本企画では、ウェルビーイングを実現するコツを教えてくれる映画をご紹介しています。今回は旅先で自己と向き合う物語を描いた『東京カウボーイ』と『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』を題材にウェルビーイングのポイントを解説します。
ウェルビーイング(Well-being)とは
●身体的・精神的・社会的に良い状態にあること(文部科学省)
●持続的な幸福のあり方(セリグマン,2014)
→さらに詳細はこちら
ウェルビーイングの5要素
- ポジティブ感情
- エンゲージメント(何かに夢中になり没我する感覚。フロー状態と関係がある)
- 意味・意義
- ポジティブな関係性
- 達成感
※ウェルビーイングの構成要素は研究者によって諸説ある中で、上記は、セリグマン(2014)を採用しています。
今回の題材映画1
『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』
2024年6月7日より全国公開
松竹
監督:へティ・マクドナルド
出演:ジム・ブロードベント/ペネロープ・ウィルトン
公式サイト ムビチケ購入はこちら
本作は、長年疎遠になっていた親友から余命わずかだという便りをもらったのをきっかけに、主人公のハロルド・フライ(ジム・ブロードベント)が800キロの道のりをなんと歩いて親友を励ましに行くというストーリーです。ハロルドはなぜそんなに遠い道のりをわざわざ歩いていくのでしょうか。その答えは劇中で徐々に明かされていきます。
ハロルドは初め、手紙で返事をしようと、家のすぐそばにある郵便ポストに投函するつもりで出かけます。だから、そもそも旅に出るつもりではなく身支度もしていません。でも、あるきっかけをもとにハロルドは、800㎞を歩いて親友に会いに行くことに決めるのです。
© Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022
『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』に観る、ウェルビーイング5つのポイント
■ポジティブ感情:ハロルドは、親友の病状は重いけれど、彼女はきっと良くなると信じています。
■エンゲージメント:ハロルドは、親友のいるところまで歩き続ける行為がそのまま信じる心の証明になると考えていて、とにかくゴールを目指して前進し続けます。
■意味・意義:この旅は、彼が自分を許せないでいる過去の出来事への償いのような意味があります。
■ポジティブな関係性:物語の始まりの時点では問題を抱えていた関係が、旅をすることで変化していきます。道中で出会う見知らぬ人々との交流にもポジティブな関係性があります。
■達成感:ハロルドは身も心もボロボロになりながら進み続けることで、これまで目を背けていた辛い過去と向き合っています。この旅を貫徹することは、彼にこの上ない達成感をもたらし、それは彼自身の心を救うことになるかもしれません。
この物語は、サブタイトルに“まさかの旅立ち”とあるように、ふと思い立って始まる旅を描いています。最終的に800㎞を歩くなんて大ごとですが、ハロルドの最初の一歩はすごく小さいものでした。ふらっと近所に散歩に行くくらいの一歩が、進み続けるにつれて、大きな一歩に変わっていく。日常的にできる小さなことから始めて、少しずつ前に進めば、知らぬ間に大きなことを成し遂げられる。そんなお手本を見せてくれる物語であり、人はいつでもやり直せるし、自分を許すことも大切だと教えてくれる物語です。
今回の題材映画2
『東京カウボーイ』
2024年6月7日より全国順次公開
マジックアワー
監督:マーク・マリオット
出演:井浦新/ゴヤ・ロブレス/藤谷文子/ロビン・ワイガート/國村隼
公式サイト
企業を買収する仕事に就いていた主人公のサカイヒデキ(井浦新)は、数字ばかりを見て仕事をしていました。ヒデキはある日、経営不振に陥っているアメリカの牧場を立て直すプランを思いつき、モンタナに出張に出かけます。でも、現地に着いたそばから波乱続きで、牧場の人達にも相手にされません。そんななか、牧場のメンバーの1人ハビエルと交流するようになり、徐々に変化していきます。
『東京カウボーイ』に観る、ウェルビーイング5つのポイント
■ポジティブ感情:ヒデキは最初ユーモアの通じない人間でしたが、徐々に牧場の人達やその土地のことを知ろうという気持ちを持ち始めます。
■エンゲージメント:牧場を何とかしようという目的は変わりませんが、数字のためではなく人のために成し遂げようという気持ちになってから、ヒデキは“カウボーイ”になれるよう励みます。
■意味・意義:モンタナで過ごし、自分を見つめ直すきっかけを得たヒデキは、皆のためになるような方法を選ぶことに意味・意義を感じ始めます。
■ポジティブな関係性:モンタナで出会った人々とのポジティブな関係性は、既存の人間関係にも良い影響をもたらします。
■達成感:ヒデキは牧場を救うという目的の先に、自分自身に足りなかったものを見つけます。だから、牧場をどう救うのかが達成の鍵となります。
『東京カウボーイ』の主人公ヒデキも、最初はただの出張としてモンタナに来ただけです。英語があまり堪能ではないヒデキは、たどたどしい言葉でその場を乗り切るしかない状況に追いやられます。それが功を奏して、自ずと自分の殻を破ることになります。ヒデキはモンタナに来る前は、自分が幸せなのかどうかすら意識していないように見えます。でも、漠然と何かが足りないと感じていたヒデキは、知らない土地に来て、自分の殻を破れたからこそ、自分の“足りない部分”に気づいていきます。
『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』と『東京カウボーイ』の共通点
両作の主人公とも、思いがけない旅に出たこと、つまりこれまでの世界から一歩出たことで大きく変化していきます。そして、2人とも何かを捨てて、新たに大事なものを得ます。「広い世界に出て、これまで執着していたものを捨てる」なんて、幸せになるためのありきたりのコツなのかもしれませんが、実際にやるとなると難しい。でも、こうして映画でお手本を観ることで、少し気持ちが動くだけでも小さな一歩といえるのではないでしょうか。
<参考・引用文献>
文部科学省「ウェルビーイングの向上について(次期教育振興基本計画における方向性)」中央教育審議会教育振興基本計画部会(第13回)会議資料【資料8】
マーティン・セリグマン(2014)(宇野カオリ訳)『ポジティブ心理学の挑戦“幸福”から“持続的幸福”へ』ディスカヴァー・トゥエンティワン,東京
TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)
本ページには一部アフィリエイト広告のリンクが含まれます。
情報は2024年6月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。