本作でトランスジェンダーであるキャラクターを演じた坂東龍汰さんに役作りについてのお話や、この作品に携わって感じたことなどをお聞きしました。お話からとても真摯に作品に向き合い丁寧に役作りをされたのだなというのが伝わってきました。
<PROFILE>
坂東龍汰(ばんどう りょうた):小堀真也 役
1997年5月24日アメリカ生まれ、北海道出身。2017 年に俳優デビュー。2018年、NHKスペシャルドラマ『花へんろ 特別編 春子の人形』で主演を飾る。以降、『十二人の死にたい子どもたち』『閉鎖病棟―それぞれの朝―』『犬鳴村』『静かな雨』『#ハンド全力』『スパイの妻』などの作品に出演。2021年は、映画『ハニーレモンソーダ』『犬部』、TVドラマ『この初恋はフィクションです』『真犯人フラグ』に出演。公開待機作品に、『峠 最後のサムライ』がある。
頭だけで理解するのではなく体でもしっかり覚えないといけないと思って挑んだ
マイソン:
まず脚本を読んだ第一印象を教えてください。
坂東龍汰さん:
第一印象は難しい役だなと。題材がLGBTQで、僕自身詳しく知らない状況でのオファーだったので、まず勉強しなきゃというところから始まりました。実際に僕がFtM(女性として生まれたものの、自分は男性だと認識している人)の役を演じるというのは最初は想像がつきませんでしたが、監督自身がFtMの当事者なので、監督に聞いたり話したりして、事前準備をしていきました。作品としては辛い描写とかも多くて、LGBTQの人ってこんなに辛い想いをしているというのももちろんあるんですけど、それだけを伝えたい映画ではないと思いました。この作品を通してこんな未来の形もある、こんな可能性もあるというのをすごく伝えたい映画だなと。あとはラブストーリーというところが1番大きいと思います。小堀真也とユイ(片山友希)がすごく強いもので惹かれ合っている物語だと思ったので、すごく重い作品になるとは思わず、ある意味そこに希望を持って演じるのが楽しみでした。
マイソン:
2人の10年間の物語で上映時間内では描き切れない部分があると思うのですが、どうやって役作りをされたのでしょうか?
坂東龍汰さん:
壮大な役作りが必要だなと感じました。真也が性の違和感に気付き始めたところからユイと出会うところまでのバックボーンを自分で考えないといけませんし、そこで真也がすごく戦ったものだったり、向き合ったコンプレックス、体のこと、手術、ホルモン注射をすると決めるところまで、映画の中で描かれていない部分は監督自身の体験や経験を聞いて僕がそれをちょっとでも自分で理解する、頭だけで理解するのではなく体でもしっかり覚えないといけないというのもすごくありました。1ヶ月くらいの準備期間にできることが何かないかと考えて、監督に聞くのが1番早かったので「どうしたら良いですか?」と聞いたり、トランスジェンダーの方が集まるバーに行ってみたり、実際に胸を特殊造形で作るということもあったので、そういう体験というか体で感じることでも準備しました。
マイソン:
胸は映さないのかなと思ったら、ちゃんと映していましたよね。
坂東龍汰さん:
僕自身男として生まれて男として育っているので、僕を元々知っている人だったら体が男の人に見えてしまうところを、ああいう風にちゃんと胸を映すことでかなりリアリティがあるというか、あの描写はすごくこの映画にとって大切だったんじゃないかと思います。あとは当事者がいらっしゃる題材を扱っているので、やっぱり失礼のないように、そこには自分が嘘をつかず、できる限りのことはしてちゃんと自分がわかった状態で演技をするということが大事になる作品だなと思いました。
マイソン:
LGBTQを題材にした作品がかなり増えてきて私もたくさん観てきましたが、この作品を観て、やっぱり自分がまだまだわかっていないことが多いと思いました。
坂東龍汰さん:
そうですよね。この作品はかなり衝撃的ですもんね。ストーリーがすごいというか、最後のシーンとか真也の行動とかチョイスがすごいじゃないですか。僕もやっぱりまだまだ知らないことだらけだなって今でも思います。やっと日本も同性婚だったりLGBTQに関しての理解をしようと多くの方が思い始めているタイミングで、コロナもきっかけとなっていろいろなことを考えたり、政治に関しても若者が関心を持ち始めている時代に、メッセージ性の強いこの作品が日本国内で上映されるというのはものすごく意味のあることなんじゃないかなと思います。2年前にこの作品ができてすぐに公開するよりも今のほうが確実に観てくれる人が多いでしょうし、セクシャルマイノリティであるLGBTQ自体がカテゴライズできないもので、そういうところに関心や理解が深まって差別や偏見がなくなれば良いなとすごく思います。いろいろな愛の形があって良いんだよということをすごく伝えたい映画で、監督自身も当事者であることからある意味希望を皆さんに持ってもらいたいという意味でも書いた脚本だと思います。僕もそこは自分の肉体を使ってできる限り伝えられたらと思いました。芝居も不慣れなところがたくさんあって、まだまだ勉強しないといけないなと思いますが、撮影当時出せる100%を出せたと思うので、何か伝わるものがあって、より多くの方が関心を持ってもらえる日本になったら良いなと思っています。
マイソン:
ありがとうございます。ではちょっと話題が変わるのですが、板東さんが俳優になったきっかけや、このお仕事に興味を持ったきっかけを教えてください。
坂東龍汰さん:
北海道のシュタイナー学校というちょっと変わった学校に通っていて、当時姉が入っていた児童劇団みたいなところに僕も入っていたのですが、当時僕は人前に立つとすごく緊張しちゃって嫌いだったんです。セリフも全然覚えられないし、早く辞めたいと思っていて(笑)。でも徐々に演劇のおもしろさみたいなものに目覚めて、高校3年生の時にやった舞台がきっかけで「これしかない!」と思いました。これを職業にしないで僕は何を職業にするんだろうって。それまではカメラも好きだったし、社交ダンスもしていたし、ギターも歌も好きだし、5年間くらい世界中を旅してカメラで写真を撮って自伝でも出そうかなと考えていて、そんなふわっとした自分の未来が役者というものにフォーカスしたのはそのタイミングかもしれません。18歳くらいの時ですね。
マイソン:
そのお芝居自体がピタッときたという感じですか?
