若松孝二が名古屋に作ったミニシアターを舞台に、映画と映画館を愛する若者達の姿を描いた青春群像劇『青春ジャック 止められるか俺たちを2』。今回は、本作で金本法子役を演じた芋生悠さんにインタビューさせていただきました。ご自身と金本とで似ているところや、芋生さんご自身が青春時代に心をジャックされものについて直撃しました。
<PROFILE>
芋生悠(いもう はるか):金本法子 役
1997年12月18日生まれ。熊本県出身。2015年より俳優業をスタート。以降、映画、テレビドラマ、舞台、CMなどに多数出演。2020年、映画『ソワレ』で主演を飾り、注目される。その他近年の映画出演作に『こいびとのみつけかた』『夜明けのすべて』今後の公開作に『次元を超える RANSCENDING DIMENSIONS』などがある。
一緒に戦っている方達の存在が自分を奮い立たせてくれます
©若松プロダクション
シャミ:
本作は若松孝二監督が名古屋に作ったミニシアターを舞台にした群像劇となっていました。最初に脚本を読んだ時に物語や金本というキャラクターにどんな印象を受けましたか?
芋生悠さん:
映画館や映画に対する愛に溢れた作品だと感じました。前作も拝見していたので、ぜひ出演したいと思いました。実は完成稿前の台本では金本についてまだ掘り下げられていませんでした。次の稿をいただいた時に金本のボリュームが増えて彼女の背景が見えたことで、金本をより演じてみたいという気持ちが強くなりました。
シャミ:
最初から金本に親しみを感じていたんですね。金本は監督を目指しながらも撮りたいものが見つからず、映画からも離れられず、映画館でアルバイトを始めます。そんな彼女を芋生さんご自身はどのように捉えていましたか?もし事前に準備されたことがあれば教えてください。
芋生悠さん:
金本には在日という背景があり、しかも当時は女性監督としてやっていくことが厳しい時代で、すごく生きづらかったと思います。金本が女性監督を目指す上で、周りから舐められてしまったり、彼女自身才能がないことも感じていて、ずっと劣等感がつきまとっている人物だと感じました。当時、指紋押捺拒否があったということもあまり知らなかったので、そういった部分については調べました。
シャミ:
井上監督と本作や役について何かお話されたことはありますか?
芋生悠さん:
監督と役について話すことはほとんどありませんでしたが、撮影の時は本当に信頼してくださっている感覚がありました。むしろ井浦さんや東出さんと役やシーンについて話すことが多くあり、その内容を監督に「こういうのはどうですか?」と提案することがよくありました。そうすると監督は、その提案をおもしろがってくださり、「オッケー!」と言ってくださいました。もちろん脚本から離れすぎていたらきちんとダメだと言ってくださるので、本当に監督とキャストがお互いを信頼している感覚があって、ずっと安心感がありました。
シャミ:
信頼関係があったからこそより良いものが生まれていったんですね。キャストの方同士で監督に提案されたなかで特に印象に残っているシーンがあれば教えてください。
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芋生悠さん:
特に印象に残っているのは夜の屋上で金本と井上(杉田雷麟)がぶつかるシーンです。監督の細かい演出があったわけではなく、本当に自由演技というか、間の取り方も各々のタイミングでやっていました。金本が井上にキスをせがまれるシーンだったのですが、撮影中私の力が強すぎて、雷麟くんがなかなか近づくことができず、監督から「キスしないほうが良いですか?」と聞かれて、「いえ、キスします」と言ったことがありました。2人の感情がぶつかり合うシーンで、雷麟くんも本気で演じてくれたので、私も中途半端に演じるわけにはいかず、お互い妥協せずにやった結果、なかなかキスができなくなってしまいました(笑)。
シャミ:
あのシーンは怒りや嫉妬心といった2人の感情がぶつかる場面ですごく印象に残っていますが、そんな裏話があったんですね!
芋生悠さん:
2人があのまま寝るほうが良いのではという意見もあったのですが、監督と私には、2人が男女や監督としての優劣も関係なく、人として対等にぶつかり合うことが大事なのではないかという想いが共通でありました。結果としてとても印象的なシーンとなり、撮影後に監督と正解だったねと話していました。
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シャミ:
芋生さんご自身は俳優で金本は監督志望ということで、立場は違いますが、同じ映画業界で働く上で、金本に共感した点はありますか?
