数々の漫画賞で話題を読んだ田島列島の同名コミックを上白石萌歌主演で映画化した『子供はわかってあげない』。今回は本作の沖田修一監督にリモートでお話を伺い、10代の主人公に共感した点や、コメディとシリアスのバランスの取り方について聞いてみました。インタビュー中、終始笑顔でお話される監督の姿がとても印象的でした。
<PROFILE>
沖田修一:監督、共同脚本
1977年、埼玉県生まれ。2001年、日本大学芸術学部映画学科卒業。数本の短編映画の自主制作を経て、2002年、短編『鍋と友達』が第7回水戸短編映像祭にてグランプリを受賞。2006年、初の長編映画『このすばらしきせかい』を発表。2009年に『南極料理人』の監督と脚本を務め、商業映画デビューを果たす。2012 年には、『キツツキと雨』が第24回東京国際映画祭にて審査員特別賞を受賞、第4回TAMA映画賞で最優秀新進監督賞を受賞、第8回ドバイ国際映画祭では日本映画初の3冠受賞を達成した。2013年『横道世之介』では、第56回ブルーリボン賞最優秀作品賞、主演男優賞(高良健吾)を受賞、その他にも国内外問わず、数々の映画賞を総なめにした。2014年『滝を見にいく』では、第27回東京国際映画祭にて日本映画スプラッシュ部門正式出品、ハワイ国際映画祭にてSpotlight on Japan部門正式出品するなど話題となった。近年の監督作に『モヒカン故郷に帰る』(2016)、『モリのいる場所』(2018)、『おらおらでひとりいぐも』(2020)などがある。また、“Hulu U35 クリエイターズ・チャレンジ(HU35)”では審査員を務める。
人のコミュニケーションをコメディにしたい
シャミ:
人気マンガを映画化するにあたり、配慮した点や原作のイメージで映画にも残したいと思った点はどんなところでしょうか?
沖田修一監督:
田島列島先生の世界観をどう映画に持ち込むかという点が挑戦だったので、そこを大事にしていました。原作にはいろいろな要素があったのですが、映画でそこまで多くのことは描けないと思い、今回は美波(上白石萌歌)の物語に集約したいと考えました。
シャミ:
原作でいろいろな要素がある中で今回のエピソードを選んだのは、何か映画にしやすい点などがあったからでしょうか?
沖田修一監督:
ただ原作と同じストーリーを追う2時間ではなく、もう少し美波とお父さん(豊川悦司)の距離感などに特化しているほうが映画として見せられるし、俳優さんも演じやすいのではないかと思ったんです。
シャミ:
美波と門司くん(細田佳央太)の役はオーディションで決まったそうですが、お2人を選んだ決め手はどんなところでしたか?
沖田修一監督:
オーディションといっても何人かの若い俳優さんと会ってお話を聞かせてもらうという形で、とにかく10代の子に演じてもらいたかったんです。10代の女の子が主人公の映画は、その俳優さんの代表作になることもあると感じていたので、いろいろな仕事の延長線上ではなく、この作品におもいっきり全力を注いでくれるような人が良いと思っていました。それもあって今回はオーディションを実施しました。上白石さんは日焼けも髪の毛を切ることも嫌がらずにやってくれて、宝物のように作品を大事にしてくれるところがあったので、そこがすごく良かったんです。門司くんは漫画でもキャラが強くて演じるのが難しそうだと思っていたのですが、細田くんなら漫画とはまた少し違う門司くんを愛すべきキャラクターとして演じてくれそうだと思って選びました。
シャミ:
なるほど~。今回に限らず監督がキャスティングの際にいつも見ている点や、こういう俳優に惹かれるという点はありますか?
沖田修一監督:
脚本を書きながらキャスティングを考えることはあまりないのですが、脚本を書いてから誰にやってもらうかという話になった時に、僕はその人が演じておもしろいかどうかを大事にしています。その俳優のお芝居をイメージして脚本を読んで、想像した時に笑えるかどうかを考えますが、結局思いも寄らなかった人のほうがおもしろいこともあるので、わからないなと思います(笑)。
シャミ:
今回も笑えるシーンがたくさんありましたが、シリアスとコメディのバランスはどのように取られているのでしょうか?
