今回は日本を代表する演技派俳優、寺島しのぶさんにインタビューをさせていただきました。今回出演されている『空白』でも印象に残るキャラクターを演じている寺島さんに、普段役作りのためにやっていること、普段映画を観る時に目がいくところなどをお聞きしました。
<PROFILE>
寺島しのぶ(てらじま しのぶ):草加部麻子 役
1972年12月28日生まれ、京都市出身。1989年、高校在学中にテレビドラマ『詩城の旅びと』で俳優デビューを飾る。1992年、大学在学中に文学座に入団し、1996年の退団以降は舞台、映画、ドラマなどさまざまなフィールドで活躍している。2003年には、『赤目四十八瀧心中未遂』と『ヴァイブレータ』で第27回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞をはじめ、国内外で数多く受賞。2010年『キャタピラー』では、日本人として35年ぶりにベルリン国際映画祭で銀熊賞(最優秀女優賞)受賞という快挙を成した。2018年、『OH LUCY!』ではインディペンデント・スピリット賞主演女優賞にノミネートされた。その他主な映画出演作に、『やわらかい生活』『愛の流刑地』『すーちゃん まいちゃん さわ子さん』『千年の愉楽』『ぼくのおじさん』『幼な子われらに生まれ』『STAR SAND —星砂物語—』『止められるか、俺たちを』『ヤクザと家族 The Family』『Arc アーク』『キネマの神様』などがある。
私達はエンタテインメントをやり続けなければいけない
マイソン:
本作で演じられたキャラクターは、一見わかりやすい人間に見えて、内面はすごく複雑なものを抱えている人に思えました。寺島さんが初めて脚本を読んだ時の印象から、演じ終わった後で何か変化はありましたか?
寺島しのぶさん:
あまりなかったです。監督がぶれていないから一貫して撮れた気がします。やっぱりイタいなこの人、一生懸命なんだけど、こういう人いるよねっていう感じですよね。
マイソン:
ほんとにこういう人いるなと思いながら観てました。そんなキャラクターながら共感できたところはありますか?
寺島しのぶさん:
やっぱり人のために頑張ろうと思うのは良いと思うんですよ。スーパーが潰れないように一生懸命頑張って、ちょっと淡い恋心を抱いている彼に対しても「大丈夫だよ。絶対に辞めちゃダメだよ」って励ます。そうやって励ましているのが彼女の生き甲斐になっている。でも励ましがウザいから、自分の熱はヒートアップするのに相手は冷めていってしまう。人間の上手くいかないバランス関係、そういうものが𠮷田監督が描きたかったものなのかなとも思ったりします。ちょっとしたバランスによってガラガラっと崩れていってしまうというところをすごく巧みに描かれているなという気はします。
マイソン:
そうですよね。今作だけでなく、どの作品で演じられている役もいつもリアルだなと思うのですが、普段人間ウォッチングをされたり、ヒントにされていることはありますか?
寺島しのぶさん:
人間ウォッチはすごく好きです。友達もいろいろなタイプがいるのでみんなを見て学んだりしていますね。最近ではコロナワクチンの接種会場が結構勉強になりました。待っていて怒っている人もいれば、すごく謙虚な人、すごく心配そうな人、何となく笑っている人もいたり、ちょっと勉強になりました。
マイソン:
やっぱり非常事態というか、ちょっと恐怖心もありますもんね。今回の役柄はごく普通の一般人という設定でしたが、今までいろいろな役を演じられてこられて、すごく日常に近いものとそうじゃないものって、どちらが難しいというのはありますか?
寺島しのぶさん:
それぞれおもしろいですよね。今回の『空白』ではそこにいるようなおばちゃんっていう感じでやりたかったんです。だから、お客さんから「この人嫌だけど、いそうだな」っていう風に観ていただければ良いなと思いながら演じました。
マイソン:
実際に完成した作品をご覧になってどんな感想でしたか?
寺島しのぶさん:
私は自分が出演した作品をあまり観ていないんです。自分で観たらろくなことを考えないし、まだ撮影して間もないから「何でこんなことしちゃったんだろう」っていうあら探しばかりしてしまって、作品を楽しめないんですよ。だけど、観た人から意見を聞くのは大好きです。自分の身近な信頼できる人達に観てもらって、ちゃんとジャッジしてもらうのをいつも楽しみにしています。この作品は「とにかく救いようのない人で、イタかったね」という意見が多かったです。
マイソン:
その感想はご自身にとしては嬉しかったですか?
寺島しのぶさん:
すごく嬉しいですね。全うできた感じがします。
マイソン:
この映画の内容とは違いますが、今はコロナ禍ということもあり、理不尽な状況に追い込まれている方が多くいらっしゃると思います。この時期に本作が公開されることによって、観客の方に受け取って欲しいメッセージはありますか?
