Netflix映画『彼女』の廣木隆一監督と、主人公の1人、七恵を演じた、さとうほなみさんにインタビューをさせていただきました。監督、主演の立場から、本作の魅力をいろいろと語っていただきました。お2人の楽しい掛け合いから、撮影現場でも和気あいあいとされていたのかなというのが伝わってきました。
<PROFILE>
廣木隆一:監督
1954年生まれ。様々な作品に助監督して参加した後、1982年に監督デビューし、2003年に撮った『ヴァイヴレータ』は40ヵ国以上の国際映画祭で受賞した。主な監督作品は、『余命一ヶ月の花嫁』『軽蔑』『RIVER』『きいろいゾウ』『さよなら歌舞伎町』『ストロボ・エッジ』『オオカミ少女と黒王子』『夏美のホタル』『PとJK』『ナミヤ雑貨店の奇跡』『彼女の人生は間違いじゃない』『伊藤くんA to E』『マーマレード・ボーイ』『ここは退屈迎えに来て』などがあり、幅広いジャンルの作品を手掛けている。Netflixでは2016年のNetflixオリジナルシリーズ『火花』で総監督を務め、今作Netflix映画『彼女』は2度目のNetflix作品となる。
さとうほなみ:篠田七恵 役
1989年生まれ、東京都出身。2012年に結成のバンド“ゲスの極み乙女。”でのドラマーとして、“ほな・いこか”名義で、アーティスト活動を始める。さとうほなみとしては、『黒革の手帳』や朝の連続テレビ小説『まんぷく』『ルパンの娘』『誰かが、見ている』などのドラマに出演。舞台にも数多く出演し、映画は『窮鼠はチーズの夢を見る』(2020)出演でも話題になる。
役者さんの感情を引き出すために、廣木監督がやっているずるい手とは
マイソン:
とても見応えのある映画でした。さとうさんは本作のオファーが来た時に戸惑いはありませんでしたか?
さとうほなみさん:
私は中村珍さん原作の「羣青」がもともと好きで、廣木監督の作品も好きなので、この組合せはスゴいなって思いました。お話をいただいた時はなんだか信じられなくて、この好きなものの組み合わせに、何が起きてるんだろうって感じでした。でも本当に正直に嬉しかったです。原作の漫画自体、画力が強いので、そこに関しては漫画に引きづられないようにというか、そこは最初少し不安だったんですけど、監督に「漫画を100%意識はしなくていいよ」っておっしゃっていただいたので、漫画の再現をしなくて良いんだなっていう風に捉えられました。
マイソン:
完成した作品を観た後で、印象の変化はありましたか?
さとうほなみさん:
音楽が結構多く使われていて、細野晴臣さん(テーマ曲担当)だったり、odolの森山公稀さん(音楽担当)だったり、既存曲もあって、YUIさんの“CHE.R.RY”も作品に効いていると思います。音楽がこの逃亡劇にすごくよく絡んでいるんです。撮影当時、希子ちゃんと演じていたことがそのままレイと七恵の感情にも映し出されているようで、音楽の絡みがスゴいなって。バ〜ッと音楽も入ってくるし、でも音楽にもっていかれない画もあるし、すごい相乗効果で、そこに一番ビックリしました。
マイソン:
音楽もすごく印象的でしたよね。では監督に質問で、漫画を意識し過ぎずというお話が先ほど出たんですが、漫画にはあるけど、映画にそのシーンを入れる、入れないというのは、どういう風にジャッジをされたんでしょうか?
廣木隆一監督:
原作の持っている強さに惹かれて作っていきました。でも人間が演じるというところで映画と原作では表現に大きな違いがあります。ただ、原作が持っているその作品のコアな部分は絶対に外さないようにするというのは毎回心がけています。原作では1枚絵で泣いてる顔とか、強いじゃないですか。映画はその表現をする時に役者さんの感情がのって、そこは印象が違っていくのは当たり前だと思うんですね。そこで役者さんの感情がうまく出れば良いかなと。
マイソン:
なるほど。さとうさんは、アーティストとしても活躍されていますが、アーティストの経験がお芝居に活かされていると思う部分はありますか?