沖田修一監督:
普段生活しているのと同じくらいの割合を意識しています。大体ニコニコ笑いながら生活していますが、どうしてもそれじゃいけないこともありますしね。
シャミ:
確かにそうですよね。監督は日常生活でも、他の人の行動や何気ない会話などを気にして見たりされますか?
沖田修一監督:
そんなことはないですよ(笑)。人のコミュニケーションをコメディにしたいといつも思っていますが、結局たくさんのことはできないんですよね。誰かを好きになるというだけでも映画になりますし、それを大事にしながらいつもああでもないこうでもないとやっています。
シャミ:
今回の主人公は10代の女の子でしたが、監督が感情移入したり共感できたポイントはありますか?
沖田修一監督:
本当のところで10代の女の子の気持ちなんてわかりません。だけど、美波と門司くんの屋上のシーンとかは皆どこか見覚えのある風景だったりすると思うんです。ヘラヘラ笑ってバカ話をしていれば良かった若い頃が、だんだんとそうではなくなっていく感覚というのがある気がして、その時のことを思い出しながら美波を描きました。真面目過ぎて笑ってしまうところとかは、美波でなくてもあることだろうし、そういう部分に共感できるなと思いました。
シャミ:
美波と門司くんの恋愛の部分はいかがでしたか?
沖田修一監督:
原作だと門司くんはもう少し飄々としたキャラクターだったのですが、屋上にいて同じ趣味の女の子が走って来てあんなに話が弾んだら、絶対に好きになりますよね(笑)。そういう部分は原作よりも映画のほうが濃く描けた気がしていて、おもしろかった点でもありますし、僕自身門司くんに感情移入してしまいました。
シャミ:
今回は劇中にアニメーションも入っていて、資料には監督がこだわって作られたとあったのですが、作ってみていかがでしたか?
沖田修一監督:
僕は絵が下手で絵コンテを描いても、カメラマンの人に「どこから撮っていいのかわからない」と言われるくらい描けないんです。だけど、以前アニメーションの監督と話をした時に、「絵が描けなくてもアニメーションは作れるよ」と言われたのもあって興味がありました。今回の映画のためにあそこまでアニメーションを作る必要があったのかわかりませんが、映画化する上でも重要なアニメだと思ったので入れました。アニメーションの場合、机の上で人を動かしたり決めたりするので、それがすごく新鮮でしたし、本当に別世界でした。あとは声優さんが本当にすごい!プロの方達の仕事を見て素晴らしいと思いました。
シャミ:
普段俳優さんを見ているのとはまた違う感覚でしたか?
沖田修一監督:
職人さんみたいでしたね。おもしろかったです。
シャミ:
今後アニメーションの監督をやってみたいという興味はありますか?
沖田修一監督:
ないですよ(笑)!でも、全くないこともないです。今回のようなアニメーションは無理ですが、パペットやクレイはやってみたいと思います。
シャミ:
楽しみにしています!
沖田修一監督:
頑張ります!
シャミ:
本作では10代の美波が主人公で、現状に不満なわけではないけどどこかモヤモヤした感情を抱えている姿が印象的でした。そういった若者は現実にも多いと思うのですが、そんな若者に向けて監督から何かアドバイスがあればお願いします。
沖田修一監督:
本当に今の若い子はそうですよね。僕が10代の頃なんて何も思っていませんでした(笑)。やっぱり将来どうなるかわからないからこそ不安がいっぱいあるんでしょうね。例えば70歳くらいの人が僕を見たら「もっとやれよ」と言うと思いますが、それと同じような気持ちで僕も10代の子達に「まだ10代なんだから、やりなよ」という気持ちがあります。でも、本人は本人で暗闇の中にいるんですよね。偉そうなことは言えませんが、健康でたくさんのことにチャレンジして欲しいなと思います。あとは、大人になってもまだモヤモヤしているよって言いたいです。
シャミ:
ありがとうございます。今回のブルーレイ&DVDの特典も拝見したのですが、撮影現場の楽しそうな雰囲気が伝わってきました。今回の現場の雰囲気作りで大切にしていたことなどはありますか?
