日本と台湾の高雄を舞台に、離ればなれになった家族がそれぞれの苦しく切ない感情を抱えながら、もがき成長する姿が描かれたヒューマンドラマ『燕 Yan』。今回は本作で初主演を飾り、さらに企画と脚本にも携わっている水間ロンさんにリモート取材させて頂きました。企画段階から本作へ参加した感想や、また、水間さん自身、中国の大連出身で、日本の大阪育ちという経歴をお持ちということで、ご自身のアイデンティティ形成についても聞いてみました。
<PROFILE>
水間ロン(みずま ろん)
1989年生まれ。中国、大連出身、大阪育ち。大学を卒業後に上京し、俳優活動を始める。主なテレビドラマ出演作に、『深夜食堂』『闇金ウシジマくん3』『坂の途中の家』『スカム』『サウナーマン』『東京男子図鑑』などがあり、映画出演作に、『オケ老人!』『美しい星』『ビジランテ』『生きてるだけで、愛。』『青の帰り道』『嘘を愛する女』『マスカレード・ホテル』『パラレルワールド・ラブストーリー』『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』などがある。本作『燕 Yan』では、初主演を飾り、企画、脚本から参加している。
無意識に何かに線を引いていたら、その線を乗り越える勇気を持ってもらいたい
シャミ:
本作では主演と共に、企画と脚本にも参加されていますが、そういった俳優以外のお仕事には元々興味があったのでしょうか?
水間ロンさん:
やろうと思ったことはありませんでしたが、物語を考えたりするのは好きでした。今回は、脚本自体を書いているわけではないのですが、プロデューサーの松野恵美子さんが、映画を作りたいっていうことで、その思っていたことと、僕が小さい時から思っている“母親との関係”という部分に共通するところがあったので、映画を作ることに至りました。
シャミ:
ロケハンにも参加されたそうですが、実際に場所を選んだり、何か意見を出されたりもしましたか?
水間ロンさん:
今回は、フィルム・コミッションが付いていたわけではなかったので、監督とプロデューサーと一緒に回って、突撃でインターホンを押して、「家の中を見せてもらえませんか?」という感じだったんです。ロケ場所選び自体には、僕はあまり携わっていなくて、監督やプロデューサーが選んでいる間、僕はお邪魔した家の子ども達と遊んだり、そこで食べ物をごちそうになったりしていて、普通に観光気分でした(笑)。
シャミ:
楽しそうですね!今回企画の段階から参加されて、俳優業のほうにプラスになった点などはありましたか?
水間ロンさん:
映画が作られる裏側の過程を知ることができたのは、自分の中で大きなことだったと思います。具体的にこれからの俳優活動にどう糧になるのかはわかりませんが。
シャミ:
本作には、ご自身の経験も脚本に反映されているようですが、具体的にはどういったシーンに反映されているのでしょうか?
水間ロンさん:
水餃子の中にコインが入っているシーンとか、あとは燕が小さい頃に、お母さんに「日本人のママが良かった」って言うシーン、それから「お母さんの作るお弁当が嫌だったんだ」って話していた部分は僕自身が経験したところです。
シャミ:
そういったご自身の経験も反映されている人物を演じる上で、難しかった点や気を付けた点などはありますか?
水間ロンさん:
演じる上では、これが自分の話だという風には考えていなくて、「燕という役を演じるためにどうしよう」と考えていたので、切り替えの必要はありませんでした。特に難しかった点は、言葉ですね。中国語が話せるといっても、ネイティブではないので。燕も中国語がネイティブな人物ではなかったので、そこは大丈夫でしたが、中華圏の方に伝えるっていう意味では言葉をしっかりやろうと気を付けていましたし、難しかった点でもあります。
シャミ:
燕は繊細なキャラクターで、言葉でたくさん語るというよりも表情や雰囲気で訴えるシーンも多かったように思ったのですが、そういった部分で工夫されたことなどはありますか?
水間ロンさん:
それはあまり意識していませんでしたが、ずっと準備してきて、燕がどういう風に生きてきたのかというのが、皆共通認識としてありました。だから、そこから自然に出た表情だったと思います。あとは監督のカメラワークにすごく助けられました。
シャミ:
あと、主人公が子どもの頃に名前や、お弁当のことを友達に指摘されて、居心地悪そうにしているシーンがすごく印象的でした。こういったシーンにご自身の経験も反映されているということでしたが、水間さんご自身、アイデンティティの形成で1番葛藤したのはどんな時でしたか?
