孤独を抱えている男女3人が偶然出会い、それぞれ関わるなかで喪失感を手放していく物語『ロストサマー』。今回は主人公のフユを演じた林裕太さんにインタビューさせていただきました。役を演じる上で大切にしていることや、俳優のお仕事を始める前と後とでイメージが変わった点について直撃しました。
<PROFILE>
林裕太(はやし ゆうた):フユ 役
2000年11月2日生まれ。東京都出身。2020年に俳優活動をスタート。2021年、『草の響き』で映画初出演し、注目を集める。2022年、『間借り屋の恋』で映画単独初主演を飾った。2023年2月に公開された、中川大志が監督を務めたアクターズ・ショート・フィルム3『いつまで』ではメインキャストを演じた。その他の主な出演作に、映画『少女は卒業しない』『緑のざわめき』『東京リベンジャーズ 2 血のハロウィン編-決戦-』『逃げ切れた夢』、ドラマ『王様に捧ぐ薬指』、ショートドラマ『バタフライナイフ』などがある。
生活のすべてが仕事と繋がり、役者としての糧になることを感じます
シャミ:
最初に脚本を読んだ時、どんな印象を受けましたか?
林裕太さん:
心に穴の開いているフユと秋(小林勝也)がそれを埋め合うように、一緒に遊んで語り合う物語がすごく好きだと思いました。物語の結末もすごく良かったので、僕がフユ役を演じてその終わりを迎えたいと感じました。しかも、主演なんてなかなかできるものではないので、すごく嬉しかったです。
シャミ:
セリフでたくさん語るというより情景やキャラクターの雰囲気が重要な作品だと感じました。そういった部分で大変だったことや難しかったことはありますか?
林裕太さん:
この作品にかかわらず、僕は元々セリフが1割、体が9割ということを大切にしています。なので、大変というよりも、むしろすごく楽しかったです。今回はセリフが少なく、体や動きで身体的に表現する場面が多かったので、そこを大切にしながら表現したいと考えていました。麻美監督の演出もそうですが、結構自由にやらせていただき、そこから秋や春(中澤梓佐)とのシーンも楽しむことができました。
シャミ:
走ったり、喧嘩をするシーンなど、確かに動きのあるシーンが多かったですよね。
林裕太さん:
はい。フユ自身は辛いものを抱えていますが、アクティブにお芝居ができたので、すごく良かったです。
シャミ:
本作では土佐弁を話していましたが、どんな練習をされたのでしょうか?
林裕太さん:
中澤さんが高知県出身の方で、フユのセリフを全部録音して送ってくださり、それを聴きながら復唱して練習しました。あとは、動画で高知のニュースを観たり、実際に現地で店員の方とお話して、少しずつ理解していきました。練習期間があまりなかったので、自分自身に浸透させることが難しかったのですが、そういった形で方言を勉強しました。実際に現場でも方言の指導があり、それが1番大変でした。
シャミ:
作品の中だととても自然にお話されていて、すごいなと思いました。
林裕太さん:
良かったです!
シャミ:
フユ、秋、春の3人は年齢が違うものの、孤独や寂しさを抱えている点では共通していました。林さんご自身はこの3人の関係をどのように捉えていましたか?
林裕太さん:
フユにとって1番大きいのは秋の存在だと思います。秋といる時は癒しの時間であり、子どもでいられる時間なんです。親と重ねている部分もあり、自分が何をしても受け止めてくれるだろうという安心感があるんです。秋がフユのことをどう見ていたのかわかりませんが、お互いにとって居心地の良い関係だったのかなと思います。
春との関係は、かなり複雑だと感じました。監督からは、「春のことは心に穴が空いた寂しい女性だと思って欲しい」と演出があったので、その通りに演じました。でも、フユはとても勝手で、春が求めてくるようになったらそれを毛嫌いするようになります。それでも春はとにかくフユを待ち続けるので、フユは春に苛立ちを覚えるんだと思います。でも、ある程度の他人だからこそフユは最後に自分の思っていることを春に言えたのかもしれません。
シャミ:
何となく生きているフユが、秋と出会い、友情のような関係を築いていく様子は特に魅力的に感じました。林さんご自身は秋くらい年が離れている友人を作ってみたいと思いますか?
林裕太さん:
友達になってみたいと思いますが、実際には何を話せば良いのかわからなくなりそうです。フユの場合は、自分勝手に秋を連れ回して、自分の話をしていたので、秋もおもしろがって友達になるんだと思います。でも僕の場合は、「今、こんなに勝手なことをしているけど大丈夫かな?」と心配になってしまうので、なかなか難しいかなと(苦笑)。
シャミ:
相手からグッと距離を詰めてもらえたら、友達になれそうですか?
林裕太さん:
そうですね。もし友達になれたら一緒に釣りをやってみたいです!
シャミ:
楽しそうですね!フユのように孤独を感じながら生きている若者は実際にもいそうだと感じました。もし林さんの傍に彼のような方がいたら、何と声をかけますか?
林裕太さん:
僕も辛いことをなかなか人に言えないので、そういった部分はフユと似ていると思います。でも、声をかけるとなると、なかなか難しい気がします。そういう方にとっては秋のように受け入れる態度をずっと示していくことが、安らぎになるし、心を開くきっかけになるのかなと思います。
シャミ:
あまり声をかけすぎると、逆に離れてしまいそうな気もしますよね。
林裕太さん:
そうですね。敢えて軽い言葉をかけて、「一緒に楽しもう!遊ぼう!」みたいなノリのほうが良いのかもしれません。あまり核心を突いていることを言ってしまうと、嫌がられそうな気がします。
シャミ:
今フユと似ているというお話もありましたが、1番共感できたところはどんな部分でしょうか?