芋生悠さん:
自分に才能がないことを感じつつも、映画からなかなか離れられないところは似ていると感じました。自分自身を証明したいという想いが根底にあり、自分を表現するためのものが映画なのですが、なかなか上手くいかないもどかしさを抱えているんです。でも、人からどう言われようが本当にこれしかないというところが私と似ていると思いました。
シャミ:
そういうもどかしい気持ちになった時は、ご自身をどのように奮い立たせているのでしょうか?
芋生悠さん:
私は役者さんがすごく好きなので、一緒に戦っている方達の存在が自分を奮い立たせてくれます。共演している役者さん達が頑張っていると思うと、私ももう少し頑張ろうと思えるんです。今回の現場では監督もキャストも本当に全員が出会うべくして出会ったという感じがして、出会えて本当に良かったと思います。一緒にお仕事をしていて、改めて映画って楽しいなと感じられたので、私にとってすごく大事な方々です。
シャミ:
本作は若松監督が実際に作られたミニシアター「シネマスコーレ」が舞台となっていました。実際に現地で撮影されてみていかがでしたか?
芋生悠さん:
最高でした!実は今日はシネマスコーレのTシャツを着ているんです。
シャミ:
本当ですね!可愛い!!
芋生悠さん:
シネマスコーレは本当に実家に帰るような感覚になる場所です。こじんまりとした店構えもすごく良くて、チケット売り場とか昔ながらの雰囲気もお気に入りです。それからスタッフの方々も本当に素敵で、支配人(現代表)の木全さんもすごくおもしろくて大好きです。
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シャミ:
お話を聞いていると行ってみたくなりますね!昨今ミニシアターが減少傾向にありますが、芋生さんが思うミニシアターの魅力はどんな点だと思いますか?
芋生悠さん:
ミニシアターは映画のラインナップがすごくおもしろくて、過去作のリバイバル上映も多くあり、あとはメッセージ性の強い作品などシネコンではかからないような作品が観られるんです。実は皆さんの観たい作品はミニシアターで上映しているのではと思うくらい、本当におもしろい作品が揃っていると思います。あとは、働いている方々とお客さんの距離が近いことも良い点です。だから、ミニシアターは本当に閉館しないで欲しいです。
それこそこの作品でミニシアターを盛り上げられたら良いなと思います。井上監督ともたくさんのお客さんが観てくれると良いねという話をしていたので、有言実行にしたいです。この作品は映画館とすごく密接した作品なので、映画を作る過程や、映画館を守るためにこういう方達が動いているということをリアルに体感してもらえると思います。この作品を観るためにぜひミニシアターに行って欲しいです。
シャミ:
本作を通して芋生さんが感じた若松孝二監督の魅力を教えてください。
芋生悠さん:
若松監督はすごく映画愛に溢れていて下の世代の方達のことも面倒を見ていて、本当に付いていきたくなる方だと感じました。若松監督を演じた井浦さんも「自分にしか若松さんを演じることができない」と言うくらいすごく慕っていらして、本当に皆が大好きになる方なんだと感じました。
役者をしている時間が1番生きている心地がします
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シャミ:
本作では映画に青春をジャックされた方々の姿が描かれていました。芋生さんご自身は青春時代、もしくは最近心をジャックされたものは何かありますか?
芋生悠さん:
美術と空手と映画です。空手は10年やって青春を共にしました。美術は、中学の後半からずっと絵を描き続けていて、高校でも3年間みっちり美術をやっていました。そして、映画ですね。
シャミ:
どれもしっかりやられていてすごいですね!ちなみに映画はどのくらいの頃からご覧になっていたのでしょうか?
