『太陽の家』でシングルマザー役を演じた広末涼子さんにインタビューをさせて頂きました。実生活でもお母さんである広末さんは、これまでいろいろな作品で母親役を演じてこられましたが、その心境を聞いてみました。
<PROFILE>
広末涼子(ひろすえ りょうこ):池田芽衣 役
1980年7月18日生まれ。高知県出身。CMコンテストでグランプリ獲得後、同CMに出演しデビュー。以降、ドラマ『ビーチボーイズ』(1997)、『聖者の行進』(1998)、『リップスティック』(1999)など、数々の高視聴率ドラマに出演。1997年には『20世紀ノスタルジア』で映画初主演を飾った。2002年にはリュック・ベッソン製作、ジャン・レノと共演した『WASABI』が公開。ほか主な映画出演作に『おくりびと』(2008)、日本アカデミー賞・優秀主演女優賞を受賞した『ゼロの焦点』(2009)、日本アカデミー賞・優秀助演女優賞を受賞した『鍵泥棒のメソッド』(2012)、『はなちゃんのみそ汁』(15)『ミックス。』(17)『終わった人』(18)などがある。『太陽の家』では、保険会社の営業ウーマンでシングルマザーの池田芽衣役を好演。また、2020年公開の『嘘八百 京町ロワイヤル』(1月31日より全国公開)、『ステップ』(4月3日より全国公開)、WOWOWオリジナルドラマ『ワケあって火星に住みました~エラバレシ4ニン~』(第3話2月3日放送)にも出演。
1人の母として俳優として感じる、母親役の大きな責任とプレッシャー
マイソン:
これまでもいろいろなお母さん役を演じられてきて、子役の方とのお芝居は、やっぱり大人の方とは違う難しい部分があるんじゃないかと思ったんですが、いつもどんな工夫をされていますか?
広末涼子さん:
子どもって、それぞれの個性もそうですし、年齢によってもすごく違うので、小さいお子さんと共演する時は本当に仲良くならないと、画面で伝わりますよね。だから、コミュニケーションってとても大事だなと思います。それから自分も小さい頃から映画を観てきて、そういう経験のなかでも、動物と子どもには勝てないと思う部分があって。映画なんかでも無条件に涙腺を刺激するその力って何なんだろうって。無垢さなのか純粋さなのか、生命力なのか、計算のなさなのか、だからこそ子どもと向き合う時はなるべくフラットに仲良くなって、彼女彼らがお芝居しやすい環境を作ることが自分の仕事だと思っていますし、一緒に遊ぶことが大事だと感じています。30代でお母さん役をたくさん演じさせて頂いて、本当に大変な思いもたくさんしました(笑)。ですから、子どもは大好きなんですけど、私が母親役をやる時に子役をこれから決めようとしている段階だったら、監督に“その年齢の子を使うということはどういうことなのか”という意見をさせて頂くこともあります(笑)。本当にそれくらい大変で、単純に眠い時やお腹空いた時でも、仕事をさせなきゃいけない。私が1番近くでコントロールしなくてはいけないという部分も含めて、大人達が振り回されながら頑張るからこそ、作品の中で子どもの魅力が引き立てられるんだと思います。潤浩くんは本当にまだお芝居経験も少なかったはずですが、それがすごくプラスに出たと思います。すごくフラットに、無理に演じることなくお芝居に入っているのが今回とても良かったですね。
マイソン:
やはり広末さんは実生活でもお母さんだからこそ、何歳の子がどんなものかっていうのはすごくわかりますよね。
広末涼子さん:
そうですね。以前3歳と5歳の役で本当なら別の子役にしたいんだけど、「子どもが変わった」って思わせたくないから、「4歳の子にしようと思う」と言われたことがあったんです。子役の場合、自分の実年齢よりも小さい子の役をやることが多いのですが、4歳で5歳のセリフを言わないといけない。しかも4歳ってまだまだ幼いですからね。別の現場では、2歳の男の子を起用する際に、「絶妙に可愛くて、10回に1回はできるんです」と言われて、「10回やるんだ〜!!」って(笑)。それくらい子どもの存在って魅力的で、映画の中でも大きいんだろうなと感じて、その10回に1回の子役が成功した時に自分が失敗したことを考えたら恐ろしかったのですが…(笑)。私もそういう年になってきたのだと思って、責任とプレッシャーを感じながら頑張っています。
マイソン:
今回職人さんが主人公ということで、俳優さんで職人と思える要素ってどういうところだと思いますか?
