前回は記憶障害にまつわるお話を取り上げましたが、やはり気になるのは“物忘れ”と認知症の違いです。そこで今回は認知症を取り上げます。
記憶機能の低下だけではない。認知症にもいろいろある
まず認知症とは何か。下山ほか(2009)では、認知症とは「いったん獲得した知的機能が、器質性障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活が営めなくなっている状態」としています。また、認知症といっても種類がさまざまで、アルツハイマー病による認知症、血管性認知症、外傷性脳損傷による認知症、パーキンソン病による認知症など、原因や症状が異なる認知症が多くあります。
では、物忘れと認知症の違いは何なのでしょうか?丹野ほか(2015)では、高齢者の物忘れとアルツハイマー病との違いについて、「物忘れは体験の一部を忘れるものだが、認知症の場合はすべてを忘れる」「物忘れは頻度が増えても物忘れに留まるが、認知症は認知障害、見当識障害などに進行する」「物忘れの場合は物忘れを自覚して心配するが、認知症の場合は自分の欠陥を自覚できず、かえって忘れたことを否定したりする」と例を挙げています。日常でよくある例だと、物忘れの場合は何を食べたかを忘れるけれど、認知症の場合は食べたことを忘れるというわけです。
また認知症は、記憶障害だけが顕著な症状というわけではありません。丹野ほか(2015)では、神経認知障害に分類される下記の4種の認知症の特徴が紹介されています。
- アルツハイマー病:根気のなさや気力低下から始まり、記憶障害、見当識障害、実行機能の障害が徐々に現れる。
- 脳血管性認知症:脳出血や脳梗塞が原因で生じ、症状の変動が大きい。機能が正常な領域と異常な領域が混在する。
- レヴィー小体型認知症:頭が冴えている時とぼんやりしている時の差が大きい。幻視がある。パーキンソン病で見られる身体的症状が初期から出現する。
- ピック病:初期には記憶障害よりも、自分勝手な行動、反社会的な行動、常同行動、食行動異常などが目立ち、性格も変化したように見える。まともに考えようとしない「考え無精」も特徴。
こういったように、さまざまな症状、原因があるので、認知症かどうかは医師の判断が必要です。では、認知症になると症状を緩和することはできないのでしょうか?
ドキュメンタリー映画『僕がジョンと呼ばれるまで』では、「脳トレ」ブームを作った東北大学の川島隆太教授と公文教育研究会と介護現場の協力によって生まれた認知症改善プログラム「学習療法」を使ったトレーニングの様子が収められています。挑戦しているのは、アメリカのオハイオ州にある、平均年齢80歳以上の人々が暮らす介護施設にいる認知症のおばあちゃん達。彼女達の中には、若い頃はバリバリ働き、引退後も活発だった人もいますが、本当に誰がかかるのかわからないんだなと感じます。
一方、ドキュメンタリー映画『パーソナル・ソング』では、アルツハイマー病の患者にその人が好きだった音楽を聴いてもらった際、どんな反応を見せるかを映しだしています。そこには、普段ほぼ反応のない患者でも音楽を聴いた途端に身体を動かし始めたり、豊かな表情に変わったりする様子が描かれています。また、脳のメカニズムなども紹介されていて、なぜ音楽が効果があるのかについて述べられています。このご時世、高額な医療に頼れない事情がある人も多いと思いますが、音楽は費用もそれほどかからず誰にでも試すことができる点で希望をもらえます。
高齢化社会を生きる私達にとって、認知症は、身近な人、そして将来の自分自身にも関わってくるかも知れません。さらに若年性認知症もあるので、誰も他人事とは言えません。ストレスが多い社会になり、今は新型コロナウィルス感染症の影響で余計にストレスフルな生活になっています。また人との接触が限られていることでコミュニケーションが減ったり、心配事が増えたり、運動不足になったり、環境の変化が心身に及ぼす影響も無視できません。前述のとおり、原因はいろいろあるので予防できることできないことはありますが、自分の健康を過信し過ぎず気を配りたいですね。
<参考・引用文献>
下山晴彦ほか(2009)「やわらかアカデミズム・<わかる>シリーズ よくわかる臨床心理学[改定新版]」ミネルヴァ書房
丹野義彦・石垣琢磨・毛利伊吹・佐々木淳・杉山明子(2015)「臨床心理学」有斐閣
『僕がジョンと呼ばれるまで』
上映会形式で順次公開中→詳細は公式サイトへ
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
ジョンは毎日おばあちゃん達に「僕の名前を知っていますか?」と問いますが、「いいえ」と返されます。でも、おばあちゃん達が、簡単な「読み」「書き」「計算」を行う学習療法(認知症改善プログラム)を続けていくと…。
©2013仙台放送
『パーソナル・ソング』
Amazonプライムビデオにて配信中(レンタル、セルもあり)
DVDレンタル&発売中
音楽療法に効果があるのかを追った本作では、映画『レナードの朝』の原作者であり、著名な神経学者、現コロンビア大学医科大学院教授のオリバー・サックス医師が、音楽が脳に与える影響について解説しています。
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TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)