、ただただそれを見つめていました。
マイソン:
本当に自然にボクシングを見ている1人としてという感じで。
木村文乃さん:
そうですね。逆に言えば、ストイックな世界がわからないからこそ純粋な目で見られるというか、変にわかった顔は一切できないので、それで良いのかなと思いました。
マイソン:
ボクシングというスポーツとしては勝敗がはっきり決まりますが、この映画を観ていて、勝敗ってそれぞれ自分の中にあるのかなと思いました。お2人にとって勝ち負けの定義ってありますか?
松山ケンイチさん:
おっしゃったように自分の中にしかないと思います。自分に勝ったか負けたかっていうことなんじゃないですかね。
マイソン:
瓜田を演じるにあたって、彼の哲学みたいな部分で発見はありましたか?
松山ケンイチさん:
彼は2勝しかしていなくて、13敗しているんですよね。その負けのなかで人として成長していった部分がすごくあるんだと思います。それが小川や千佳への態度だったり、楢崎への態度に繋がっているなって。ずっと勝っている人だったらこういう感じにはならないだろうなと思うんです。だから人としては強いなと思います。
マイソン:
木村さんの勝敗の定義はどうでしょうか?
木村文乃さん:
何でしょうね。あまり勝ち負けにこだわらないのが定義かもしれないです。その物事をやる時に勝ちか負けかということは大切ではないと思います。それが好きか嫌いか、乗り越えたいか乗り越えたくないか、が大切であって、ライバルが入ってきたりして、勝ち負けに囚われてしまうとズレてしまう気がします。私はボクシングには参加できていないんですけど、小川にしても瓜田にしてもそういう勝ち負けに入れなくて、だからあの3人でいられたんだと思います。
記者A:
瓜田は特異なキャラクターだと思ったのですが、松山さんから見て瓜田はどういう人でしょうか?
松山ケンイチさん:
こういう風になりたいって思いますね。あまり表には出しませんが、小川への憧れ、嫉妬や嫉みというのももちろん持っているんですよね。全部ひっくるめた上でああいう風にアドバイスができるというのは、デカい男だなと思うし、そういう風になりたいなって思います。
記者A:
木村さんから見て瓜田はどんなキャラクターだと思いましたか?
木村文乃さん:
千佳は何で瓜田じゃなくて小川にいったんだろうなっていつも思っていました(笑)。
一同:
ハハハハハ!
松山ケンイチさん:
強い男が好きだったんじゃないの?
木村文乃さん:
たぶん告白されたのが早かっただけだと思います。
一同:
なるほど〜。
木村文乃さん:
瓜田はすごく愛しい人だなと思いました。たぶんおじいちゃんになっても楽しそうにボクシングの話をしそうだなって。小川は年を取ってボクシングの話とかをしても、すごくストイックなほうに入ってしまって戻ってきてくれなさそうだから。
マイソン:
スポーツ映画の中でボクシング映画ってすごく多い印象があって、お2人は今回出演されて改めてボクシング映画の魅力をどう感じられましたか?
松山ケンイチさん:
大体再起していく話が多いんじゃないかと思うんですけど、この作品の場合は別に再起していないんですよね。たぶん結果を残せる人のほうが少ないんですが、その努力に拍手をしたいという監督の思いは本当にその通りだなって思います。結果を出していない人がどれだけの人を支えているのか、どれだけの人を繋いでいくのか、バトンを渡しているのか、残していっているのか、っていうのはぜひ観て欲しいなと思います。瓜田がそうだから。
木村文乃さん:
監督自身が本当に好きでボクシングをされていて、精神的な露出というか、こういうことを作品にできちゃうって結構勇気がいるなって思うんですよね。自分がボクシングをやっているからこそ、そこを敢えて美化せずに泥臭いところを切り取っていこうというのが?田監督ならではだと思います。
俳優の仕事を始める時に覚悟したこと
マイソン:
普通の職業と比べると、俳優もボクサーもそれで食べていけるのか、やってみないとわからない部分が多いお仕事だと思うんですが、お2人はこの世界に入る時に覚悟したことはありますか?
