初期の宣伝では、古田新太が演じる主人公の狂気が前面に出されていたこともあり、観る前のイメージとは違う印象を受けました。映画では、主人公の態度の背景にあるものが描かれているので、彼がなぜそんな行動を取るのか納得がいくところは多いです。そして、本作には完全な悪役は出てきませんが、状況が複雑なだけに、それぞれのキャラクターの思いが交錯し、お互いにとても理不尽な状況になっているというところで胸が締め付けられます。状況は違えど、こういったことは私達の周りでも起きてそうなことで、他人事としては観られません。
キャラクターそれぞれに、相手が許せないと思うこと、許して欲しいと思うことがあって、1人ずつの立場に立てば理解できるだけにやるせなさが半端ありません。だからといって、相手の立場に立ってもその思いに納得できるので、さらにやるせないんですよね。これは人間社会の真理を突く内容とも言えて、私達人間はこういう世界に生きているんだなと改めて実感させられます。
また、古田新太、松坂桃李、寺島しのぶ、藤原季節など、俳優達の演技力と、𠮷田恵輔監督の演出力によって、とてもリアルなシーンとなっており、良い意味で観る側もどん底まで突き落とされます。でも、ラストには救いがあり、この世の中に少し希望を持たせてくれます。複雑な感情を掻き立てるストーリーですが、人間を知るきっかけをくれる作品です。
観ていてとても辛いのと、序盤で結構衝撃的なシーンも出てくるので、ウキウキした気持ちを保ちたいデートの日には向きません。でも、人のいろいろな面を見ることができ、辛い局面に立たされた時にどう振る舞うのかを考えさせられるので、感想を言い合うことで相手の性格や価値観を知るきっかけにできそうです。この手の作品を好きかどうかというだけでも相性が占えそうなので、さらに一歩踏み込んで相手を知りたいと思っている方は誘ってみてはどうでしょうか。
この物語では、中学生の少女のある行動がきっかけで、不幸の連鎖が起きてしまいます。少女が犯した行為そのものにも問題がありますが、それが思わぬ事態を招いてしまうことになり、それに関わった人達が理不尽な状況に追い込まれます。観ていてとても辛い内容ではありますが、いろいろ考えさせられる部分が多いので、ぜひ皆さんにも観て欲しいと思います。PG-12なので、小学生は保護者と観てください。親子のストーリーでもあるので、これを機に普段話せていないことなどを勇気を出して打ち明けるのも良いでしょう。
『空白』
2021年9月23日より全国公開
PG-12
スターサンズ、KADOKAWA
公式サイト
©2021『空白』製作委員会
TEXT by Myson