殺人を拒む吸血鬼と死を望む青年が出会い、共鳴していくダークファンタジー『ヒューマニスト・ヴァンパイア・シーキング・コンセンティング・スーサイダル・パーソン』。今回は本作で主演を飾ったサラ・モンプチさんとアリアーヌ・ルイ・セーズ監督にメールインタビューをさせていただきました。
<PROFILE>
サラ・モンプチ:サラ 役<写真左>
カナダ出身。セバスティアン・ピロット監督作“Maria Chapdelaine(原題)”(2021)の主演で映画デビューを果たし、第24回アイリス賞Revelation of the Year(新人賞)に輝いた。その後、『ファルコン・レイク』(2022)のほか“Chien Blanc(原題)”(2022)などに出演。『ヒューマニスト・ヴァンパイア・シーキング・コンセンティング・スーサイダル・パーソン』では主人公のサシャ役を好演。
アリアーヌ・ルイ・セーズ:監督、脚本<写真右>
モントリオールを拠点に活動する映画監督。短編映画“Wild Skin(原題)”(2016)で監督デビューを飾る。同作は世界中の50以上の映画祭で上映され、Gala Québec Cinémaのアイリス賞短編フィクション部門やカナダ・スクリーン・アワードの最優秀短編フィクション賞など、数々の賞を受賞、ノミネートされた。その後、短編映画“Little Waves(原題)”(2018)で、ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門に選出、トロント国際映画祭ショートカッツ部門にノミネートされた。2018年“The Depths(原題)”の、2019年『流れ星』でも脚本と監督を務め、『流れ星』は世界各国の映画祭で12の賞を受賞し、再びアイリス賞短編フィクション部門にノミネートされた。本作『ヒューマニスト・ヴァンパイア・シーキング・コンセンティング・スーサイダル・パーソン』では初の長編映画監督を務めた。
できるだけ自分の価値観に忠実であろうと努めています
シャミ:
最初に本作の脚本を読んだ時に、サシャというキャラクターや物語にどんな印象を受けましたか?また、サシャをどのように演じたいと思いましたか?
サラ・モンプチさん:
ユニークな脚本に出会ったと思いました。ジャンル映画でヴァンパイアを演じることは、特にケベックでは非常に珍しいことです。人間離れしたキャラクターを演じることは、滅多にできることではありません。最初から私はこの役に深く興味を惹かれていました。そして、サシャに対する印象は、大人の世界に直面する普通のティーンエイジャーで、他者との違いを感じながら変化を乗り越えようとしているというものでした。彼女が実際には、68歳であるという事実は特に気にしていませんでした。吸血鬼の世界では、彼女はティーンエイジャーなのですから。また、この映画の台詞には、独特のコメディのトーンがあり、ユーモアとドラマのバランスを取ることが本当に難しかったです。
シャミ:
ヴァンパイアでありながら、人を殺すことができないサシャを演じる上で、特に気をつけた点はありますか?もし監督と役や作品について話し合ったこともあれば教えてください。
サラ・モンプチさん:
彼女がとても優しく、穏やかであると同時に危うく、不安定であるところが好きでした。そんな二面性のあるキャラクターを演じることができて嬉しかったです。ヴァンパイアという型破りなキャラクターを演じることは、とても魅力的な遊び場をいただいたようなものでした。人間的な限界がないので、無限に探求できる領域でした。サシャは私とは異なる方法で生きていて、動き、感情を感じています。
アリアーヌ監督は、ヴァンパイアにとって時間との関係は人間とは異なると説明してくれました(ヴァンパイアは人間よりもゆっくりと年をとるため)。そのため、彼らは実際の人間の動きと少しずれた方法で動き、呼吸し、観察するのです。そこで私達は、「話すことと、動くことを同時にしない」というルールを設け、なるべく動きの前か後にセリフを言うようにしました。
役については撮影前や撮影中にあまり話し合うことはなく、ポール役のフェリックス・アントワーヌ・ベナールと私で何度かリハーサルを行いました。私達は2週間、あるシーンのリハーサルを行い、2人のキャラクターの間に正しいリズムを見つけることができました。アリアーヌ監督は、映画の雰囲気からインスピレーションを得ることができるように、参考となる作品をいくつか教えてくれました。『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』や『ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女』などです。また、脚本にインスピレーションを与えた監督のプレイリストも教えてくれました。もし他の監督と一緒に仕事をする機会があれば、プレイリストをまた聞いてみたいと思いました。監督が聴いている音楽からインスピレーションを得ることで、もっと深く作品と繋がることができると思ったので。
シャミ:
ご自身とサシャとで似ている点や特に共感できた部分はありますか?