林裕太さん:
僕自身、悩んでいることや辛いこと、寂しいなと思った時に、それを直接相手に伝えられないんです。態度に出ることはあるかもしれませんが、直接助けて欲しいとは言えないので、そこがフユと似ていると思います。でも、この作品を通してその考えは少し変わりました。
シャミ:
なるほど〜。何か悩んだり辛いことがあった時は、自分自身とどのように向き合っていますか?
林裕太さん:
友達と遊んだりして、とにかく1回忘れます。何かに悩んでいる時は、自分で何となく答えがわかっているじゃないですか。これが1番良いとわかっているけど、そこに向き合うのが辛いから逃げてしまう。そういう時は、1回そのことを忘れます。あと、僕はランニングが好きなので、その悩みよりも辛くなるくらい走ります。そうすると、これだけ辛いことはないから大丈夫だという気持ちになれるんです。それが1つの解消方法だと思います。
シャミ:
すごい解消方法ですね!ここからは林さんご自身のお話も聞かせてください。2020年に俳優としての活動をスタートされていますが、最初に俳優の仕事に興味を持ったのはいつ頃でしょうか?
林裕太さん:
小学6年生の時の学芸会がきっかけでした。独唱のシーンもある少し良い役をもらって演じたら、すごく気持ち良かったんです。周りからも褒められて、その経験から役を演じることはキラキラしていて良いなと思い、俳優をやってみたいと漠然と感じました。でも、それからしばらくは特に行動に移すことはなく、将来何になろうかずっと悩んでいました。高校3年生の時に、演劇学専攻という学科に進めることがわかり、そこに進んで役者をやるしかないと思いました。そして、いざその学科に進んでから、同級生に今の事務所に所属している俳優がいて、その子に役者をやりたいんだと相談をして、養成所を紹介してもらったのが今に至るきっかけです。
シャミ:
実際に俳優になる前と今とで俳優に対するイメージで変わった点はありますか?
林裕太さん:
全く違います。当時は何を甘いことを考えていたんだろうと思います(笑)。本当に難しいですし、ただその場に立って良い感じのことをすれば良いわけではないんです。私生活から役のことや自分の見られ方というものを考えなくてはいけませんし、自分の動きや一つひとつ起きたことに対して湧き出た感情についても見つめ直していかなくてはいけません。そうやって生活のすべてが仕事と繋がり、役者としての糧になることを感じます。昔はキラキラした世界のように感じていましたが、実はすごく泥臭い仕事だと思います。
シャミ:
本当にすごいお仕事ですよね。では、今後挑戦してみたい役や作品はありますか?
林裕太さん:
アクション作品など、身体をフルに使った作品に出られたら楽しそうだなと思います。やっぱり走ることが好きなので、とにかく走りまくる役とか。例えば駅伝の選手や、何かから逃げる役も良いなと思います。
シャミ:
アクション作品良いですね!今後も楽しみにしています。
林裕太さん:
できるように今から鍛えて頑張ります!
シャミ:
では最後の質問です。これまでで1番影響を受けた作品、もしくは俳優や監督など人物がいらっしゃったら教えてください。
林裕太さん:
最初に出演させていただいた『草の響き』という作品の斎藤久志監督です。斎藤監督からは今僕が大切にしているお芝居のことを一からみっちり厳しく教えていただきました。当時は芝居をするなと言われて、どうしたら良いのかわからなくなったこともありました。何度も違うと言われ、追い込まれていたのですが、自分の中で「今すごく良いやり取りができたかも」と感じた時に、監督からもOKが出て、こういうことなのかなと感覚が掴めたのが『草の響き』でした。
そして、監督だけでなく、東出昌大さん、奈緒さん、大東駿介さんもすごく親身になってくださり、どうしたら役者がお芝居に対して前向きになれるのかということを考えて寄り添ってくださいました。自分の役のことを考えるだけでも大変なはずなのに、他のキャストや映画全体のことも考えて行動をできる方ばかりで、すごく尊敬できました。僕も同じように、作品やキャスト全体のことを考えられる人になれば、役者としても人としてももっと成長できるのかなと感じました。そういった意味で、『草の響き』が1番影響を受けた作品です。
シャミ:
本日はありがとうございました!
2023年9月6日取材 PHOTO&TEXT by Shamy
『ロストサマー』
2023年10月13日より新宿武蔵野館ほかにて公開
監督・脚本:麻美
出演:林裕太/小林勝也/中澤梓佐/関口アナン/廣田朋菜/椿弓里奈/土屋壮/橋野純平/松浦祐也
配給:889FILM
舞台は四国、高知県。青年のフユは、他人の家を転々としながら何となく生きていた。ある日、フユが街を彷徨っていると偶然老人の秋と出会う。秋は妻を亡くした今も妻がコーディネートした服を着て、毎朝通院していた。さらにフユは、夫から相手にされず寂しい想いをしていた春と出会う。そんな出会いから、3人は少しずつ希望を抱き、自分自身の人生を取り戻していく…。
© 映画『ロストサマー』