映画『市子』で杉咲花さんが演じる主人公、市子の恋人役を演じた若葉竜也さんにインタビューをさせていただきました。若葉さんといえば、多くの作品に引っ張りだこの演技派俳優ということで、仕事観についてなどたくさん質問をぶつけてみました。
<PROFILE>
若葉竜也(わかば りゅうや):長谷川義則 役
東京都出身の1989年6月10日生まれ。2016年に『葛城事件』で第8回TAMA映画賞にて最優秀新進男優賞を受賞。作品によって違った表情を見せる幅広い演技力で数多くの作品に出演。出演作は、『GANTZ』『DOG×POLICE 純白の絆』『明烏 あけがらす』『美しい星』『南瓜とマヨネーズ』『サラバ静寂』『素敵なダイナマイトスキャンダル』『パンク侍、斬られて候』『愛がなんだ』『台風家族』『生きちゃった』『朝が来る』『AWAKE』『あの頃。』『街の上で』『くれなずめ』『前科者』『神は見返りを求める』『窓辺にて』『ちひろさん』『愛にイナズマ』など、若くして数え切れないほどある。また、テレビドラマは杉咲花と共演したNHKの連続テレビ小説『おちょやん』(2020)他、『ブラックスキャンダル』、WOWOW連続ドラマW『コールドケース2~真実の扉』『群青領域』などに出演。2024年3月には、主演映画『ペナルティループ』の公開も控えている。
100人の中の誰かたった1人に突き刺さる映画を作りたい
マイソン:
脚本を読んだ第一印象はどうでしたか?
若葉竜也さん:
杉咲さんが市子という役を演じることにすごく興味がありました。どう演じられるのか、間近で見たいという思いが1番にありました。
マイソン:
私は前情報を入れずに本作を観て、これまで知らなかった社会問題について、すごく考えさせられました。市子というキャラクターの物語が3つの時代で展開されていて、若葉さんは大人になった市子とだけ接点がある長谷川というキャラクターを演じていらっしゃいました。役としては市子について知らない部分があったと思うのですが、演じる上で、市子について知らない部分をどう扱っていたのでしょうか?
若葉竜也さん:
本当にそこがテーマでした。映画の構造として、長谷川は観客と一緒に市子の過去だったり、闇の部分を見ていく立場だったじゃないですか。僕がそこで形骸的、表層的な表現をしてしまったら、観客にとって劇中で起こっていることが一気に対岸の火事になってしまうような気がしていたんです。どうやって鮮度を高く保つかがテーマだったので、本当にシンプルに(台本の)市子のパートはほとんど読んでないです。役者の声とかそういうものを実際に現場で聞いて動揺していったり。だから、演技プランとかもないんですよね。長谷川として演じた上で、市子という人間を語る声を実際にその瞬間聞いて、そこでカメラが回っているっていう状況でした。
マイソン:
ご自身がいなかったシーンを、出来上がった映画で観てどうでしたか?
若葉竜也さん:
おもしろかったですね。別の映画みたいに見えました。市子の悲しさとか闇とかばかりフィーチャーされますけど、僕は市子の人間らしさとか、滑稽な姿に魅力を感じていて、笑っちゃったんですよね。ちっちゃな市子がチョコレートを盗むシーンとか、僕は愛おしくてしょうがなかったというか。切なくなる人もいると思うんですけど、切ないから可笑しいみたいな、結構あそこで笑っちゃいましたね。
マイソン:
映画を観る際は、演じた役の目線で観るのか、若葉さんご自身として観るのか、どちらでしょうか?
若葉竜也さん:
僕自身で観ますよ。だから、自分が出てるシーンは冷静には観られないです。2回目、3回目、もしかしたら、オフィシャルの場じゃなく、自分で普通に映画館に行ってお金を払って観た時に初めて冷静に観られるのかもしれません。自分が出ていないパートは観られるので、そういう意味では市子の人間らしさをうまく表現してくれたのは子役の市子だったなと感じましたね。
マイソン:
長谷川は、とても懐の深いキャラクターだと思いました。演じる上で難しかったり、共感した部分はありますか?
若葉竜也さん:
たとえば、3年間一緒にいて市子と過去の話を敢えてしないのは、優しくも見えるけど、僕はずるいなと思ったんですよ。自分が傷付きたくないから介入しないというのは、ある種のずるさだと思っていて、その思いで演じてました。長谷川を優しいと見る人もいれば、ずるいなって思う人もいるようにしたかったんです。市子が失踪して、市子のことを知っていく過程で、後悔もいっぱいあったと思うんです。他者に介入しなかったという後悔みたいなものがたくさんあったと思うんですけど、彼はそれを取り戻そうとするかのように、どっぷり市子の闇に手を突っこんでいくというか、踏み込んでいく。そういうことをまずやりたかったんですよね。タイムマシンに乗るじゃないけど、なかった時間を取り戻そうとすることで、少し共感が生まれるかなと。長谷川に共感する部分は僕にはないんですけど、どこに同じ場所を見つけられるかと思ったら、やっぱり自分のために何かした結果、何かを失って、それを取り戻そうと必死にもがくということは、自分にも経験があるので、そこを表現しようと思いました。
マイソン:
脚本を読んだ段階に比べて、相手がいる状況で演技をすることで役に理解が深まって、演技が変わるってことはあるんですか?