さとうほなみさん:
映像に関しては、「ここができたな」「ここが活きてるな」とかって思うことは全然ないですね。音楽をやっている方って音の捉え方が上手い方が多いのかなって個人的には思っているんですけど、私は東京生まれなのになまっていたみたいで、『彼女』では録音さんにイントネーションをすごく注意されたので、あまりアーティストとしての経験は活用できてないんです(笑)。
一同:
ハハハハ。
マイソン:
そうなんですね(笑)。でもアーティスト兼俳優の方は皆さん演技がすごく自然でスゴいなって思います。逆にそんなに意識されてないってことですかね?
さとうほなみさん:
そうですね。全然そこに関しては意識してなかったです。
マイソン:
俳優の難しさみたいなところはありましたか?
さとうほなみさん:
基本的には難しいです。役としてそこにいる時、画面で映っているのはそのシーンだけが切り取られているんですけど、そのキャラクターにも過去があって、いろいろ家族とか友人との関係性で構成された感情があるなかで、そこにいるんだと思うんです。それを掴むというか、知るというか、感じるというか、そこに至るまで結構頭をフル回転させないとダメだし、でもただ頭で考えるだけでもダメなので、その人が生きてるっていうところに持っていくのがとても興味深いというか、楽しいことでもあり、難しいことでもあるなって思います。
マイソン:
(監督へ)今回、人間の本質、本性というか内面がすごく露わになる作品だと感じました。監督から見て、俳優さん達が殻を破る瞬間ってありますか?
廣木隆一監督:
その場面、場面でっていうよりは、後で編集する時にっていうか…「殻を破る」、そんなことができたらスゴいですね(笑)。
一同:
ハハハハ。
廣木隆一監督:
ほなみちゃんも希子ちゃんも最初から殻が破けてるので。
さとうほなみさん:
最初から破けてました(笑)?
廣木隆一監督:
そんなことない(笑)。
さとうほなみさん:
どっちですか(笑)!
廣木隆一監督:
でも最初はみんな初対面で会う時は、こういう(間にあったアクリルケースを例に)壁で塞がってますから、向こうが破ってくれるのか、こっちが破るのかだと思うんですけど、その破れる瞬間が来ると、その映画はスゴくなるって気になりますね。今回は2人とも最初っからマックスに壁がない状態だったから、それはすごくおもしろかったです。映画はどうでした?おもしろかったですか?
マイソン:
はい、すごくおもしろかったですし、圧倒されました。リアルだなって思いました。
廣木隆一監督:
喧嘩するシーンがあるじゃないですか。その時にさとうさんは全部裏なんですよね。裏っていうのは、全部後ろ姿で、出て行く時にやっと顔が見えるっていうのが妙にすごくリアルで、裏を向いてても芝居をしてるので、それはすごくホンモノって気がします。
さとうほなみさん:
覗き見ちゃった感じですよね。ずっと同じところで長回しで撮ってるので、やばいところに居合わせちゃったみたいな。
廣木隆一監督:
覗きですわ。どんな奴だ(笑)。
さとうほなみさん:
覗き撮りですね(笑)。
マイソン:
確かにそんな雰囲気でしたね(笑)。さとうさんは、監督の演出で印象に残っていることはありますか?
さとうほなみさん:
監督はすごく役者のことを考えてくださって、撮影中は本当に一番大事にされてるなって思えたくらいなんです。別荘のシーンで私が七恵と同じ心境というか、すごく孤独になっていた時間があって、全然人と口がきけない状態というか、1人ですごくズ〜ンとしていた時に、誰も使っていない部屋に私を連れていって「ここにいな」っておっしゃってくださって。そこにずっと出番までいられたし、あの時は本当に良くない態度というか、回りの人にはすごく感じの悪い人になってたなって申し訳なかったんですけど、それも気づいてくださって、よく見てくれてるんだなって、すごく「好き」って思いました(笑)。
マイソン:
監督は、2人の主人公の心情を描く上で、さとうさんと水原さんからヒントを得たことはありましたか?