沖田修一監督:
楽しい映画にしたいと思っていたので、こちらがその雰囲気を作らなくてはというのはどこかにあったと思います。あとは、夏に劇場公開する映画だったので、夏休みのような気持ちで臨みたいと思っていました。
シャミ:
ブルーレイやDVDだと劇場で観るのとはまた違う楽しみ方ができると思うのですが、どんなところがメリットだと思いますか?
沖田修一監督:
今は本当に観る方法がいろいろとありますが、ブルーレイやDVDだと形として残りますし、観たい時にいつでも美波と門司くんに会えるのはすごく良いなと思います。繰り返し観たくなる映画だと思うので、一家に一枚じゃないですけど、そういう風に物として持ってくれると嬉しいです。
シャミ:
監督ご自身のこともお伺いしたいのですが、映画は子どもの頃から好きでしたか?
沖田修一監督:
子どもの頃は全然観ていませんでした。
シャミ:
いつ頃から映画の世界に興味を持たれたのでしょうか?
沖田修一監督:
中学生の時に皆でスキーに行ったのですが、吹雪でスキーができなくなってしまい、その時にカメラで遊ぼうとなったことがきっかけです。自分の家にビデオカメラがあったので撮ってみたものの、5分くらいにしかならなかったんです。それで2時間もある映画ってすごいなと思って、それからたくさん映画を観るようになりました。
シャミ:
最初から監督志望だったんですか?
沖田修一監督:
いや、映画の仕事がしたいなと思っていたくらいでした。脚本は書きたかったのですが、書いたら自分しか撮る人がいなかったので、書いて撮ってを繰り返していました。
シャミ:
なるほど~。では、監督をしていて1番楽しいorやり甲斐を感じるのはどんな時ですか?
沖田修一監督:
やっぱり撮影中ですかね。撮影中に起こるあれこれが好きです。あとは最初に作品を上映する時のお客さんの反応をドキドキしながら見ている時です。本気で撮った作品を人に見せるということはすごく緊張感があり、その緊張をまた味わいたいような味わいたくないような感覚になるんです。それはやり甲斐だなと思います。
シャミ:
今までもいろいろな作品を出されていますが、その都度ドキドキ感はあるものですか?
沖田修一監督:
ありますね。それは変わらないです。作品にも寄るかもしれませんが、人に観てもらうというのはやっぱり怖いなといつも思います。
シャミ:
では最後の質問で、これまでで1番影響を受けた作品、もしくは俳優や監督など人物がいらっしゃったら教えてください。
沖田修一監督:
高校生の時に森田芳光監督の『家族ゲーム』を観たのがすごく印象に残っていて、僕もこういう映画を作りたいと思ったのが始まりだったような気がします。だから『家族ゲーム』という映画は僕にとって特別だなと思います。
シャミ:
わかりました!本日はありがとうございました。
2022年2月4日取材 TEXT by Shamy
『子供はわかってあげない』
2022年3月2日ブルーレイ&DVD発売、同時レンタル開始
原作:田島列島「子供はわかってあげない」(講談社モーニングKC刊)
監督:沖田修一
脚本:ふじきみつ彦、沖田修一
音楽:牛尾憲輔
出演:上白石萌歌、細田佳央太、千葉雄大、古舘寛治、斉藤由貴、豊川悦司ほか
発売元:アミューズソフト
販売元:ポニーキャニオン
高校2年生の夏、好きなアニメの話で意気投合した水泳部の美波と書道部の門司くんは、あるお札をきっかけに美波が幼い頃に行方がわからなくなっていた父親の居所を捜し出すことを決意する。門司くんの兄の協力もあり、あっさりと父親が見つかり、美波は会いに行くが…。
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