若葉竜也さん:
僕は役を理解したっていう経験は一度もなくて。理解したら遠ざかる気がしていて、わからない状態、不安な状態で佇むことが1番生々しいような気がしています。変わるってことでいえば、そのシーンに出ている演者のトーンとか声色、緊張感から、もろに影響は受けますよね。長谷川の表情も、テストと本番で全然違ったと思います。
マイソン:
今回、とても難しいテーマというか、深いテーマが描かれていました。私自身、娯楽としてだけではない映画の意義を感じています。若葉さんは、映画の存在意義をどう考えていて、観客に映画をどんな風に観てもらいたいですか?
若葉竜也さん:
僕はたとえば、100人観客がいて、100人が絶賛する映画が良い映画とはそんなに思ってなくて、それよりも100人の中の誰かたった1人に突き刺さる映画を作りたいと常々思っています。10万人、100万人という規模を相手にしているわけではなくて、僕自身はたった1人と向き合う気持ちで映画を作っています。存在意義でいうと、もしかしたら、本当に何かにすがりたいと思っているような、何もない寂しい人に向けて作っているのかもしれません。映画を背負うとか、映画っていうテーマを自分の人生に課すっていうほど、僕は映画を背負えないと思います。ただ、役者ということだけでいったら、大勢の人にもちろん観ていただきたいですけど、僕の感性としてはそれが誰かはわからないとしても、その1人に向き合って、その人のためにと思いながら、常々映画を作っています。
マイソン:
若葉さんが出ている映画に私の好きな作品が多くて、この役者さんが出ている映画なら間違いない、という感覚があります。
若葉竜也さん:
ありがとうございます。
マイソン:
若葉さんが出演したいって思う映画、出演する作品を選ぶ基準、共通点ってありますか?
若葉竜也さん:
自分が観たいと思うかどうかだと思います。10代の終わり頃、映画館にずっと通ってた時期があって、家にはチラシとかが山ほどありました。だから、当時の自分がこれは観に行かなきゃダメだって思う映画が知らぬ間に基準になっているのかもしれないですね。やっぱり自分が観たいと思わないと、こういう宣伝も含めてできないですよ。自分があんまりおもしろくないって思いながら、「観てください」って言えないのと一緒です。今ももちろん映画館に行くし、観客と一緒に観る楽しさっていうのはずっと続いています。自分がいち観客になった上で「この映画は映画館で観るぞ」と思う作品に対して、「映画館にぜひ観に来てください」って言葉を発する。それは自分の中のルールとして守ってます。
マイソン:
そういう思いが伝わってくるから私達も観たくなるんでしょうね。普段、いち観客として映画を選ぶ際、よく観るジャンルってありますか?
若葉竜也さん:
ジャンルは本当にバラバラなんですよね。自主映画も観に行きますし、大作のハリウッド映画も観に行くし、ミステリーもホラーもアクションも観ます。結構バラバラですけど、何が琴線に触れてるんですかね…。でも、とにかく観に行きたいと思う、シンプルに気になる映画があれば映画館に行きますね。
マイソン:
映画を観る時は、俳優さんに目がいったり、演出に目がいったり、作品によって違うものでしょうか?
若葉竜也さん:
僕は割とフラットに観ていると思います。近年1番おもしろいなと思ったのは『こちらあみ子』です。自分の生活と地続きで、どこかで観たことのある景色がたくさん連なっていて。このジャンルだから行くってことはないですけど、近年映画館で観て、すごくおもしろいなって僕が思った作品を1本挙げるなら『こちらあみ子』ですね。
マイソン:
海外の方と共演したり、海外の監督の作品に出演したり、交流する機会も増えてきたと思うんですけど、海外作品へのご興味はどうでしょうか?
若葉竜也さん:
あんまりないんですよね。やっぱり日本映画が好きなので、海外に進出っていう思いは今のところないですね。まずは日本の映画館、日本の映画祭でしっかり評価されて、「これが俺が作った日本映画なんだ!」って、海外に持って行くことに興味があります。ハリウッドが作った映画って、もちろんスゴいし、レベルも高い。バジェットや労働環境含めて、日本映画が足元にも及ばない状況はたくさんあります。だけど、日本映画が海外で評価されたからスゴいのではなくて、日本映画だからできることを世界に見せたいっていう思いのほうが強いですね。
マイソン:
なるほど。では、すごく長い間、俳優のお仕事をされていらっしゃいますが、俳優のお仕事をする上で大切にしていることはありますか?
