3人の若者がアイデンティティと自分の心の居場所を模索する10年間を描いたドラマ『モアザンワーズ/More Than Words』。本作で主演を務めた藤野涼子さん、青木柚さん、中川大輔さんにお話をうかがいました。皆さんとお話していると役とすごくリンクして、ドラマからそのまま仲の良い3人が抜け出してきたようでした。
<PROFILE>
藤野涼子(ふじの りょうこ)写真中央:美枝子 役
2000年2月2日生まれ。神奈川県出身。2016年、映画『ソロモンの偽証』(2015年)に主演し、役名の“藤野涼子”を芸名にして俳優デビューを果たす。同作で日本アカデミー賞新人俳優賞など数々の映画賞を受賞。その後もNHK『ひよっこ』(2017年)など、映画・ドラマに多数出演。近年ではギャラクシー賞受賞ドラマ『腐女子、うっかりゲイに告る』(2019)でコンフィデンスアワード・ドラマ賞助演女優賞を受賞。2021年NHK大河ドラマ『青天を衝け』では、主人公の渋沢栄一の妹、てい役を好演した。
青木柚(あおき ゆず)写真右:槙雄 役
2001年2月4日生まれ。神奈川県出身。2016年『14の夜』でスクリーンデビュー。その後『アイスと雨音』『暁闇』『サクリファイス』などに出演。2021年、W主演を飾った『うみべの女の子』や、ジョニー・デップや真田広之らと共演したハリウッド映画『MINAMATA』で注目を集める。NHK連続テレビ小説『カムカムエブリバディ』でヒロインの弟、大月桃太郎役を好演。今後は、『はだかのゆめ』『まなみ100%』『神回』など複数の主演作が公開される。
中川大輔(なかがわ だいすけ)写真左:永慈 役
1998年1月5日生まれ。東京都出身。MEN’S NON-NOの専属モデルとして活躍しながら、俳優として『仮面ライダーゼロワン』(2019)、『ボイスⅡ 110 緊急指令室』(2021)、『花嫁未満エスケープ』(2022)などに出演。主な映画出演作に『ウェディング・ハイ』『味噌カレー牛乳ラーメンってめぇ〜の?』『極主夫道 ザ・シネマ』などがある。
京都を満喫しながら築いた3人の関係性
マイソン:
私は原作を知らずに観たので、途中からの展開にかなり驚いて、ものすごい勢いで全話観ました。すごくおもしろかったです!
藤野涼子さん、青木柚さん、中川大輔さん:
ありがとうございます!
マイソン:
心の動きがすごく丁寧に描かれているなと感じました。エンドロールで流れていた自然なシーンもとても印象的で、あれはアドリブで喋っていたのでしょうか?
藤野涼子さん、青木柚さん、中川大輔さん:
アドリブです。丸投げでした。
一同:
ハハハハハ!
マイソン:
すごい!!
青木柚さん:
僕達は結構方言に苦しんでいて、セリフの方言だけでも必死だったんですけど、各話の最後に2分間くらいエチュードがあると聞いて、3人で「どうする?どうする?」ってあたふたしました。だから、実は(1話目のエンドロールでは)「ええやん」「うまい」「やばい」とか同じワードを連発しているんですよ(笑)。本当に自信のある方言をセリフの中からなるべく引っ張り出してました。あれは本当に橋爪監督の空気感が表れているシーンなので僕もすごく好きです。
中川大輔さん:
1話目のエンドロールはよく観てもらうと槙雄(青木さん)が1回どこかに逃げているんですよ。
青木柚さん:
逃げてないよ(笑)。
中川大輔さん:
逃げたよ(笑)。
青木柚さん:
お芝居です(笑)。
マイソン:
ハハハハ。私は地元が京都寄りの大阪で、大学が京都だったので、地元感覚で観ていたのですが、言葉がすごく自然だなと思いました。
藤野涼子さん、青木柚さん、中川大輔さん:
わ〜、嬉しい!!
青木柚さん:
方言指導の方が付きっきりですごく丁寧に教えてくださったので、それが本当にありがたかったです。
中川大輔さん:
「私は最後まで妥協しませんので」とおっしゃって、本当にしっかり最後まで妥協はなしでした。
青木柚さん:
「それは違う、あかん」って(笑)。
藤野涼子さん:
そのおかげだよね。
マイソン:
即興で方言を話すのは難しそうなのに、すごいです。あと、このドラマを観ていて、どのキャラクターの言い分もわかるなと思いました。いち視聴者としてこのドラマを観た場合、皆さんはご本人の役も含めて誰に1番感情移入すると思いますか?
