結婚してから40年間、毎日完璧に家事をこなしてきた63歳の主婦が、突然家出!この63歳の女性の“冒険”を描いたベストセラーを映画化したツヴァ・ノヴォトニー監督に、メールインタビューをさせて頂きました。誰でもいつからだって人生をやり直せることを教えてくれる本作を撮った監督はどんな価値観をもっていらっしゃるのでしょうか。
<PROFILE>
ツヴァ・ノヴォトニー:監督
1979年12月21日、スウェーデン、ストックホルム生まれ。映画監督の父とアーティストの母を持つ。幼い頃から女優を目指し、1996年からスウェーデンのテレビドラマに出演し、キャリアをスタートした後、主にスウェーデンの映画、テレビドラマを中心に活躍。映画出演作に、『ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男』(2005)、 『ある戦争』(2015)、『ヒトラーに屈しなかった国王』(2016)、 『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』(2017)などがある。初監督・脚本を務め、全編ワンカットで制作した“Blindsone(原題)”(2018)は、 2018年のトロント国際映画祭でプレミア上映、コンペティション部門に出品されたサン・セバスチャン国際映画祭では、主演女優が最優秀女優賞を受賞した。また、ヨーテボリ国際映画祭でも国際批評家連盟賞を受賞するなど、監督としても高い評価を得ている。
いつか叶えたい夢はない。今、この瞬間を生きたい
マイソン:
主人公は、監督ご自身よりもだいぶ年代が上ですが、この物語に惹かれた一番のポイントは何でしょうか?
ツヴァ・ノヴォトニー監督:
63歳の女性が、自分の人生を一新しようとする姿に深く感銘と刺激を受けました。これは、敢えて一歩踏み出す勇気を持ち、何かを新しく始めることについての物語です。
マイソン:
スウェーデンでは、原作者フレデリック・バックマンさんの『幸せなひとりぼっち』の映画化作品や、本作が大ヒットしたと聞いています。若い方もたくさん鑑賞されたと思いますが、スウェーデンの若者の老年期への関心は高いのでしょうか?スウェーデンでは若者が持つ高齢者へのイメージはどういったものでしょうか?
ツヴァ・ノヴォトニー監督:
世代間のギャップは狭まってきているように思います。というのも現代のシニアは、彼らが若かった60年代に人権の平等や公民権を求めて戦ってきた世代です。そのことが世代間の理解を深めることに役立っている気がしますし、違う世代同士が互いに興味を持つことに繋がっていると良いなと思います。
マイソン:
本作への若者の反応で印象に残っていること、意外だった反応があれば教えてください。
ツヴァ・ノヴォトニー監督:
1番若いお客さん達は、映画の中の子ども達に、また彼らがサッカーチームのために立ち上がる姿に共感を覚えたようです。一方で、あらゆる世代の多くの人達がブリット=マリーに共感していたことに驚きました。裏切りや喪失、希望、そして変化、というのは世界共通のテーマなのでしょう。
マイソン:
監督ご自身は、老後についてどんなイメージ(楽しみであるor 不安である等)、プランがありますか?
ツヴァ・ノヴォトニー監督:
人によっては全く歳をとらない人もいるように思えます。私にとって加齢とは経験を重ねることです。歳をとっても、好奇心を持ち、生き生きとしオープンマインドでいることはできます。私自身、リタイアするかどうかはわかりません。だって人生そのものが永遠に終わることのない作品のようなものですから。
マイソン:
ブリット=マリーは夫の浮気に長年目をつむり、発覚後も怒りをぶつけるわけでもなく、別の部分で不満を抱えていたことを明かしましたが、このブリット=マリーの反応、対応について女性として監督はどう感じましたか?
ツヴァ・ノヴォトニー監督:
ブリット=マリーは長い間夫の不倫に気付いていたと思いますが、私は彼女のようにそんなに長い間見て見ぬふりをすることはできないと思います。すべての人間関係は誠実さとコミュニケーションで成り立っていると信じていますが、ブリット=マリーとケントの間にはそのどちらもありませんでした。その結果、ブリット=マリーの反応はコミュニケーションを取ろうとせず、家出に至ったのだと思います。個人的にはお互いの話に耳を傾けるオープンなコミュニケーションを普段から心がけることによって多くの問題が解決できると思っています。
マイソン:
少し話題が変わりますが、昨今日本で北欧映画の人気が高まりつつあります。ハリウッド映画などと比べて、北欧映画の大きな特徴と魅力はどんなところだと思いますか?
ツヴァ・ノヴォトニー監督:
それは嬉しいです!日本とスウェーデンでは、人の在り方について共通の感覚を持っているのかもしれません。スウェーデン人はとても礼儀正しく注意深い国民で、共通のルールや団結への信念に基づく、基本的な民主主義を教えられています。スウェーデン映画でも描かれるそういう根本的なところに、もしかしたら日本の観客の皆さんも自己投影することがあるのではないでしょうか?
マイソン:
監督が、映画監督、俳優として、大きく影響を受けた作品があれば教えてください。
ツヴァ・ノヴォトニー監督:
私は日本の篠田正浩監督をはじめ、フェデリコ・フェリーニ監督やエミール・クストリッツァ監督、最近だとスパイク・ジョーンズ監督など多くの映画監督から刺激を受けています。彼らの共通点は、物語がどれも現実的(時に論理的でないこともあるが)で、人間性の理解をさらに深めることを常に追求している点です。これは私が映画を撮る理由でもあります。
マイソン:
本作では夢を持つことや行動することの大切さや、それはいつでも遅いということはないと教えてくれるストーリーでしたが、監督がこれから果たしたい夢は何でしょうか?
ツヴァ・ノヴォトニー監督:
私は20年間俳優をやり続けた後、ようやく、ありったけの勇気を出して、脚本を書き監督をやり始めました。数年をかけてゼロから始めること、それには多くの不安が伴いました。ですが、それは新しいことを学び、人生をやり直すチャンスだと考えたのです。それ以来、私はより頻繁に新しいことにチャレンジするようになりました。例えばモーターバイクに乗れるようになるとか、一番最近では氷浴を初体験しました。いつか叶えたい夢、というのはありません。今、この瞬間を生きたいと考えています。
2020年7月取材 TEXT by Myson
『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』
2020年7月17日(金)より、新宿ピカデリー、YEBIS GARDEN CINEMA、ヒューマント ラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
監督:ツヴァ・ノヴォトニー
出演:ペルニラ・アウグスト/アンデシュ・モッスリング/ペーター・ハーパー/マーリン・レヴァノン
配給:松竹
63歳の専業主婦ブリット=マリーは、40年の結婚生活のなかで完璧に家事をこなしてきたが、ある日夫と愛人がいるところに遭遇し、家出を決意する。でも長年専業主婦だったブリット=マリーは、年齢的にも職を見つけるのが困難。そんななか、1つだけ紹介された仕事は、小さな村の荒れ果てたユースセンターの管理と、子ども達の弱小サッカーチームのコーチだった…。
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Photo credit: Hans Alm