若葉竜也さん:
日常生活ですかね。日常生活を本当にただ平凡に生きるってことに1番ピントが合ってるかもしれません。派手なことってほとんどないし、生活者であるという感覚はずっと持ってますね。皆さんがイメージするような、俳優っぽい生活ってあると思うんですけど、僕はそういうところから逃げてます。本当に普通に生きようと思ってます(笑)。
マイソン:
ハハハハ(笑)。だから地に足のついた演技というか、逆に役に生きることに繋がってるというか。
若葉竜也さん:
というよりも、生きるために仕事をするのか、仕事のために生きるのかっていう2択だと僕は思っています。それでいったら、僕にとっては生きるための仕事なので、優先順位でいったら(仕事は)1番じゃないです。だから平凡なんです。仕事のために生きるってなった時に、プライベートを捨てるほどの意識は僕にはないです。
マイソン:
そうやって自分のスタンスをしっかり持つって大事ですね。あと、子どもの頃から俳優の仕事を続けてきて、大きなターニングポイントはありましたか?
若葉竜也さん:
いくつかあります。最初は廣木隆一監督との出会いですね。直木賞を獲った石田衣良さんの原作を映像化した『4TEENフォーティーン』っていう作品のオーディションに参加させてもらって、出ることになったんです。今まで自分が見てきたり、役者ってこうだって思っていたものが打ち砕かれた最初の経験が廣木監督の現場でしたね。凝り固まっていたつもりはなかったんですけど、いつの間にか歴史と共に固くなっていった部分があったんだと思います。そういう経験は今もどこかで期待しています。その後、赤堀雅秋さんとの出会いだったり、今泉力哉監督との出会いだったり、3年に1回くらい自分の凝り固まったところを壊してくれる出会いがあるので、これからもきっともっと大きなことが起きるんじゃないかという思いもあります。
マイソン:
すごくいろいろな現場を経験されていて、緊張されることってあるんですか?
若葉竜也さん:
本当に緊張しいなので、ほぼ全部の現場で同じレベルの緊張をしてますね。セリフが飛ぶくらい、だいたいどこでも同じくらい緊張します(笑)。人前で演技するって恥ずかしいので。
マイソン:
そうなんですね!それは演技が始まるとスイッチが入るんですか?
若葉竜也さん:
いやいやスイッチは入らないし、緊張してて集中してないからセリフが飛ぶんです。そのくらいプロじゃないです(笑)。
マイソン:
いやいやいや(笑)。
若葉竜也さん:
何ですかね、空気の匂い、ロケ地の匂いが感じられるようになってから、徐々に自分のエンジンの回転数が上がっていく感じです。撮影初日の前日は寝れないですし、初日なんてグチャグチャですよ。芝居のレベルでいったらめちゃくちゃ低いと思ってます(笑)。だから「今日も皆にがっかりされたな」と思いながら、家に帰ります。でも、性格だからしょうがないので受け容れながら、どう付き合っていくか考えてます(笑)。
マイソン:
やってて乗ってきたって感じる時、楽しくなってくる時もあるんですか?
若葉竜也さん:
ありますけど、1番危険な状態なので、それは自分の中で殺します。役者が乗ってる時って1番痛いので。役者の気持ち良い芝居って観てると冷めると思ってて、足し算になった瞬間からたぶん気持ち良くなるので、マイナスの状態に身を置くというか。自分がどこか不安で、役が崩壊してるかしてないかっていう本当に絶妙なところが1番生々しいと僕は思っているので、意図的に常にマインドを不安な状態にしているのかもしれないです。
マイソン:
常にどこか客観的な自分がいるんですかね。
若葉竜也さん:
客観的というか、今の自分気持ち悪いなって思ってる自分はいると思いますね。「よ〜し、現場だ、やるぞ!」じゃなくて、どちらかというと粛々とやってます。昨日の日常生活から1歩踏み出すだけで“現場”になるので、地続きのなかで粛々と仕事をしているって感じですね。
マイソン:
では最後の質問です。先ほどもお話が出てきたんですけど、改めて。これまで一番影響を受けた人物がいたら教えてください。
若葉竜也さん:
1番はわからないですけど、さっき挙げた方達からは、役者としてすごく大きく影響を受けたと思うんです。一方で、根源を探った時に、自分の間(ま)とかトーン、リズム、日常生活でおもしろいと思うものという意味でも、強く影響を受けたのは、いがらしみきおさん。今立ち返ってみると、幼い頃からいがらしさんの漫画を読んでるので、ガツって間(ま)が入ったり、トーンというか、なんていうんですかね、オフビートの変なリズムというか、すごく影響を受けたと思います。
マイソン:
貴重なお話をありがとうございました!
2023年11月6日取材 PHOTO&TEXT by Myson
『市子』
2023年12月8日より、テアトル新宿、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
監督:戸田彬弘
出演:杉咲花/若葉竜也/森永悠希/倉悠貴/中田青渚/石川瑠華/大浦千佳/渡辺大知/宇野祥平/中村ゆり
配給:ハピネットファントム・スタジオ
川辺市子は、3年間共に暮らしていた恋人の長谷川義則からプロポーズを受けた次の日に姿を消してしまう。そこへ市子を捜しているという刑事が現れ、市子が本当は何者なのかがわからなくなった長谷川は、市子の過去を辿るべく、市子の昔の友人や知人などを訪ね歩き…。
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©2023 映画「市子」製作委員会
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情報は2023年12月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。