松山ケンイチさん:
僕は16歳の頃にオーディションを受けて、その時に受かって高校2年生の夏に上京してきたんです。そのオーディションに受かった時は「やった!同級生の中で1番に就職が決まった!」と思って、すごく嬉しかったんですよ。その時は「世の中に出るんだから立派な人間にならないとな」って漠然と考えていましたね。だから女の子と遊んでいる場合じゃないぞって、そんな風に考えていました。今考えるとバカだなって思いますけど(笑)。
木村文乃さん:
いやいや、すごくしっかりしていると思いますよ!
マイソン:
ほんとしっかりしてますよね。じゃあ業界に限らず、社会人になるんだという意識だったんですね。
松山ケンイチさん:
16歳なりに何か変わらないとなって思ったんですよね。
マイソン:
華やかな世界なので、16歳だと女性にモテたいという意識が出てきそうに思っちゃいましたが、逆なんですね。
松山ケンイチさん:
まさか仕事が決まるなんて思っていなかったので、そこからアルバイトとかもしてすごく大変で、モテるとかそういう風には思いませんでしたね。それよりは、「これでお金をもらって自分で生活をしていくんだ」という感じで、それまでは全く何もなかったので、どうなるんだろうという漠然とした不安しかなかったです。
マイソン:
木村さんは当時どうでしたか?
木村文乃さん:
人を巻き込む覚悟を決めました。自分のせいで人のテンポを崩してしまったり、嫌な思いをさせてしまうことがすごく嫌なので、だったらそもそも人と関わらなければいいと思って生きてきたんですけど、それじゃあとてもじゃないけど、やっていけないと思いました。少しずつ甘え方を覚えた時に、こうやって支えてもらわないとダメなんだから感謝を忘れず堂々と巻き込んで、巻き込まれたことを嬉しく思ってもらえるように仕事をしなきゃなって覚悟をしました。
マイソン:
たくさんの方と関わるお仕事ですもんね。では最後の質問で、これまでにいち観客として、大きな影響を受けた映画、もしくは俳優、監督がいらっしゃれば教えてください。
松山ケンイチさん:
僕はチャールズ・チャップリンですね。見とれます。
マイソン:
初めて観たのはいつ頃ですか?
松山ケンイチさん:
20代前半じゃないですかね。
マイソン:
観てから変わりましたか?
松山ケンイチさん:
ずっといいなと思っていますが、結局ああはなれないと思いました。自分には何ができるんだろう、ああいう風になれないならどういう感じになれるんだろうってずっと思ってやっています。
マイソン:
今も模索中という感じですか?
松山ケンイチさん:
そうですね。どんどん変化していくものだと思います。やっぱり観ていて自分が楽しかったから、自分も違った意味で、ああいう形ではなく、せっかく出ているんだから何か感じてもらいたいし、それをおもしろがって自分も表現していけたら良いな、楽しんでいけたら良いなと思います。
マイソン:
木村さんはいかがですか?
木村文乃さん:
全然歴は浅いんですけど、私はこの映画を試写で観て初めて自分をまともに見られたというか、好きになれたというか。一瞬好きになってまたすぐ冷めるんですけど(笑)。そう思えたので、?田監督にすごく感謝しています。
マイソン:
フィーリング的にというか言葉にできない何かという感じですか?
木村文乃さん:
たぶん松山さんとの初日がカフェでお話するところで、映画のストーリーとしてはそれまでの関係性があって相談事をするというシーンだったんですけど、それを何の違和感もなく始めることができたんです。たぶん松山さんの空気に溶け込ませてもらったことでできたものなのかなと思うんですけど、自分が何かをしたとかではないんです。でも穏やかにそこにいる感じがして、今まであまり見たことがない自分がいるなって思えたんです。それを切り取ってくださった?田監督に、嬉しいやら恥ずかしいやらです(笑)。
マイソン:
ではそういったシーンも見どころですね。本日はありがとうございました!
2021年3月17日取材 PHOTO&TEXT by Myson
『BLUE/ブルー』
2021年4月9日より全国公開
監督・脚本・殺陣指導:𠮷田恵輔
出演:松山ケンイチ、木村文乃、柄本時生/東出昌大
配給:ファントム・フィルム
ボクシングへの愛情は人一倍大きいにも関わらず、試合では負け続きの瓜田と、才能に恵まれ、日本チャンピオンの座も目前に見えてきた小川。2人は切磋琢磨しながら、ボクシングの腕を磨いていくが…。
公式サイト REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
©2021『BLUE/ブルー』製作委員会