広末涼子さん:
やっぱり役作りに対しての姿勢じゃないかなと思います。体重を何キロ落とすとかだけがすべてじゃないと思うのですが、それくらいの思い入れや、力を注いで時間をかけて役に挑むことだったり。単純に技術的なこと、例えば和服の所作など。『嘘八百 京町ロワイヤル』(2020年1月31日より全国公開)では、人生で初めて茶道をやらせて頂いたんです。今までもポールダンスや、盲目の役だったら点字の勉強、楽器だと三線(さんしん)を覚えたり、そういう身に付けないといけないものをフル装備して挑むというのは、職人的な部分かなと思います。セリフを覚えるとか、役の感情になるのは当たり前で、それを自然体でできるようにそこまでの準備を重ねて形作っていくのは独特な仕事だと思います。私も基本的なことが身に付いていないと不安で、集中できなくて感情が入らなかったりするので、そこはいくらでも時間をかけてレッスンしていきたいと思っています。でも終わるとビックリするくらいすぐ忘れちゃうんです(笑)。それこそ三線は、弦楽器をやったことがなかったので、すごく練習しました。歌いながら弾かないといけなかったので、頑張って練習して、吹き替えではなく自分で弾いて歌ったんです。それで三線を頂いて、数ヶ月後にお友達と家でパーティーをした時に、「せっかくだから三線で歌って」って言われたんですけど、すっかり忘れていて(笑)。新しいものを入れて出すという癖が付いていて、職業病だなと思いました。
マイソン:
脳がすごく活性化されそうですね。では、俳優さんをされていて自分のなかで変わる瞬間があるとしたらどんな時でしょうか?
広末涼子さん:
役を通して自分の人生では経験できないようなことをさせてもらったり、感情が生まれたりすることで成長させてもらっているなと思います。日常的に自分ならそんな感情の出し方はできないと思いつつも、すごく怒らなきゃいけなかったり。怒ったり泣いたりするのは、普段だと人目を気にしたり、抑制したりして、そんなに日常でできないと思うんです。でも、それを解放していくことで、自分の中にもこういう自分がいるのかなとか、そういう人はこういう気持ちなのかなと知ることにもなります。時代背景が違うことで、背負ってきたものや、自分の時代とは違う女性の立ち位置など、想像でしかないのですが、体感できるというのは、すごく人としても成長させてもらえるなって思います。
マイソン:
ストレス発散になる時もありますか?
広末涼子さん:
大人になると泣いて良い場所ってどんどん減ってきませんか?皆そうだと思うし、特に自分も女優という仕事をしていると、人の目も気になるので、普段は泣いちゃいけないと我慢することが多いです。でも、それが間違っていると指摘されることもあります。例えば出産の時に、すごく涙が出そうになったんですけど、ふと「ここで泣いたらドラマみたい」って思って我慢しちゃったんです。それを妹に話したら、「お姉ちゃん、そこは泣いて良いところだから」って言われて(笑)。そういうこととか、やっぱりすごく抑えてしまう癖が付いているので、お芝居の中で感情を解放できるのはもしかしたら発散になっているかも知れないですね。
マイソン:
最後に広末さんご自身に1番影響を与えた映画を教えてください。
広末涼子さん:
どれも毎回刺激をもらっていますが、『WASABI』は初めて出させて頂いた海外との合作映画で、当時まだ10代と20代の境目くらいでした。10代だと清純派の娘役とか妹役とか真面目な役が多かったんです。あまりハジけた役がなかった時に新しい役をもらって、しかも日本じゃなくて、誰も私のことを知らない現場で仕事をさせてもらえることがすごく楽しくて、一度日本から離れられて本当に良かったと思いました。皆からのイメージがすごく重荷になっていた年頃だったので、海外に行けたことで視点が変わりました。
マイソン:
もう一度『WASABI』を振り返って拝見させて頂きます。本日はありがとうございました!
2019年12月23日取材 PHOTO & TEXT by Myson
『太陽の家』
2020年1月17日(金)より全国公開
監督:権野元
出演:長渕剛/飯島直子 山口まゆ 潤浩/柄本明 上田晋也(友情出演)/瑛太 広末涼子
配給:REGENTS
大工の棟梁である川崎信吾は、ひょんなことからシングルマザーの池田芽衣と知り合い、彼女の息子、龍生の面倒をたまに見るようになる。父親を知らずに育った龍生は最初人見知りの素振りを見せていたが、信吾の豪快で明るい人柄にどんどん心を開いていく。一方芽衣は1人で息子を育てていかなければいけない状況のなか、大きな問題を抱えていて…。
©2019映画「太陽の家」製作委員会