連続殺人犯にフォーカスした連載の4回目となる今回は、責任能力について取り上げます。
<参考資料>
小西聖子、伊藤晋二(2003)「犯罪心理学―加害者のこころ、被害者のこころ (武蔵野大学通信教育部テキストシリーズ)」(角川学芸出版)
『殺人鬼との対談 テッド・バンディの場合』Netflix/ドキュメンタリー
『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』映画
下記は、上記で語られている内容から一部引用しまとめた上で、映画に関するところは本記事筆者の考察を掲載しています。
国によって、またアメリカでは州によって法律が異なりますが、日本では刑法上、①構成要件該当性、②違法性、③責任(有責性)が犯罪の成立要件になります。
①構成要件該当性:犯罪、窃盗のように、刑罰法規に規定された法律上の犯罪類型をいい、現実の行為がこれに該当することを構成要件該当性という。
②違法性:その行為が客観的に法の命令・禁止に違反していること
③責任(有責性):適法な行為をすべきであったのに違法なことをしたことに対する法的非難可能性である。
刑法第39条
心神喪失者の行為は、罰しない
心神耗弱者の行為は、その刑を軽減する
責任能力の判定については、
【生物学的指標】被鑑定人が精神医学的に精神障害があるかどうかであり、診断名もあわせて明記する。
【心理学的指標】被鑑定人が犯行時に事理を弁識し弁識に従って行為する能力を完全に有していた(=完全責任能力)か、著しく障害されていた(=限定責任能力)か、あるいは失っていたか(=責任無能力)かのいずれかに相当したかということである。
※「犯罪心理学―加害者のこころ、被害者のこころ (武蔵野大学通信教育部テキストシリーズ)」(角川学芸出版)より引用。
犯罪として扱うには、上記の①〜③の要件を満たす必要があり、また起訴・不起訴の判断、有罪の場合は刑罰を決定するために、精神鑑定が行われる場合があります。精神鑑定には、起訴前鑑定(嘱託精神鑑定、簡易鑑定)と、正式鑑定(公判精神鑑定)があり、それぞれ手続きが異なります。
では、被鑑定人が刑を受けないもしくは軽くするために詐病(精神病を装うこと)は可能なのでしょうか?現在、生理学的指標、供述心理学的指標、心理検査上の指標によって、詐病を見破ろうとする試みは実施されています。ただ、その技術を把握した上で詐病を試みる者がいないとも限らず、鑑定人の技術に頼る以外の検出技術の開発が必要だと言われています。
一方、「責任能力がない」とされることに抵抗を示す者もいます。死刑囚として長らく収監されていたテッド・バンディは、1986年、死刑反対の立場を取っていた弁護士に弁護されることになり、死刑執行の1週間前に精神鑑定を受けました。その頃の取材によると、テッドは責任能力がないとされることは侮辱であり自分は異常ではないと言っています。精神鑑定の結果、テッドは躁鬱病だと診断され、その後2度死刑執行を延期になりましたが、彼は最後まで必死に死刑を逃れようとしていました。でも彼の切り札は“自白”で、彼しか知り得ない事件の真相を語ると告げることでまた時間稼ぎをしようとしていたと見られます。その後、テッドの死刑は1989年1月24日に執行されました。
1970年から1975年にかけて、ドイツで4人の女性を殺害したフリッツ・ホンカはかなりのアルコール中毒でした。映画『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』では、アルコールに溺れては、女性を家に連れ込み暴行をする様子が描かれています。後に彼は終身刑となっていますが、現在の日本ではアルコールによる影響も責任能力の有無を判定する1つの指標となります。「単純酩酊」では、刑事責任は完全責任能力が認められ、量的、質的に異常な「異常酩酊」のうち、「複雑酩酊」は部分責任能力(心神耗弱)、「病的酩酊」では、責任無能力(心神喪失)が認められることが多いとされています。
このように、犯人が捕まってもすぐに処罰されるわけではなく、罪に問えるのかどうかという過程があります。また責任能力がないと判定され、措置入院になった場合や退院後の対処方法にも大きな課題があります。皆さんを怖がらせるつもりはありませんが、こうなると「自分には関係ない」とは言い切れない身近な問題であることは事実として受け入れなければいけないのではと感じます。
『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』
2020年2月14日より全国公開
R-15+
公式サイト REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
1970年から1975年にかけて、ドイツで4人の女性を殺害した実在の連続殺人犯フリッツ・ホンカの実話を基に、加害者側の視点で描いた小説“The Golden Glove”を映画化。
©2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathé Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH
『39 刑法第三十九条』
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刑法第三十九条の規定をめぐり、犯人による詐病なのか否かを争う心理サスペンス。
実在の連続殺人犯にまつわる映画
『ゾディアック』
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“ゾディアック”と名乗る連続殺人犯による事件解決に奔走する男達の物語。デビッド・フィンチャーが監督を務め、ジェイク・ギレンホール、マーク・ラファロ、ロバート・ダウニーJr.が出演。
『サマー・オブ・サム』
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1976年から1977年にかけてニューヨークで連続殺人を犯したデビッド・バーコウィッツの事件を描いた作品。
『フロム・ヘル』
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1888年、イギリス、ロンドンで連続発生した未解決の猟奇殺人事件の犯人、通称“切り裂きジャック”をジョニー・デップが演じる。
TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)