寺島しのぶさん:
カラッカラに笑える作品でもないし、来て良かったのかなと思っちゃう人もいるだろうし、またどんよりした気分にさせちゃうかもしれないけど、ぜひ観て欲しいです。私達はエンタテインメントをやり続けなければいけないと思いました。コロナ禍にあって、今は映画館に行けないということなら仕方がないと思いますが、観ていただけたら嬉しいです。暗い時に明るいものを観たら良いかっていうとそうでもないような気もするんですよね。この映画の中の人達も皆頑張っていて、どん底から頑張って這い上がっていく人達だから、そこの部分は少し共感していただけるのかなと思います。
マイソン:
ラストはちょっと救われて、希望が持てました。今作にはいろいろな役者さんが出演されていましたが、主演の古田新太さんはどんな印象でしたか?
寺島しのぶさん:
古田さんは古田さんですから、そのままです(笑)。出てきただけであの役になっちゃってるんですよね。古田さんは舞台ではものすごく知られている素晴らしい役者さんですけど、主演の映画でまた何か賞を受賞して欲しいなと思いますね。
マイソン:
古田さんはホンモノかなと思うくらい迫力がありました(笑)。では、𠮷田恵輔監督の演出で印象に残ったことは何かありますか?
寺島しのぶさん:
𠮷田さんはイタいことをさせて、カメラの前で「いいですね、いいですね〜!」みたいな感じで笑っていて(笑)。
マイソン:
ハハハハ!そこは監督としても草加部麻子(寺島しのぶさんの役)のイタさを楽しまれていたんですね。
寺島しのぶさん:
そうなんです。監督がものすごくあっさりしているし、あんまりねちっこい演出はしないので、嫌な気分にならずに撮影できたと思うんですよね。草加部麻子は、私がそんなに好きではないキャラクターだから、もしも何回も何回もやっていたらきっと嫌になってしまったと思うんです。だけど、吉田監督って鮮度が良いままあっという間に撮ってしまうので、気持ち良く演じることができました。
マイソン:
そういうところにも監督のぶれのなさが出てたんですね。では、これは皆さんに聞いているんですが、これまでいち観客として大きな影響を受けた映画、もしくは俳優、監督がいらっしゃったら教えてください。
寺島しのぶさん:
伊丹十三監督の『お葬式』を観た時はビックリしました。いつぐらいに観たのかな、エッチなこともちょっとわかっていて、何かちょっと不思議な日本映画をいろいろ観た中で、『お葬式』は鮮烈でしたね。『お葬式』ってタイトルなのに、ずっと笑っているという、この作り方って何なんだろうって思いました。未だに忘れられないです。
マイソン:
普段映画を観る時にどうしても目が行くところってありますか?
寺島しのぶさん:
ロケーションのリアリティですかね。例えば大阪の設定なのに「ここ大阪じゃないでしょ」ってわかってしまう時があるじゃないですか。ロケーションがチープだと、観ていても演技をしていても残念な気持ちになります。初めて現場に行った時に「ここで芝居をするんだよね」ってスッと入っていける時と、何日間かしてやっと慣れる現場があるんです。初めてロケ場なりスタジオなりに行った時「ここが私の家!」と思えた時は、本当に良い作品ができたりします。
マイソン:
ロケーションは重要ですね。
寺島しのぶさん:
非常に重要です。
マイソン:
日本の映画だと特にその土地を知っていると気づいてしまいますよね。
寺島しのぶさん:
そうなんですよ。今コロナ禍でいろいろな場所でロケーションができなくなっちゃっているから、余計大変だなと思うけど、優れたセットを作る方が日本にもいっぱいいらっしゃるから、なるべく役者をその気にさせて迎えてくれるロケーションでやりたいなと思います。
マイソン:
では最後の質問で、今コロナ禍で映画業界やエンタメ業界がいろいろ大変だと思うんですが、明けた時に楽しみにしていることはありますか?
寺島しのぶさん:
いつでも観られるよねっていうところじゃなくて、自分の時間を割いて足を運んで観るので、そこの特別感は素敵だなって思います。日本の鑑賞料金は海外とかに比べたら高いし、もうちょっと映画館の楽しみ方が増えたら良いですよね。
マイソン:
気軽に映画館で観られるようになると良いですよね。本日はありがとうございました!
2021年9月8日取材 PHOTO&TEXT by Myson
『空白』
2021年9月23日より全国公開
PG-12
監督・脚本:𠮷田恵輔
出演:古田新太/松坂桃李/田畑智子/藤原季節/趣里/伊東蒼/片岡礼子/ 寺島しのぶ
配給:スターサンズ、KADOKAWA
漁師をしている添田充は妻と別れ、中学生の娘と2人で暮らしていた。そんなある日、娘がスーパーで店長に万引きを疑われ、追われている時に交通事故に遭い亡くなってしまう。娘が万引きしたなんて信じられない添田は、スーパーの店長に激しく詰め寄り…。
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©2021『空白』製作委員会
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