本作は、頭は良いけれど、すごく冷めている生徒達と、新しく赴任してきた教師の物語。今回、ゾクゾクとさせられる展開の中に、強いメッセージ性が隠されている本作を監督した、セバスチャン・マルニエさんにインタビューさせて頂きました。
<PROFILE>
セバスチャン・マルニエ
応用美術と映画を学び、“Mimi(ミミ)”(2011)、“Qu4tre(キャトル)”(2013)、“Une vie de patits fours(原題)”(2013)と3冊の小説を出版。その後、漫画出版社であるデルクールから出版されたグラフィック・ノベルがフランスのアルテ局でアニメシリーズ“Salaire net et monde de brutes broadcast(原題)”(2016)として放送され、アニメの脚本も共同執筆した。映画監督としては、3本の短編映画を監督し、2016年に映画『欲しがる女』で初の長編監督デビューを飾る。2019年日本公開の映画『スクールズ・アウト』では脚本と監督を務めた。
テーマとして常に興味があるのは、人間の凶暴性、マージナルな人達の過激なところ
マイソン:
まず環境問題と生徒達の問題行動と2つのテーマが融合されたところがすごくおもしろかったです。この2つを軸に描いた1番の狙いは何でしょうか?
セバスチャン・マルニエ監督:
生徒達の問題行動かどうかはわかりませんけど、いずれにしても若い人達が将来に希望を持てず、ある種のニヒリズムを持っていて、自殺願望や、徹底抗戦論者という側面を持った生徒達が、環境問題にも興味を示しているという意味で2つのテーマがあるというのは確かです。私自身も環境問題には大きな関心を寄せていて、すごく不安に思っている点でもあるんです。若い俳優達のキャスティングをしたのがちょうどパリのテロが起こった後だったんです。なので、キャスティング時に俳優の子達に、世界をどう見ているのか、環境問題に対して今後どうなると思うかと聞きました。非常に環境にしても将来にしても、悲観的だなという風に感じて、ある意味作品の流れが少し変わりました。
マイソン:
劇中でテロの避難訓練のシーンがありましたが、普通にやっていることなのでしょうか?
セバスチャン・マルニエ監督:
そうですね、今では義務付けられています。私自身は子どもがいないんですけど、プロデューサーに娘がいて、中学校に入るくらいの年なんです。初めて学校に連れていった時に「校庭の前にボーッとして立つな」みたいなことを学校から言われたと聞き、驚きました。その後に続いた言葉が特に衝撃的で、「そこにいると、テロのターゲットになりやすいから、校庭の前、階段のところにいるな」と言われたそうです。プロデューサーから聞いたその話がすごく印象に残ったんです。今では普通のことになっていて、小学校から高校まで、そういったテロの訓練は行われています。
マイソン:
それは先ほどおっしゃったパリのテロ事件以降じゃなくて、その前からだったんでしょうか?
セバスチャン・マルニエ監督:
そうですね、パリのテロというのは、“シャルリー・エブド”という新聞社の襲撃もありましたから、そういった一連のテロ攻撃が続いた後に訓練が導入されましたが、いずれにしても“9.11”が起きた後に全体的な厳戒態勢がフランスでも続いていると言っても良いかも知ませんね。
マイソン:
なるほど。今回メインのキャラクター達は15歳で中学校3年生の設定でしたが、あのクラスの子達が大人過ぎて行きすぎた行動をしているのか、子どもだから危ういのか、どっちなんだろうと観ながらすごく考えてしまいました。監督にとって15歳という年齢はどんなお年頃なのでしょうか?
セバスチャン・マルニエ監督:
15歳は難しい年頃ですよね。二度と戻りたくないですけどね(笑)。ただ今回出てきた話っていうのは、もちろん事実に基づいた話ではあるんですけど、例えば環境問題にしてもテロの訓練にしても何にしてもですが、もちろん創作している部分もあります。今回出てきた生徒達は、知能指数が非常に高い子ども達ということで、洞察力も普通の15歳に比べると非常に優れている、そういったことがあって、感受性も過剰なくらい持っているという設定で、世界に対する見方も非常に大人びているというか、そういったところが非常に印象に残ると思います。世界の今の状態は非常に危ういところがあって、感受性の強い子ども達から見たらどうなのかなという視点ですね。世界の終わりというんでしょうか、そういったことを子ども達は非常にロマンチックに感じてしまうところがあると思うんですね。大袈裟に世界に終わりを告げるということに対して、特別な思いを抱いている子ども達と言うんでしょうか。
マイソン:
最初の教室のシーンがすごく衝撃でしたが、どういう意図があったんでしょうか?