水間ロンさん:
小さい頃は特に日常的に思っていたので、こういう時にっていうのはありませんが、僕の場合は周りの環境にすごく恵まれたので、いじめられるとかそういうこともなく、自分を追い込むこともありませんでした。でも19歳の頃に父親が倒れたことをきっかけに、いろいろ話すようになって、そこでちゃんと自分のアイデンティティとか、ルーツに向き合うことができたので、そこがターニングポイントになったと思います。且つ、自分でもいろいろなことを経験して、時間と共に徐々に何人(なにじん)でも関係ないなって思えるようになりました。
シャミ:
今回、台湾には何回か行かれたそうですが、お仕事の合間にどこかに行ったり、何か台湾料理は食べましたか?1番良かったものや、オススメがあれば教えてください。
水間ロンさん:
高雄のロケ地で、燕のお母さんの家があった港町は、ロケハンで行った時から印象が強かったです。高雄は、すごく発展した町なんですけど、少し行くと港町があって、そこから高雄の中心にあるビル群が見えて、そのギャップが画としてもカッコ良いし、ストーリーにも合うし、すごく良くて印象に残っています。食べ物に関しては、台湾は本当に何でも美味しくて、何か特別に美味しかったものを挙げるとなると、難しいですね(笑)。でも、美味しいか美味しくないかは置いておいて、臭豆腐はぜひ挑戦して欲しいです。
シャミ:
臭豆腐ですか!?匂いがすごいってよく聞きますが(笑)。
水間ロンさん:
匂いは本当に強烈です(笑)。でもすごく美味しいんですよ。僕は、日本から台湾に行く人にはいつも薦めるし、食べさせているんですけど、反応は五分五分というところですね(笑)。
シャミ:
そうなんですね。台湾に行った時には、ぜひ挑戦してみます!
水間ロンさん:
ぜひ!あと、劇中でも夜市のシーンがありますが、本当に台北や高雄、他の町でも夜市が至るところにあるんです。毎日すごく賑わっていて、特に撮影で使った高雄の瑞豊夜市(ずいほうよいち)というのは、お祭り感があり、子どもが楽しめる射的とか、遊べるものもたくさんあっておもしろかったです。
シャミ:
本当にお祭りのようですね。それが毎日あるなんて羨ましいです!
水間ロンさん:
そうですよね。本当に日本にもあれば良いのになって思います。
シャミ:
では、水間さんご自身のことをお伺いしたいのですが、元々俳優になりたいと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
水間ロンさん:
両親がジャッキー・チェンを好きで、小さい頃はいつも横でジャッキーが出ている映画を観ていて、それが映画やテレビにハマるきっかけになったと思います。でも当時は、まだ俳優になりたいと思ったわけではなくて、高校生の時に進路を考えた時に、「将来何になろうかな。俳優をやってみたいな」くらいの感覚でした。
シャミ:
中国の学校を去年卒業されて、中国でも俳優活動をされているということですが、日本と中国との俳優事情で何か違う点はありますか?
水間ロンさん:
中国では、映画学校の1年のコースに通っていて卒業しました。俳優の違いはどうでしょう。根本的には同じで、あまり日本と変わらないと思います。
シャミ:
そうなんですね。今後も日本と中国の両方で俳優活動を続けられますか?逆にハリウッドとか欧米にも興味はありますか?
水間ロンさん:
日本と中国の両方で続けていきます!もちろんどこの国でも興味があります。いろいろな文化に触れたり、いろいろな経験がしたいのでチャンスがあればどこの国でも。おもしろい作品があれば、すごくやりたいなと思います。
シャミ:
今後のご活躍も楽しみにしています!では、最後にこれから本作を観るトーキョー女子映画部のユーザーに向けて、本作をどう観て欲しいか、1番観て欲しいポイントを教えてください。
水間ロンさん:
劇中の「何人(なにじん)だと思う?」という会話のやり取りにも集約されていると思うのですが、燕のように何人なのかというだけでなく、世の中にはもっと身近なところで、何かに線を引いて、悩まれている方がいると思うんです。でもそういうことは本当に「どっちでもいいんだよ」って返してあげたいくらい、そんなに悩まなくて良いことだと思うんです。だから無意識に何かに線を引いている方がいたら、この映画を観て、その線を乗り越える勇気を持ってもらえたらと思います。それから、台湾は本当に美しい場所で、特に日本の女性は好きになると思うので、もう少し新型コロナウイルスのことが落ち着いたら、これをきっかけに、ぜひ遊びに行って欲しいと思います。この映画のロケ地にもなっている高雄は、特にオススメです!
シャミ:
本当にこの作品を観ていると台湾に行きたくなりますよね。ありがとうございました!
2020年5月25日取材 TEXT by Shamy
『燕 Yan』
2020年6月5日より新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
監督・撮影:今村圭佑
出演:水間ロン 山中崇 テイ龍進 長野里美 田中要次 宇都宮太良 南出凌嘉 林恩均/平田満 一青窈
配給:catpower
28歳の早川燕は、ある日、埼玉の父から台湾の高雄に住む兄に、ある書類を届けて欲しいと頼まれる。しかし、燕は5歳の時に台湾出身の母が、兄だけを連れていなくなってしまったという過去を持ち、複雑な感情を抱いていた。母はどんな思いで自分を捨てたのか?なぜ手紙すらくれなかったのか?20年以上の月日が経った今、燕はさまざまな思いを抱え、台湾へと旅立つ…。
©2019「燕 Yan」製作委員会