青木柚さん:
僕は槙雄ですね。背負いきれないものが出てきてしまうというか、自分があそこに立つということを考えても、なかなか想像がつかないですが。いろいろな人の気持ちを考えた上で自分の気持ちに蓋をしてしまうところは、たぶん自分もそうなってしまうのかなと。蓋をしたほうが終わるじゃんという弱さも僕は槙雄に共感できました。
藤野涼子さん:
やっぱり演じた美枝子に思い入れがあります。私も好きな人に対して「そこまでできるのか」という疑問は自分にもあります。家族であっても恋人であっても、この人と生涯生きていく覚悟がないと、美枝子のような決断はしないと思うので、そこに関しては3人のお互いへの愛情みたいものが強いんだなと思いました。
中川大輔さん:
僕もやっぱり永慈ですね。「自分は周りの人に恵まれているから、これ以上を望んだら何か壊れちゃいそうで」というセリフがあったのですが、全く同じことを思っていて、すごく役と近づいた気がしました。でも、槙雄の気持ちもわかるというか、永慈と恋をしたことによって人生が変わったと思うんですけど、そこはフラットな状態で観たら1番感情移入しやすいのかなと思いました。
マイソン:
それぞれに感情移入できるところがあるということですね。ありがとうございます。
記者A:
撮影中に印象に残っているエピソードは何かありますか?
中川大輔さん:
撮影場所が京都だったのですが、撮影に入る前に3人で一緒に過ごす機会がありました。あれは贅沢な時間でしたね。
青木柚さん:
橋爪監督が観光地とかじゃなくて生活圏内で自由にして欲しいとおっしゃってくださって、フリータイムをもらったり、地元の学生さんに案内してもらったり、3人だけで過ごしたり、本当に細かいことだけどちゃんと関係性を繋ぐ機会を持てました。なかなか事前にこういう時間を持てる機会がないのでめちゃくちゃありがたかったです。
藤野涼子さん:
すごく貴重な時間だったよね。
青木柚さん、中川大輔さん:
うんうん!
マイソン:
京都の美味しいものなど、印象に残っているものはありますか?
青木柚さん:
とうもろこしの天ぷら!
藤野涼子さん:
それ、私が食べてないやつ(笑)。
青木柚さん:
ごめーん!!
中川大輔さん:
(藤野さんは)中盤から大変なシーンばかりだったので、誘っても来られなくて。
藤野涼子さん:
本当だよ〜。“出町ふたば”の豆大福とかは?
青木柚さん:
あれはめっちゃ美味しかった!!
藤野涼子さん:
リピートしたよね。チーズケーキも美味しかった!(中川大輔さんに)ありがとう。
中川大輔さん:
皆に買って分けようと思ったやつね。
青木柚さん:
あった!僕が食べられなかったやつ(笑)。
マイソン:
満喫されたんですね!
藤野涼子さん、青木柚さん、中川大輔さん:
たくさん満喫しました。
俳優として大事にしていること、3人の共通点は…
マイソン:
今回共演されてお互いに刺激を受けたところはありますか?