廣木隆一監督:
基本的には、撮る前に「僕はこう思うんだけど」と伝えるんですが、演じるのは2人だし2人の感情なので、僕の感情をそのままぶつけるっていうのではなく、2人の感情が出てくるまで待ちたいなと思っていました。それを引き出すためにずるい手はいっぱい使ってます(笑)。
さとうほなみさん:
あれはずるい手だったんですか(笑)。
廣木隆一監督:
めちゃずるい手(笑)。っていうのが僕の仕事かなって。
マイソン:
今のお話から普段も監督は人をすごく観察して、その人の状況を考えたりされるのかなって思いました。
廣木隆一監督:
全部の動作とか、目線とか全部からヒントをもらいます。「そうか、この人はこういう表情をするんだ」とか、「1人でいる時はこういう風なんだ」とか、すごく意地悪ですよ(笑)。それでヒントをいただいてます。でも本人は気付いていないと思うし、それに気付くのは僕の仕事かなって、それを撮るようにしたいですね。
マイソン:
さきほどさとうさんは監督の今までの作品もお好きだとおっしゃっていましたが、廣木監督や他の監督も含めて、この監督の作品に出たいと思う特徴ってありますか?
さとうほなみさん:
どんな感情にしても心を動かされるところ、それを私は“グッとくる”と呼んでるんですけど、グッとくるところがあると「なんでこういう風にしたんだろう」とか、それが自然と演じているのか、何を考えてそうしているのかとか知りたくなります。何か魅力的に思えるシーンとかあると、スゴいなって思います。
マイソン:
監督は、この俳優さんで映画を撮りたいと思える方の特徴はありますか?
廣木隆一監督:
スタッフとか他の方から見て、何かが僕と同じタイプだったりするみたいですけど、自分ではわからないですね。この役があってこの人でやったらどうなるかなって考え方はしますけどね。
マイソン:
では最後に一観客としてご自身の人生に影響を受けた映画を教えてください。
さとうほなみさん:
影響を受けたというか、将来こんな作品ができたらおもしろいなと思ったのが、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』です。ストーリー自体もおもしろいし、芝居もおもしろいし。そして、あの作品は劇伴が全部ドラムなんですよ。ドラムだけでやってるので、自分が出演していて、劇伴もドラムだけでできたら、すごくおもしろいなって。なるほどこういう表現の仕方もあるのかって思いました。だから将来できたらおもしろいかなって思う作品ですね。
マイソン:
監督はいかがでしょうか?
廣木隆一監督:
なんですかね、昔はよく『ラストタンゴ・イン・パリ』って言ってましたけど、今はちょっと違うかな。影響を受けた映画1本だけっていうとすごく難しいし、僕以外の映画には全部影響を受けてます。
マイソン:
なかなか1本選んでいただくのは難しいですよね!今日はありがとうございました。
2021年4月13日取材 PHOTO&TEXT by Myson
Netflix映画『彼女』
Netflixにて全世界独占配信中
R-18+相当
監督:廣木隆一
原作:中村珍「羣青」(小学館IKKIコミックス)
出演:水原希子 さとうほなみ
新納慎也 田中俊介 鳥丸せつこ 南 沙良 / 鈴木 杏 田中哲司 / 真木よう子
裕福な家庭で何不自由なく育ったレイ(水原希子)は、高校時代に思いを寄せていた七恵(さとうほなみ)からある日突然連絡を受け、10年ぶりに再会する。だが再会の喜びも束の間、レイは七恵が夫から壮絶なDVを受けていると知り…。
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