サラ・モンプチさん:
サシャは、自分の居場所がないと感じている存在だと思います。彼女は、周囲の世界を航海しながら、自分の根底にある価値観を守りたいと願う人です。ここが私とサシャの似ているところだと思います。非人間的であることをますます強要されるこの社会と共存しながら、私はできるだけ自分の価値観に忠実であろうと努めています。ヴァンパイアのほうが私達よりも繊細で温かく、生きているように見えさえします。
シャミ:
人を殺せないヴァンパイアのサシャと自殺願望のある人間のポールが出会い、不器用ながらも2人が少しずつ心を通わせていく様子がとても印象に残りました。サラさんご自身はこの2人の関係をどのように捉えていましたか?
サラ・モンプチさん:
2人は本当にユニークな関係だと思います。2人を繋ぐ、人の心に響く何かが彼らの間にはあります。それは孤独であり、そして何よりも「他者と違う」という感覚なのです。その違いが彼らを最終的に結びつけているといえるでしょう。2人共、人生に意味を見出そうと奮闘しています。そして2人でそれを見つけ出すのです。
シャミ:
本作ではヴァンパイア役という特徴的な役を演じていましたが、今後はどんな役に挑戦してみたいですか?
サラ・モンプチさん:
いつか演じてみたい特定のキャラクターやシチュエーションがあるわけではありません。私はインスピレーションを与えてくれる脚本を読んで、演じたいと考えます。脚本さえおもしろければ、どんなキャラクターでもおもしろくなると思います。だから、将来やってみたい特定のことはありません。あるとすれば、おもしろいストーリーの作品で、魅力的な方達と仕事をしたいという想いです。
映画作りの最終的なゴールは、多様な感情や視点を体験することで、孤独を軽減すること
シャミ:
短編作品を経て、本作が監督にとって初の長編作品となりました。本作の監督を務めることになった経緯を教えてください。また、脚本も手掛けていますが、物語のアイデアはどのように生まれたのでしょうか?
アリアーヌ・ルイ・セーズ監督:
この物語のインスピレーションを受けたものを、ピンポイントで挙げるのは難しいですが、私ははみ出し者のキャラクターにいつも惹かれてきました。何か新しいものを生み出す時は、たいてい私の中の小さな変人が理解を求めている時なのです。この作品では、道徳的なジレンマと格闘する吸血鬼を描き、私達の中にある矛盾を浮き彫りにしました。自分の負の側面と向き合うのは難しいことですが、どんな自分も受け入れなければならないと思います。例えば、映画の中で、サシャは吸血鬼としての本能と戦っていますが、自分の生まれ持った性質を変えることはできません。どうすれば吸血鬼であることを否定することなく、人間らしい価値観も大切にすることができるのかという問題を抱えていました。不可能に見えますが、サシャは自分自身を変えずに、自分の違いを受け入れる方法を見つけるのです。この自分を受け入れることと、葛藤をする道のりが、この映画を脚本、監督する原動力となった核となるアイデアです。
シャミ:
ヴァンパイアをテーマにした作品はこれまでにもさまざまなものがあります。本作の特徴として特に描きたかった部分はどんな点でしょうか?