青木柚さん:
本当に2人の集中力の高さがすごすぎるなって。それを現場でめちゃくちゃ感じました。2人が集中しているから、それで僕も集中しようってなれました。役との近さというか、普段の誠実さみたいなものがすごくこの作品にも合っていたし、自分では真似できない集中力で、すごく真摯な姿勢だなと思いました。
藤野涼子さん:
私は集中力はあるほうなのですが、集中しすぎて周りが見えなくなるので、逆に集中していても器用にやられている柚くんがすごいなと思いました。大輔くんもこの役柄と同じで、周りへの気配りがすごくて。私が水を飲もうとしたら、「僕も飲むから、はい」って開けて渡してくれたり、余裕でやってくれるんですよ。それがすごいなと思いました。
マイソン:
皆さん、普段も役の雰囲気に近いんですね。
藤野涼子さん:
そうですね。もちろんちゃんと役を考えて作ってきた部分もたくさんあるけど、本読みの時から柚くんは槙雄だし、大輔くんは永慈だなって。逆にプライベートで真っさらな状態で会ったらどうなるのか気になります。1、2年後くらいに会った時にどういうテンションでいくんだろうって(笑)。
中川大輔さん:
柚くんと兼近さんのクランクアップの日に僕らが驚かせに行ったんだよね(笑)。
青木柚さん:
2人は既にアップしていたのに、わざわざ来てくれたんだよね。
中川大輔さん:
その時は美枝子色が薄まっているなって思った。意外とこんなに明るく喋ってくれるのかって(笑)。
藤野涼子さん:
クランクアップの後、他の役をやっていたのもあったかもしれない。(笑)
中川大輔さん:
この現場でこの役でしか会っていないから、本当の素を見たいなというのはすごく今共感しましたね。
マイソン;
藤野さんは現場ではやっぱり役に集中して美枝子のキャラに近い感じだったんですね。
藤野涼子さん:
それしか考えられなくなっちゃうんですよね。不器用だから。
中川大輔さん:
その熱量で最終話まで突っ走ってくれたので僕らも頑張らなきゃって。
青木柚さん:
今日は美枝子が大変なシーンだなという日に僕らは先に終わって、でも「明日も美枝子ヤバくない?」って。でも、その間僕らはとうもろこしの天ぷらを食べているという(笑)。
藤野涼子さん:
そうなんですよ(笑)。
中川大輔さん:
でも、頑張らなきゃなって。
青木柚さん:
ね!刺激というか、藤野さんはやっぱり真ん中に立つ方としての姿勢があったので、我々もそれに続かなきゃというのがありました。
マイソン:
では、この流れでお聞きしたいのですが、俳優として大事にしていることはありますか?
中川大輔さん:
この作品でいうと、登場人物全員が人のために動くことで物語が進んでいくので、人のためにお芝居をしようと思って、台本を一通り読んだ時に台本の裏に大きく書きました。「人のために」って。
マイソン:
すごい!!青木さんはいかがですか?
青木柚さん:
僕は一緒にやるということを1番大事にしています。それは今までの先輩方がしてくださったことで、技術どうこうじゃなくて、一緒にやるということから1番生きているシーンができるなって。この作品でも、3人が一緒にふざけたりっていう余白みたいなものがあったので、そういうところは意識しています。
マイソン:
その瞬間に聞いたセリフでは、キャラクター達にとって最良の選択のように思えたけど、その後の相手の反応を観ると「そうか、たしかにそうなるよね」って違う視点に気付かされたり、やっぱり人と人との掛け合いで物語は展開していくんだなとこの作品を観てすごく感じました。だから今のお話を聞くと、お芝居って1人ではできないんだなと改めて思いますね。
青木柚さん:
そうなんですよね。1人でも成立するかもしれませんが、やっぱり人と一緒にやっているほうが心が動くので。この作品のシーンでも。
マイソン:
藤野さんはどうですか?
藤野涼子さん:
皆と同じことになりますが、私も言葉のない対話というか、例えば自分のほうにカメラが向いていない時でさえも、自分が目線に写るから「ここにいますよ」「カメラの後ろでもちゃんといますよ」という気配りや姿勢は俳優にとっても相手にとってもすごく大事だと思っています。でも、セリフ量が多かったり、自分が大変なシーンの時は、自分のために芝居をしちゃう時もあるんです。それでもやっぱり忘れずにふとした時に「ダメだった」と思って、ちゃんと相手に対応していくというのがお芝居をする上で1番大切だなと思います。
マイソン:
ありがとうございます。では、お一人ずつに質問です。中川さんは芸術系の大学を出られたり、このドラマの中でも染め物をされていました。何か作品に関わる時にクリエイティブなところに興味を持つことはありますか?俳優さんはもちろんなのですが、今後映像の世界でこういう部門をやりたいとかってありますか?
中川大輔さん:
やっぱり他の部署の方々のことは気になりますね。こういう画角なんだ、こういう照明なんだって。現場にいるとクリエイティブな部分にすごく興味があります。演出もすごくクリエイティブな仕事だけれど、どちらかというと原作とか脚本のほうに興味があるかもしれないです。役者が書く台本ってすごく役が生きていそうだなと思うので、そういうものに1番興味があるかもしれません。
マイソン:
物語を作るみたいなところですね。
中川大輔さん:
人を書くというか。役者が書くなら。
青木柚さん:
出してください!
藤野涼子さん:
お願いします!
中川大輔さん:
頑張ります!
マイソン:
楽しみですね!青木さんはジョニー・デップさんの作品に出たりといった経験もされていますが、ターニングポイントはありましたか?
