2020年3月末に逝去された佐々部清監督の遺作『大綱引の恋』。佐々部清監督の作品は『八重子のハミング』に続き、『大綱引の恋』で2度目の出演となる中村優一さんにインタビューさせていただきました。鹿児島県川内の伝統的な行事を描いた本作で大綱引のヒーロー的役割を務めた中村さんに、ヒーロー像についてや、佐々部監督との思い出などをお聞きしました。
<PROFILE>
中村優一(なかむら ゆういち):福元弦太郎 役
1987年10月8日神奈川県生まれ。2005年ドラマ『ごくせん 第2シリーズ』にて俳優デビュー。その後、2005年『仮面ライダー響鬼』、2007年『仮面ライダー電王』と、平成仮面ライダーシリーズ2作品に出演し注目を浴び活動の場を広げる。主な出演作として、映画では、2008年『僕らの方程式』(内田英治監督)、2009年『湾岸ミッドナイトTHE MOVIE』(室賀厚監督)、2017年『スレイブメン』(井口昇監督)、2018年『恋のしずく』(瀬木直貴監督)、2019年『君から目が離せない~Eyes On You~』(篠原哲雄監督)など、ドラマでは、2015年『薄桜鬼SSL ~sweet school life~』、2018年『最後の晩ごはん』などがある。佐々部清監督作品は、今回が2017年『八重子のハミング』に続いて二度目の出演となる。
悔しさがバネになって今がある
マイソン:
私は本作を観て初めて“川内大綱引”という行事を知ったのですが、中村さんは以前からご存知でしたか?
中村優一さん:
僕もこの作品が決まるまでは知りませんでした。
マイソン:
撮影でもすごく大きな縄を使っていましたが、撮影する前と後で印象は変わりましたか?
中村優一さん:
事前に映像で拝見して何となくイメージはありましたが、映画の撮影前に実際の大綱引を観させていただいて、実際の迫力を体験できたので、すごく映画に活かせたと思います。あの大綱引は、当日の朝から太い綱を練るところから始まって、そこから大綱引が始まるんです。ちょうど2年前の大綱引の日が台風の日で、それでも土砂降りのなか、朝から綱を練っていたそうです。
マイソン:
えー!!でも、本作を観ると、地元ではこの伝統がすごく重要っていうのが伝わってきました。中村さんが演じた役どころは、行事としてもとても重要な立場でしたね。あの立場につく人は、ある意味ヒーローなんだろうなと感じました。中村さんは仮面ライダーなども演じられていますが、中村さんにとってのヒーロー像、ヒーローの定義ってありますか?
中村優一さん:
人それぞれにヒーローがいるんだと思います。ヒーローというと、悪いものから人を救うといった、子どもの時からずっと観ているヒーローのイメージもあるんですけど、大人になって考えた時に何かそれぞれに目標だったり、憧れ、カッコ良いと思える人や物事があるなら、それがヒーローかなって思います。世間一般のヒーローじゃなくて、一人ひとりに憧れるものだったり、目標とするものだったり、正義があって、それが人に迷惑をかけるものではなかったら、それはヒーローなんじゃないかなって。
マイソン:
ヒーロー自身がどうかというよりも、誰を、何をヒーローと考えるかという見る側の視点でのヒーローという感じですかね。
中村優一さん:
そうですね。だからこそ救われるという。
マイソン:
確かにそうですね。今回、佐々部監督の遺作となりましたが、監督との思い出があれば教えてください。
中村優一さん:
『八重子のハミング』という佐々部監督の映画にも出させていただいて、その前から佐々部監督の映画が好きだったので、出演できてすごく嬉しかったです。『大綱引の恋』にも出演されている升毅さんが主演だったんですけど、小さい頃から升さんもずっとテレビで観ていたので、佐々部監督や升さんがいるなんて、本当に憧れの現場でした。でも、それでめちゃめちゃ緊張してしまって成果を何も出せなかったんです。それが悔しくて、それからもずっと監督のドラマや映画を好きで観ていたのですが、今回のお話をいただいた時にはまず「何で僕?」と思いました(笑)。でも、すごく嬉しかったですし、今回こそは良い意味で何かをこの作品に残したいと思いました。監督からはずっと厳しいことしか言われずでしたが、『八重子のハミング』の時より話してくださるようになったので、少し距離が縮まったのかなと思いました。内々の関係者の試写の後で、佐々部監督から「もしまた新しい作品と、別のスケジュールが被った時、お前はどっちを取るんだ」と聞かれたんです。「もしかしたらまた出してくれるのかな?」と思って、何度も聞かれるたびに「佐々部監督を取ります」って答えてたんですが、それを楽しみにしていたのに亡くなられて、すごく寂しいです。皆でいる時の監督は結構クールで厳しいことも言ってくださるんですけど、電車の方向が同じで、監督と2人になることが多くて(笑)、その時は愛がある優しいことを言ってくださいました。そういう人間的な部分も大好きでした。
マイソン:
素敵な思い出ですね。ありがとうございます。では少し話題を変えまして、かなり若い頃から芸能界に入られましたが、元々このお仕事に興味があったんですか?