芋生悠さん:
地元に映画館がなかったので、実は子どもの頃はあまり映画に触れてこなかったんです。上京してからビデオをレンタルして、1日20時間くらい寝る間を惜しんで観ていたこともありました。そこで映画にハマり、私自身もインディーズ映画によく出るようになり、1年に十何本と出演していたので、本当にインディーズ映画と共に育った感覚があります。
シャミ:
1年に十何本も出演とはすごいですね!最初に俳優になろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
芋生悠さん:
中学生の頃に芸能界に憧れた時期があったんです。それでお母さんに芸能界に入りたいという手紙を書いて渡したのですが、その時は結局金本のように「そんなの無理だよね」と思って諦めてしまったんです。それから特別夢もなくのらりくらりとしていた時に美術と出会いました。それで、絵で自分を表現できることを発見して、そこからさらに表現することに対して興味を持ちました。そうしたらお母さんから「そういえば芸能界に入りたいと言っていなかった?」と言われ、「そうだった!」と思い出したんです。その頃は本当に表現をしたいという欲が増していたので、自分でオーディションにすぐ応募しました。オーディションのステージ上で“ロミオとジュリエット”の朗読をしたのですが、スポットライトの下で朗読することがすごく楽しくて、お芝居をしたいという気持ちがさらに強くなりました。
シャミ:
中学生の頃から始まっていたんですね。
芋生悠さん:
当時は本当に勉強もやりたくない、空手も行きたくない、何もしたくないという時期で、突然夢ができたと感じました。
©若松プロダクション
シャミ:
俳優のお仕事を始める前と後とでイメージが変わった部分はありましたか?
芋生悠さん:
俳優のお仕事を始める前は本当に何も考えていなくて、とにかくやってみようという想いでした。でも、やっていくうちにこれは大変だ、すごいところに入ってしまったと思いました(笑)。
シャミ:
そのくらい勢いがあることも大切ですよね。いざ入ってみて特にこれは大変だと感じたのはどんな時でしょうか?
芋生悠さん:
今でも常に大変だと感じています。私は役者をしている時間が1番生きている心地がするんです。でも、同時に辛かったり、しんどいと感じることもあり、悩むこともあります。これで合っているのかなと考えることもあるのですが、昔は全部正しいと思っていたので、あの頃の強さをもう一度取り戻したいです。
シャミ:
俳優のお仕事を続ける上で常に意識されていることや、気をつけていることは何かありますか?
芋生悠さん:
プライベートを楽しむことです。昔は役に侵食されがちで、プライベートがないタイプでした。でも、それだと持たないと感じてからは友達と遊んだり、美味しいものを食べに行ったりと、プライベートもちゃんと楽しむように心掛けています。
シャミ:
そのほうが結果的にお仕事も上手くいくような感じでしょうか?
芋生悠さん:
そうですね。でも、もっと欲を言えば仕事場でももっと楽にやれたら良いなと思います。
シャミ:
では最後の質問です。これまでで1番影響を受けた作品、もしくは俳優や監督など人物がいらっしゃったら教えてください。
芋生悠さん:
ウォン・カーウァイ監督の『ブエノスアイレス』は映画を好きになったきっかけの作品です。何回観ても色褪せないし、心に響くものがあって、映画を何度でも好きになれる作品です。出演している役者さん達も大好きです。
シャミ:
繰り返しご覧になっているんですね。
芋生悠さん:
はい、モノクロからカラーに変わる瞬間がすごく好きで、初めて観た時は「え!!」と声が出てしまいました。本当に映画だからこそ表現できるというか、二度とあそこに戻れないんだけど、映画の中に全部が詰まっているというのがすごく好きです。
シャミ:
本日はありがとうございました!
2024年2月9日取材 Photo& TEXT by Shamy
『青春ジャック 止められるか俺たちを2』
2024年3月15日より全国順次公開
脚本・監督:井上淳一
出演:井浦新/東出昌大/芋生悠/杉田雷麟/コムアイ/田中俊介/向里祐香/成田浬/吉岡睦雄/大⻄信満/タモト清嵐/山崎⻯太郎/田中偉登/髙橋雄祐/碧木愛莉/笹岡ひなり/有森也実/田中要次/田口トモロヲ/門脇⻨/田中麗奈/竹中直人
配給:若松プロダクション、スコーレ株式会社
舞台はビデオが普及し始め、映画館から人々の足が遠のき始めた1980年代。若松孝二は名古屋に“シネマスコーレ”というミニシアターを作る。支配人に抜擢されたのは、地元の名古屋でビデオカメラのセールスマンをやっていた木全純治。さらにそこへ映画に魅了された若者達が集まる。木全は若松に振り回されながらも、持ち前の明るさで経済的危機を乗り越えていくが…。
©若松プロダクション
関連作:
『止められるか、俺たちを』
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情報は2024年3月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。