坂東龍汰さん:
そうですね。すごくエモーショナルな感じで言葉には表せない感覚に初めてなりました。
マイソン:
それは役自体がおもしろかったのと、観客の方の反応とかも含めてでしょうか?
坂東龍汰さん:
それもありますね。自分の声が届いてそれに対しての反応だったり、観終わった後の感想だったり、顔はすごく鮮明に覚えていて、人前に立つことが大嫌いだった自分がこんなに人の1日を変えることができるんだということにすごく感動しました。
マイソン:
なるほど〜。海外にもいらっしゃったので、英語圏の作品も将来的には視野に入っているのでしょうか?
坂東龍汰さん:
やってみたいという気持ちはもちろんあります。僕はハリウッド映画から観始めたので。ハリウッド映画ばかり観てすごく影響されて興味を持ち始めたので、自分のルーツというか最初に触れたものは野球でいうメジャーリーグにあたるハリウッドです。プロ野球選手になってメジャーリーグに行きたい小学生が本場のメジャーリーグを観ていないわけがないじゃないですか。それと一緒で、まだ漠然としていますけどハリウッドは何か本当に1つでもチャンスがあるなら将来的には挑戦してみたい夢の場所ではあります。
マイソン:
子どもの時に夢中になっていたのは、例えばどんなハリウッド作品でしょうか?
坂東龍汰さん:
夢中になった作品はあり過ぎますが、“ロード・オブ・ザ・リング”や“ハリー・ポッター” “パイレーツ・オブ・カリビアン”にハマっていました。当時教育上テレビ、ゲームは見せてもらえず、携帯もなかった自分にとっては信じられない世界だったので衝撃的過ぎました。自分の世界よりそっちが本物なんじゃないかと思うくらいエッセンスが強くて刺激的で、あの時の衝撃は今でも忘れられないですね。今初めて『マトリックス』を観るのと、子どもだった当時の僕が『マトリックス』を観て受ける衝撃は、今の何百倍もあったと思います。初めて『マトリックス』を観た時は本当にすごかったですね。本当にこんな世界があるんじゃないかって信じ込んでいたので、すごく影響されていました。
マイソン:
確かにどの作品も子どもの頃に観ると一層衝撃が強いですよね!ではこれは皆さんに聞いている質問なのですが、これまでにいち観客として大きな影響を受けた映画、もしくは俳優、監督がいらっしゃったら教えてください。
坂東龍汰さん:
あり過ぎて困っちゃいますね。どうしよう。じゃあ最近観たものにします。『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』に出ていたサリー・ホーキンスとイーサン・ホークのお芝居ですね。2人とも役の年齢よりも実際はだいぶ下の年齢で演じられていたと思うんですけど、久々にシビれました。僕からしたら何年この役に使ったんだろうと思わせるような説得力というか凄まじいものがありました。イーサン・ホークの昔の作品だと『リアリティ・バイツ』とか『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』とか好きな映画があるんですけど、ああいう渋いイーサン・ホークもカッコ良いなと思いました。目の奥にある感情みたいなものをすごく感じて、表情が動いていないのに伝わってくるというのはああいう静かな映画にこそある機微なのかなと思いました。
マイソン:
本日はありがとうございました!
2021年11月24日取材 PHOTO&TEXT by Myson
『フタリノセカイ』
2022年1月14日より全国順次公開
PG-12
監督・脚本:飯塚花笑
出演:片山友希/坂東龍汰/嶺豪一/持田加奈子/手島実優/田中美晴/大高洋子/関幸治/松永拓野/クノ真季子
配給:アークエンタテインメント
トランスジェンダーの真也とユイ(シスジェンダー)は出会った瞬間から惹かれあい、すぐに急接近。だが、真剣な交際になるにつれ、結婚や子どもをどうするかといったところで壁が立ちはだかる。
公式サイト REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
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