セバスチャン・マルニエ監督:
まずあのシーンを最初に入れることによって、不安を掻き立てると言うんでしょうか。元々すごく緊張させるような映画ですよね。それをはっきりとさせるという目的があります。私の作品は、ジャンル映画でもあり、作家主義の映画でもありますから、そこで映像と音でこういった映画になりますよということを最初から明示できると思いました。でも、ピエールという新しい教師がどこに行き着くのかはわからないようにしたんです。
マイソン:
ピエール先生や、他の大人キャラクターもいろいろ気になる行動があったんですが、大人の描き方でこだわった点はありますか?
セバスチャン・マルニエ監督:
今回の作品は原作があっての映画化で、実は原作の内容ともこの点が違うのですが、私は子どもと大人を対立させる形で脚本を書いたんですね。冒頭シーンの太陽で目がくらむという描写に投影したように、この作品に出てくる大人達は現実に向き合おうとしない、目が見えない盲目の状態だというところに繋がるんです。ピエールの仲間の教師達は、自分の生活があるからあまり深入りしようとしない。それよりもダンスをしたり、遊びに行ったりする。でも良い人達なんですよね。それに対して校長とアドバイザー的な女性はあまり子ども達にとって良い影響を与えない存在で、大人も2つに分かれると思うんですね。
マイソン:
たしかにそうでしたね。監督は小説も書かれていますが、映画の表現と小説の表現で、敢えて変えている点などはありますか?
セバスチャン・マルニエ監督:
最終の目標とするところが映画と小説では違うんですが、私自身のことで言うと、ずっと映画を作りたいなと思っていて、ただ表現する上であれば小説でも表現できるのではないか、何百万ユーロをかけることなく自己表現できるのは小説だということで、まず小説を書き始めたんです。ただ小説というのもある意味書く映画みたいな感じで、いつも書いている時は映像が浮かんでくるんです。そういった意味では同じような側面を持っていますし、映画にしても小説にしても、私はテーマとして常に興味があるのは、人間の凶暴性ですとか、マージナルな人達の過激なところとか、そういったところに興味があります。でも昔からジャンル文学、ジャンル映画というものに興味があって、必ずしも現実主義的なものでなくても現実の社会をいろいろと語ったり、取り上げたりするということに興味があって、その中でも特に不安とか恐怖とかホラーとか、そういうのが好きな人達に向けて現実世界を考えさせるような作品を届けたいと思っています。
マイソン:
では最後の質問で、日本以外の海外の映画祭もいろいろと回っていらっしゃいますよね。
セバスチャン・マルニエ監督:
そうですね、50近い映画祭に出品をしています。ただ次回作に既に取り組んでいるので、すべてには行けていないんですけど、ヴェネツィアで出品したのが大きくて、それが雪崩式に広がって通常の映画祭からジャンル映画に特化したスペイン本国のシッチェス映画祭といったところまで、いろいろなところで紹介して頂く機会を得ています。
マイソン:
1番おもしろかった反応の国はありますか?
セバスチャン・マルニエ監督:
どこかの国でというわけではないのですが、それぞれの国で、若い人達が持っている恐怖だとか、若い人達が大人に対して脅かすようなところとか、そういった反応を見るのが楽しかったですね。必ずしも安心できることばかりではない世の中ですけど、それでも大人の責任としては、子ども達に今環境がどうなっているのか、地球がどうなっているのかということを話していくことがすごく大切で、子ども達も私達が思っている以上に環境に対する意識は我々の世代より高いなと思っています。
マイソン:
本日はありがとうございました!
2019年6月20日取材 PHOTO & TEXT by Myson
『スクールズ・アウト』
2019年10月11日より「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション2019」ヒューマントラストシネマ渋谷、シネマスコーレ、シネ・リーブル梅田ほかにて全国上映
監督:セバスチャン・マルニエ
出演:ロラン・ラフィット/エマニュエル・ベルコ/グランジ
配給:ブラウニー
ある日、名門中等学校の優秀なクラスを受け持つ教師が、生徒達の目の前で教室の窓から飛び降りる事件が発生。ピエールは新たにそのクラスの担任としてやってくるが、6人の生徒達の奇妙な態度が気になり、放課後こっそりと様子をうかがうことにする。すると、彼らは信じられない行為を繰り返していた。
© Avenue B Productions – 2L Productions