中村優一さん:
芸能界に興味はあったんですけど、僕はどちらかというと俳優よりも歌やダンスがやりたいというところから始まったんです。オーディションの時にもそう言って事務所に入ったんですが、事務所に入って1週間後くらいに映画のオーディションを受けました。その時は「何で映画のオーディションを受けているんだろう?」って思いながら、良いところまではいったんですが、結局落ちてしまったんです。それがすごく悔しくて、そこからオーディションに受かるために頑張ろうとなって、今の活動を始めました。
マイソン:
なるほど!逆に悔しさがバネになったんですね。
中村優一さん:
そうですね。そこからなかなか仕事が決まらず、ずっとオーディションを受けていた期間があって、事務所に入って1年くらいでようやく受かったのが“仮面ライダー”でした。悔しい気持ちがあったからこそ頑張れた部分はありますね。
マイソン:
映画やテレビ、舞台などいろいろなところで俳優をやってみて、俳優のおもしろさってどんなところにありますか?
中村優一さん:
正解がないのが難しくもあり、おもしろいところじゃないかなと思います。現場に行くまでめちゃめちゃ悩んで、現場に行って監督なり演出家さんに見せてからどうなるのかっていうのが決まって、それが苦痛なこともあるんですけど(笑)、めちゃくち悩めるのが良いところでもあり、おもしろいところなんじゃないかなと今は思えます。
マイソン:
コロナ禍でエンタメ業界にも変化が起きたり、お客さんが楽しむスタイルも変わってきていると思うのですが、前向きに思える変化は何かありますか?
中村優一さん:
コロナ禍になってからより規制される部分があって、作品の制作が止まってしまったりマイナスな部分もあると思うんですけど、作りたいと思うエネルギーがより強くなったんじゃないかなと思います。人間ってできないって言われたほうが「じゃあやってやろう!」って心理的に働くものがあるじゃないですか。引かれると押したくなるし、押されると引くし。当たり前なことが当たり前じゃなくなった時に動き出すものってあるんじゃないなかって思います。それはエンタメだけではないかもしれないですが。だからこそエンタメっていうものが変わってきているというか、今までとは違う出し方というか提供の仕方になるんだろうなって。
マイソン:
工夫も出てきますもんね。コロナ禍でできた趣味などはありますか?
中村優一さん:
家にいることが多くなったので、家の中をおしゃれにしたいなと思って、1回家具を全部捨てて、本当にマットレスだけになりました(笑)。
マイソン:
えー(笑)!!大胆ですね!1回リセットしようと思ったんですか?
中村優一さん:
家にいる時に、何か違うな、おしゃれじゃないなと思って。今まではそんなに気にしなかったんですよ。物とか何でも良いし、外に出る時だけそれなりの格好をしたら良いじゃんって思ってたんですけど、家にいることが長くなった瞬間に、家の中を綺麗にカッコ良くしたいなって、とりあえず1回ゼロにしようと思いました。本当に引っ越ししたて、上京したての部屋のようになりました(笑)。ご飯を床に置いて食べるみたいな。しかも、なかなか家具が届かなかったので、その期間が長くなってしまって(笑)。
マイソン:
揃うまで大変そうですが、すごくリフレッシュできそうですね(笑)!
中村優一さん:
全部揃うまでに3ヶ月くらいかかりました。捨てるのは早かったのですが、自分自身がこれってちゃんと決めたものじゃないとダメな性格なので、選ぶのに時間がかかりました。組み立てるのも時間がかかりましたし。
マイソン:
でも今はすごく居心地の良い家にいらっしゃるんですね。
中村優一さん:
そうですね。無駄に間接照明とかあります(笑)。
マイソン:
おしゃれで良いですね!
中村優一さん:
そこは今の状況に感謝しています。
マイソン:
では最後の質問で、これまで大きな影響を受けた映画や、俳優、監督がいらっしゃったら教えてください。
中村優一さん:
自分自身も今現在俳優の仕事をさせていただいていて、特に映画が好きなんですけど、現場に役者が入るのって、まず台本をいただくところからスタートして、自分のシーンで演じたら終わりじゃないですか。映画だったら舞台挨拶とか、今もこうやって取材をしていただいて、この作品について話す機会があるんですけど、僕達って台本ができあがってからしかスタートしていないから、すごく悔しいというか、ゼロから関わっているようで関わっていないという。僕はもっと作品に浸かっていたいという思いもあって、制作もしたいという気持ちが出てきた時に、勇気をもらえた作品があるんです。それが内田けんじ監督の『運命じゃない人』という作品です。この作品が大好きで、本とか撮影の仕方がめちゃめちゃおもしろかったんです。たとえ制作費が少なかったとしてもお金じゃないんだ、こうやって作ることができるんだなって。自分自身も俳優だけじゃなくて、何か作品を作っていきたい気持ちが今はあるので、すごくその作品に影響されました。
マイソン:
今後の制作活動も楽しみにしています。本日はありがとうございました!
2021年3月29日取材 PHOTO&TEXT by Myson
『大綱引の恋』
2021年5月7日より全国公開
※コロナの影響により初日が延期になる劇場がございます。正式な上映開始日は公式サイトにてご確認ください。
監督:佐々部清
出演:三浦貴大/知英/比嘉愛未/中村優一/松本若菜/西田聖志郎/朝加真由美/升毅/石野真子/金児憲史/金井勇太/伊㟢充則/安倍萌生/月影瞳/小倉一郎/恵俊彰(友情出演)/沢村一樹(友情出演)
配給:ショウゲート
毎年、地元の一大行事“川内大綱引”の大役を得ようと男達が必死になるなか、35歳で独身の有馬武志はひっそりと日々を過ごしていた。そんな矢先、母が突然家業から引退を表明し、有馬家に異変が起こり始める。
公式サイト REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
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