青木柚さん:
大きく1つ挙げるとすれば『14の夜』という映画がターニングポイントだったかなと思います。それまでも作品には参加させていただいてましたが、それまではドラマも映画も関係なく“お仕事”という感じで参加していました。『14の夜』で初めて、映画ってこういうものなんだと感じました。しっかりキャラクターがある役柄をいただいたのもその作品で、雰囲気とか何を大事にするのかとか、そういう映画の良さ、映画の原体験みたいなものを、その撮影で感じました。今改めてその作品を観ても、今にはないものが詰まっていたり、ことあるごとに思い返すのは『14の夜』なのかなと思います。『14の夜』で僕を知ってくださった方も多いですし、今でも声をかけてくださる方も多いので思い入れがあります。
マイソン:
ある意味原点なんですね。藤野さんは、実は『ソロモンの偽証』の時にもインタビューをさせていただいたんです。
青木柚さん、中川大輔さん:
すごい!!
藤野涼子さん:
ありがとうございます!7年越しですね。
マイソン:
そうですね!『ソロモンの偽証』での役名を芸名にデビューして、当時からすごく大きなものを背負ってこられたんじゃないかなと思います。これまでに何か心境の変化はありましたか?
藤野涼子さん:
やっぱり役名を芸名にいただいたので、どうしても『ソロモンの偽証』の藤野涼子を思い出してしまうことは何度もあります。なので、少しその部分に囚われてしまっていることも学生の時はよくありました。藤野涼子だったらこうでないといけないとか、こういう芝居をしなければいけないというイメージにがんじがらめになっていました。でも、高校を卒業した時に休みが欲しいと思って、海外に留学させていただいたんです。その時に俳優の藤野涼子というよりも自分自身をさらけ出すことができて、俳優じゃない自分ってこういうレベルなんだな、逆にこういうこともできるんだなとすごく気付きを得られたんです。それから帰ってきて、今まで虚栄というか自分じゃないものを演じていた部分があったところを、今はちゃんと自分の心というか、自分の言葉で芝居をしていこうという風に変わったかなと思います。上手く言えないんですけど。
中川大輔さん:
それってなかなかないことだよね。
青木柚さん:
そうだよね。
マイソン:
では最後に一言ずつお願いしたいのですが、これまでに大きな影響を受けた作品や、俳優、監督など人物がいらっしゃったら教えてください。
藤野涼子さん:
私はジョニー・デップです。『シザーハンズ』がすごく好きで、何回も観ています。フィギュアも家にあります。そのぐらい大好きです。
青木柚さん:
全然知らなかった!
藤野涼子さん:
だから(ジョニー・デップさんと共演した)柚くんにいろいろ話を聞きたいなと思いつつ、好きすぎて緊張してしまって(笑)。
青木柚さん:
話をするだけで緊張しちゃうのか。
藤野涼子さん:
そう、プライベートとか聞いちゃうと。本当に羨ましいなと思った。あとで詳しく聞くわ。
マイソン:
ハハハハ!
中川大輔さん:
僕は一つに絞るのが難しいので変動性があるとして、『花とアリス』の蒼井優さんのお芝居が好きです。生きているなって。
青木柚さん:
僕は先日共演させていただいた北村有起哉さんです。その現場での経験はとても大きくて、こんなに年の離れた若者にここまで話してくれるんだとか、現場での佇まいとか、たくさん学ぶことがありました。もちろん前からすごく好きな俳優さんだったんですけど、北村さんのお芝居やその姿勢を見て、より吸収しようという気持ちで拝見することが多くなりました。
マイソン:
ありがとうございました!
2022年9月15日取材 PHOTO&TEXT by Myson
『モアザンワーズ/More Than Words』
2022年9月16日よりPrime Videoにて独占配信中
監督:橋爪駿輝
出演:藤野涼子/青木柚/中川大輔/兼近大樹(EXIT)/山崎紘菜/見上愛/関智一/大森南朋(特別出演)/上白石萌歌(特別出演)/斎藤工(特別出演)/ともさかりえ/佐々木蔵之介
ある夜、学校の外でばったり出会った美枝子(藤野涼子)と槙雄(青木柚)はお互いに気楽に話せる仲になり、同じアルバイト先に務めることに。2人はそこで働く大学生の永慈(中川大輔)に出会い、3人はすぐに打ち解け、プライベートでも一緒に過ごすようになる。そんななか、永慈にある感情が芽生えてきて…。
© 2022 NJcreation, All Rights Reserved.