アリアーヌ・ルイ・セーズ監督:
吸血鬼は、私達が生きる社会について議論することができる、そして自由に創作することができる余白を与えてくれた、素晴らしい遊び場であったと思います。人々に親しみを感じさせる一方で、少し怖がらせることができるような、人気のある題材を掘り下げるのは楽しかったです。日常と非現実的な要素を混ぜ合わせたり、引きつける力と反発する力のテーマを探求したりすることを楽しみました。
映画作りの最終的なゴールは、多様な感情や視点を体験することで、孤独を軽減することだと私は思っています。対話を生み、根底では私達は皆同じなのだと、気づくことができる素晴らしい方法です。トラウマを癒したり、人々を結びつけることができる効果的な手段でもあると思います。作り手としても、また観客としても、これが私にとっての映画というものです。本作では、観客が登場人物と深く繋がり、自分自身の内面の葛藤や人間性について考えることができるような、ユニークな物語を作りたいと思いました。
シャミ:
人を殺せないヴァンパイアのサシャと自殺願望のある人間のポールは、それぞれどこか孤独を感じているキャラクターでした。そんな2人を描く上で、監督が特に気をつけた点はどんな点ですか?
アリアーヌ・ルイ・セーズ監督:
サシャとポールを描くにあたって、私は彼らの深い孤独と繋がりを求める気持ちに焦点を当てました。サシャについては、彼女の葛藤と人間的な価値観を保ちたいという願望を強調し、ポールについては、彼の孤独と生きる意味の探求を描きたいと思っていました。2人の交流は、本物の絆と共感が映し出されるようにし、2人の弱さとさりげなく互いを支え合う姿を際立たせました。彼らの成長と共感と理解がもたらす変容の力を描くことが目標でした。
シャミ:
サシャを演じたサラ・モンプチさんの少し不気味な雰囲気や表情も印象的でした。彼女をサシャ役に抜擢した理由、または、監督が特に魅力だと感じた点を教えてください。
アリアーヌ・ルイ・セーズ監督:
以前、演技をするサラを映画のスクリーンで観た時に、私は圧倒され、ヴァンパイア役にぴったりだと思ったのです。彼女には独特でミステリアスなオーラがあり、瞳には68歳であると言われても信じさせてしまうような深みがありました。そこで、彼女にユーモアのセンスがあるかどうかを確かめるために、オーディションを受けてもらうことにしました。彼女には不思議で魅力的なユーモアのセンスがあり、台詞のリズムを本当に理解していると思いました。彼女は信じられないほど賢く、印象的な期待の新星です。
シャミ:
本作は海外の映画祭で多数受賞、ノミネートされています。いろいろな国で上映されて、どう感じましたか?また、本作での長編映画デビューを経て、今後作品を作っていく上で大切にしたいことはありますか?
アリアーヌ・ルイ・セーズ監督:
世界中のこれほど多くの観客の方に観ていただけるとは、思ってもみませんでした。私のユーモアとサシャとポールの愛すべきキャラクターが世界中の人々の心に響いていることを実感しました。 この映画で最も困難だったのは、29日間の撮影で47カ所という多くのロケ地を回ったことです。撮影開始時には9カ所しか決まっていなかったので、とても神経を使い、その瞬間に集中することが難しかったです。今後の仕事では、無駄なエネルギーを使わないよう、準備の段階で適切な撮影場所を見つけることに集中しようと思います。また、夜間の撮影はチームに負担がかかるので、なるべく避けたいと思いました。とはいえ、この映画では夜間撮影があったからこそ、私が求めていた雰囲気を作り出してくれたと思うので、後悔はしていません。
2024年4月取材 TEXT by Shamy
『ヒューマニスト・ヴァンパイア・シーキング・コンセンティング・スーサイダル・パーソン』
2024年7月12日より全国公開
監督:アリアーヌ・ルイ・セーズ
出演:サラ・モンプチ/フェリックス・アントワーヌ・ベナール/スティーブ・ラプランテ
配給:ライツキューブ
ヴァンパイアのサシャは、感受性が豊か過ぎるため人を殺すことができず、生きるために必要な血の確保を親に頼っていた。両親はそんな彼女を見かね、血気盛んな従姉と共同生活を送らせることを決める。サシャは血液の供給が断たれるが、どうしても人を殺すことができない。そんな彼女の心が限界を迎えた時、自殺願望を持つ孤独な青年ポールと出会い…。
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- イイ俳優セレクション/サラ・モンプチ(後日UP)